5 そばかすレンジャーの襲撃
敵は一人だった。てっきり背後で続いている筈の会戦から流れて来た偵察隊か別働隊が現れたのかと思ったのだが。
木々の陰に見えたのはフード付きのマントを目深に被った騎兵だった。革鎧が緑のマントの隙間から見える。レンジャーと言うのだろうか?顔はフードの影で分からなかったが、かなり肩の形など華奢だった。女かも知れない。
「dんbcjwcbsjlsp!」騎兵が何か叫ぶ。やはり女だった。
そのままこちらに猛然とチャージを掛けてくる。川原毛の彼女の乗馬の脚が地面に着いて居なかった。魔法だろうか?
あっという間だった。馬を盾にするように割り込ませると、アルクメネを抱え上げ俺に手を差し出す。
怪物達は反応も出来ない。
俺は手を取らなかった。ここで人間側にハッキリと組みするのを見せるのはあまり具合が良くないだろう。まだ何も分かって居ないのだ。
神拳闘士の勁力で跳び上がると頭上の大木の大枝に腰を掛ける。騎兵が驚いた様に上を見上げる。フードが外れ三つ編みにした栗色の髪が露わになる。雀斑の浮いた翠の眼の少女はしかし、直ぐに怪物の方に向き直った。ようやく反応出来た連中が一斉に彼女に襲い掛かったのだ。
素早く反応し馬を飛ばした彼女は見る間に怪物を引き離す。そして
「bsj(/2¥¥/9wj」腰の剣を抜き去ると再び何か叫ぶ。
剣身に炎が宿った。
そのまま殺到した連中を迎え撃つ。彼女は女神を脇に抱えながら器用に剣を振るった。炎の剣で撃ち込まれると怪物は異様な痛みを感じるのか暫く戦闘不能になる。そういった奴等を障害物に馬の位置を上手く変え一度に二体以上相手にしない様にして彼女は戦っていた。それで入り込みそうな敵には馬が容赦無い蹴りを見舞ってノックアウトしていた。其奴単体でも凄い戦闘力だ。
それにしても両手が塞がっているのだから鐙の踏み込みだけで馬を扱っている事になるのだが、ぎこちなさは微塵も感じられなかった。乗馬が勝手に主人の考えを読んで機動しているみたいだった。
数撃で怪物は倒れるので忽ち辺りに怪物の屍体が散乱する事になった。彼女の馬の速さなら簡単に離脱出来そうだがその気は無いらしい。怪物が助けを求めるように此方をチラリと見る事が多くなった。やめろよ。
半数が動かなくなった辺りで俺は我慢できなくなった。
俺は戦いが大木の下に来たタイミングで割り込む様に飛び降りた。
「…」彼女が怪訝な様子で俺を見る。一瞬戦いが止まる。俺は相手が分からないのにも構わず日本語で叫んだ。
「あっちへ行け!」指を草原の方に向け、彼女の馬を蹴り飛ばそうとする。
咄嗟に彼女は馬を駆って飛びすさった。10メートル以上ある。凄いもんだ。
俺は怪物の集団の前に出て彼女に向けて手を広げ、それから怪物の方に向き直った。森の方に指を向け何度も繰り返す。分かってくれ。
怪物達も戸惑ったようだった。お互いに顔を見合わせているが動こうとはしない。その時、背後で彼女の声が聞こえた。
「bkyfjsこspmskくぉsk」俺がもう一度振り向くとレンジャーの少女は敵意に満ちた眼で俺を睨んでいた。馬の奴もおれを睨んでいた。主従一体だ。裏切り者を見る目つきだった。
俺が立ち尽くして居ると背後からドスドスと足音が聞こえて来た。近付いて来る。あーあ
怪物達が俺を守る様に広がる。彼女が目を細めるのがここからでも分かった。可愛い感じの顔立ちだったので一際非情さが目立つ。怖いぞ結構。
「jxんjsckfk」彼女が叫ぶと地面の草が急に伸び始める。おれは咄嗟に怪物Aの頭上に飛び乗った。戦いで踏み荒らされた草が復讐の様に怪物達の脚に絡み付き這い上がってくる。巨人とも言って良い彼らが次第に動けなくなる量の草が次々と生えてくる。彼等に恐慌が広がる。
あの眼は俺もターゲットだとはっきりと告げている。
俺は決断しなければならなくなった。