Strange night school .
目が覚めると、そこは教室だった。
外は真っ暗で、月明かりが窓から射し込んでいる。
今は何時だろうか。
黒板の上に掛けてある時計を見ると、針が13本あり、それぞれ思い思いの方向に動いている。
これじゃあ時間が分からない。
とりあえず、校舎から出よう。
僕はそう思い、教室を出て、昇降口へと向かった。
♂♀
階段を降り、右へ曲がる。
そこには、あるはずの昇降口は無かった。
そこにあったのは、否、いたのは、一人で勝手に『疾走する閃光』を弾くピアノと、曲に合わせてブレイクダンスとカポエイラを踊る人体模型と骨格標本だった。
僕は思わず立ち尽くした。
向こうも僕に気付いたのだろう。
踊るのを止め、ゆっくりとこっちに近付いてくる。
そして、
「Shall we dance.」
はっきりと、そう言った。
僕は絶叫し、走り出した。
一刻も早く、この狂った空間から脱け出さなければ。
廊下を全力で走り、動く無機物共と距離をとる。
そうだ、窓から出れないだろうか。
立ち止まり、窓を開け、外に手を伸ばす。
が、透明な壁でもあるようだ。
外に手を出すことができない。
ならば非常口だ。
昇降口の真反対には非常口がある。
そこならきっとでれるはずだ。
そう考え、非常口を目指して廊下を走ろうとした。
しかし、もう手遅れのようだ。
非常口がある方向の廊下の闇から、能面や狐のお面を着け、ギターやマラカス、タンバリンなどの楽器を持ったデッサン人形の大群が突然現れた。
非常口もダメらしい。
階段を上り教室へ戻ろうにも、標本共が階段よりもこちら側へ来ている。
万事休すだ。
僕は壁に背を預けた。
何かが背中に当たった。
慌てて振り向くと、それは取っ手だった。
そして、学校という空間に全く協調してない鉄の扉がひとつ。
この中に入るしか手はない。
僕は取っ手を引き、扉を開け、中に入り、扉を閉め、ついでにそこにあった南京錠で鍵をした。
ひと安心し、振り返ると、そこは白い通路だった。
何もなく、どういう原理で光ってるのか分からない真っ白な通路。
ここも狂っている。
仕方ない、あの無機物共を張っ倒し、外へ出れるところを探すしかない。
振り返り、扉を開けようとする。
しかし、そこに扉は無かった。
消えてしまっていた。
端の見えない白い通路が存在するだけだった。
どうすればいいのだろう。
迷っていると、背後からカシン……と、金属の擦れるような音が。
振り返ると、そこには斧を持った西洋甲冑がいた。
殺される。
僕は駆け出した。
甲冑も駆け出し、追いかけてくる。
走った。
走った。
無限に続いてるような通路を走り続けた。
しかし、通路は無限ではなかった。
いきなり壁が現れた。
それは、学校の窓にあったような透明な壁だった。
壁を背に、甲冑を見る。
ダメだ。
もうダメだ。
甲冑が斧を振りかざす。
「ハハ……そうか……これは夢だ……夢なんだ……!」
思わず呟いた。
すると、
『ところがどっこい!夢じゃありません!』
その言葉と共に、甲冑は斧を降り下ろした。
♂♀
目が覚めた。
僕は机に俯せになって寝ていた。
窓からは、紅い光が射し込んでいる。
グランドには、無数の生きる屍と化した人々が彷徨っている。
嗚呼、そうだ。
ここには僕一人しかいないんだった。
この腐り滅びてしまった現実から目を背けるために、僕はもう一度俯せになり、目を瞑った。