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顛末

 新月の昇る夜、大樹の森に住まう魍魎共は皆息を潜めている。

森にはいつとも無く静けさが訪れていた。

 

 グォオオオアアアアア


 突如地響きのごとき咆哮が木霊する。

その主は荒々しい呼吸から口元に湯気を纏わせおよそ人の倍程の巨躯で樹から樹へと飛び駆けていた。

 

 鬼である。


 鬼の右腕は斬られて無く、その断面からは黒き瘴気を帯びた血液がたなびくように止め処なく流れ出していた。息を切らし時折叫んでは痛みを堪えて、なお尋常ならざる速度で飛び続けている。

 

 その跡を音もなく追う黒装束の衆。

 速さではいまだ追いつけはしないが、木々に付着した鬼の血液と気配を頼りに的確に追い詰めていく。その者達、国王に件の鬼の討伐を命ぜられた隠密執行の手練れ衆である。この衆、特に名を持たず頭領と呼ばれる一人の男が率いていた。数は五百とも千とも言われるが定かではなく、現在鬼を追っているのはそのうち精鋭と呼ばれる三十余名である。現任務において足の早い軽装部隊が先行し時折指笛で位置を後方に伝えている。


 本隊に一際甲高い音が届いた。発見の合図である。

 最前では四人一組の軽装班がいち早く鬼を目前に捉えていた。

「奴の動きが止まった、四方に散れ、縛の陣」

そう一人が指示すると四人は鬼を囲むように周囲の木々に散る。そして各々に弓を構えると一斉に鬼へと発射した。この矢、鏃には返しの爪がありさらに細い鎖が繋がってその鎖の先を持つ手には鉤爪がある。標的に打ち込んで反対の鉤爪は木などに固定する。同時に複数で対面に行うことでその場に標的を捕獲する。これを縛の陣と呼んだ。

 四人は同じ間隔を保ちながら方々に飛び回り何度も打ち込んでいく。

そうして鬼を中心に幾つもの鎖が伸び周囲の木々に繋がれた様はさながら蜘蛛の巣であった。

 

 鬼は微動だにしない。

 一人が携帯していた折りたたみの槍を展開し鎖を足場に突撃する。

 槍が鬼の胸を穿つ。

 それを見て残りの三人も方々から飛び出していく。

 二人目の槍が鬼を捉えたその時、鬼は自らの腹を破り大量の毒酸を撒き散らした。四人は散開してそれを避けるがその内最接近していた二人は捕まり胸から上が跡形もなく溶けて消えた。残りの二人が怯まず回り込み槍を突き立てると、鬼の胸に更に二本の刃を穿つ。

 しかし虚しく、隻腕の一払いで二人の首は飛ばされてしまった。


 鬼はブチブチと鈍い音をたてながら己に食い刺さる幾つもの鏃を引き抜いて大きなため息を吐く。腹を抑え溢れ出る瘴気を引きずり森を進んだ。

 

 足を止めた鬼。とうとう本隊も追い着き、いつの間にか開けた景色が広がっていた。森を抜け先の無い崖である。鬼は崖を背に方々に殺気を放ち胸の槍を引き抜きそれを構え牽制する。

 

 一刻の間が生まれた。

 

 丁度時を同じくしてその崖の下をいく馬車が一つ。その後方に馬に乗る2人の護衛が追従している。馬車の中では一人の妊婦が横たわり、額に汗を滲ませて息んでいた。高貴な者らしくその周りで召使い達が介抱している。妊婦は大きく息むと、けたたましい叫び声を上げた。同時に赤ん坊の泣き声が響き渡る。召使いの一人が取り上げた赤ん坊を母となった女に寄せると、その顔は僅かに笑みを浮かべ綻んだ。

 

 全く同刻同じく僅かに笑みを浮かべる顔がもう一つ。

 鬼である。


 赤ん坊の泣き声はその上の緊張地帯に届き及んでいた。同じく泣き声を聞き標的の表情に何かを悟った手練れ衆は、頭領の合図と共に焦るように飛び掛った。


 鬼はその手の槍を投げ捨てて、身を翻し全速力で飛び降りる。手練が一人また一人としがみつき短剣を抜いた。鬼の絶叫が響き渡る。その全てを身に受けて手練れと共に落ちる鬼。鬼はしがみつく手練れを一心に振りほどき岩壁に叩きつけその亡骸の一つを眼下の御者に投げつけた。馬車は急停止し驚いた御者はその場から走り去る。衝撃とともに最悪がそこに降り立った。


 死に体とはいえその隻腕は一振りで馬車の屋根を吹き飛ばし、幸福を纏う人々の目を丸くする。鬼は息荒く血反吐を吐いた。それを被った護衛の一人がもがき死ぬ。それを見た人々の顔が一転恐怖に歪み、混濁した叫びが巻き起こる。

 

周りの召使を蹴散らし、横たわる母親を蹴散らし、鬼は生まれたばかりの赤ん坊を掴み上げその右目の目蓋を開かせて瞳を合わせた。

鬼の眼が見開いた刹那、追い着いた頭領が背後から鬼の首を切り飛ばした。


 鬼は死んだ。


鬼の手から取り出された赤ん坊の顔は血しぶきを浴びてその毒で焼かれた肌は痣を成していた。―――


 「以上が事の顛末にございます」

 「ふむ、して目撃者はおるのか」

 「生存者ということであれば赤子以外にはおりませぬ。馬車についていた護衛の一人が恐れて動けなかったのが功で無傷でおりましたがこちらで始末いたしました」

 「して、それがその赤子か...」

 「は、恐らく鬼は何らかの呪を施さんとしたと思われます」

 「生かしてよいのか」

 「解りませぬ、解りませぬが鬼の呪を受けて生まれたばかりの赤子が生きていられるものでしょうか。また微量とはいえ鬼の血を浴びて痣で済むことからも、常人のそれと異なるものがあります故、未だ生かしております」

 「確かに、経過を見るも良いか。よかろうその赤子そなたらに任せる。そしてその血を調べよ」

 「は、承知致しました」

なんだかプロローグ的な

本編はこんな殺伐としない...はず

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