2 ブラックリスト入りの世界
意識が戻った。
草いきれが感じられ、陽光の熱がジリジリと背中を焦がす。
周囲を見回すと森に囲まれた小さな草原である事が分かった。森は疎林と言うのかその向こうにさらにうねる草原が続いて居るのが確認出来た。
「…うーん」
そして隣にはアルクメネがやっぱり俺と同じ様に地面に倒れていた。息苦しいのか眉を寄せて時折呻き声を上げている。
起こそうか?でも、こうして現実的な風景の中で眺めると生々しい感じがして触れにくかった。実際女神レベルの美人だし気後れするよな。ギリシア風の服の脇も開いててちょっと見えそうだ。
「なんかこれってヤバいんだよな?」独り言が出て来た。英雄として転生するのに運命の女神が一緒になって転生するなんておかしい気がする。大体、状況から言ってイレギュラーだった。しかも、この世界はマズイとか言ってなかったか?
改めて周囲を見回すが異常は感じられなかった。俺の元いた世界、現代日本に有ってもおかしく無い風景だ。夏の北海道?旅行だったら速攻昼寝に突入したいほどのどかな場所だが・・・
なんだ?遠くから物音が聞こえる気がする。
俺は女神をチラッと見た。まだ眠っている。音のした草原の方を振り返ると手前の丘迄の距離は大した事ない気がする。あそこの頂に行けば視界が開けるかも知れない。
丘の頂に来ると案の定視界が取れた。そしてその光景に俺は息を呑んだ。
そこから見えたのは戦いだった。大会戦と言っても良い筈だ。遥か麓の草原でかなりの数の軍勢がぶつかり合おうとして居るのだった。
「本当に異世界ファンタジーしてるのか…」俺はそう呟いた。
対峙する軍勢の片方がどう見ても人間には思えなかったからだ。大きさも様々、ドラゴンみたいのも居れば頭が二つある巨人の様なものまで見える。小さな兵士の姿は遠くてよく見えないが動き方が人間と思えないのも多かった。
空を飛ぶ連中は双方にいた。こいつらはもう既にぶつかり合っていた。ペガサスの様な生き物に乗った人間らしき側の兵士とワイバーンっぽいファンタジー軍の怪物が空中で互いの背後を取ろうと激しく飛び回っていた。
と、背後でわっと言う声が上がった。
「え?」振り返るとファンタジー映画で見たトロルかオーガと言った風体の連中が森を掻き分け俺がさっき迄居た草むらに殺到するのが見えた。女性の悲鳴が聞こえる。
「やべ!」迫力の会戦に気を取られて後ろに注意が行かなかった。
俺が駆け戻ると涙目の女神が怪物に抱き抱えられて連れ去られようとしていた。
「あ、あなた!助けて!」分かってるけどどうすれば?
「ちょっと無理でしょ!」
「え?あ!天分あげるからそれで何とかしてよ!」
「天分?!」
「普通に殴れば良いのよ!神拳闘士にしといたから」
何時そんなモノにしたんだ?それにしてもこの女神…
しかしやるしか無いだろう。
俺は思い切りが良いのだけは自慢だ。何をするにせよこのむかつく女神を放っておくと後々不味いことになると簡単に想像できた。
「ふざけるな!これは貸しだからな!」
陳腐なセリフだが仕方ない。ここで他の感想が出たら聖人だ。
一匹の怪物が俺の接近に反応して此方を振り向く。
駆け出すと信じられないスピードが出た。拳を振り抜き相手の急所を砕くイメージが湧いてくる。
行ける!
そして俺が怪物を攻撃しようとした瞬間、怪物達が全員平伏した。
え?