Saury .
俺は落ちていた。
耳元で、風を切るヒュウヒュウという音が聞こえる。
正面も、横を見ても、ただ青いだけの風景だった。
そんなところを、俺は落ちていた。
何故落ちているのか、思い出せない。
そんな事を考えていると、背中に壁にぶち当たったような衝撃が走った。
同時に、風切音も聞こえなくなった。
代わりに聞こえたのは、ブクブクという音。
どうやら水のなかに落ちたらしい。
ゆっくりと目を開ける。
痛くはない。
そして、まるで夢のような、素晴らしい風景が広がっていた。
静かで、清らかな青色と光の世界。
魚たちの鱗に光が反射し、より美しく見せていた。
俺は少し泳ぐことにした。
海底にワカメが生えてるのを見つけた。
少し腹が減ってきたのでかじってみた。
……生で、しかも水中で食うもんじゃないな。
俺はワカメを吐き出した。
♂♀
少し息苦しくなってきた。
水面に出ようと、俺は海底を蹴った。が、足にワカメが絡み付いて上がれなかった。
ワカメを取るために手を伸ばすと、今度はタコに腕を絡めとられた。
どうしよう。身動きがとれない。
向こうから、サンマの大群が近寄ってくる。
しかし、タコとワカメで拘束された四肢を動かすことは出来ない。
もう諦めるしか無さそうだ。
大量のサンマが目の前にいる。
まるで敵への最後の一撃を喰らわす戦士の剣の如く、鋭く、銀色に光っている。
ふいに、一匹が動き、俺の腹部へと刺さった。
口と腹から血が流れる。
その一匹に続くように、サンマの大群が腹の皮を食い千切りながら入ってくる。
そして、サンマにハラワタを喰い千切られた瞬間、夢は終わった。
なかなかの悪夢だった。
涎だろうか。
口から何かが垂れている。
俺は手の甲でそれを拭った。
手にはベッタリとそれが付いた。
それは、俺の血液だった。




