1 エリュシオン
「…さてどれを選ぶの?」
銀髪にギリシャ神話の女神の様な貫頭衣を着た典型的な女神様が俺に語り掛ける。
「…ここはどこだ?」俺は何十回と繰り返した質問を返した。
「だかあら!エリュシオンよ!貴方は英雄候補で、ここで救いを求める世界を選ぶの!」
「納得出来ない。大体救いを求めてるってどうやって分かるんだ?」
「祈りよ。大神が各世界に蒔いた魔石を通じて救いを求めればここエリュシオンにアクセスして待機している英雄達が出動するの。何度も説明したけどね。」
「いや、だから誰も居ないじゃん。ここ」
「救いを求める世界は多く、英雄は少ないのよ。あなたも早く選んで仕事始めてよ。」
「だから、なんで俺が?…つーか、仕事終わったら元の世界に戻れるのか?」
「はあ?次の世界救いに出動するに決まってるじゃない?あなた英雄舐めてるの?」
「どこのブラックだよ?帰せ!いや、普通に死なせろ。俺、普通の転生って奴で充分なんだけど。」
今までのウンザリするようなアルクメネ(こいつの名前だそうだ)とのやり取りの中で、俺が死んで英雄候補に祭り上げられてここに飛ばされて来た事は分かった。
でも、猫を助ける為にトラックに跳ねられる事の何処が英雄的な人生なんだ?反射的にやっちゃったけどかなりアホだろ。普通の処理で流してくれよ。
「あなたの救った猫の主人の感謝の気持ちが凄まじく巨大だったのよ。それを受けたあなたの魂の器が成長し過ぎて通常の転生のルートでは処理しきれないの。そこは諦めて」
え?それって俺が凄いんじゃなくて猫の主人が凄いんだよな。
「何者だよ!その猫の飼い主!」
「大神がたまたまあなたの世界にヴァカンスで逗留してたのよ。で、猫を飼ったんだけどもう溺愛、ぷぷ」
あ、今こいつ笑った…その大神に言付けてやろうか?
「…やっぱ、納得出来ない」
「もう良いわ。ここ。ここにしなさい。」アルクメネが水盤の水面に映った諸世界の映像の一つを指差し、俺の手を強引に引き寄せようとする。
「待てよ!」俺とアルクメネは揉み合いになった。そして…
俺の手は彼女が示したのとは全く違う世界の映像に触れた。
「そ!そこはまずいわ!」慌てる女神の声。それどころじゃねえ。俺は逃れようとする彼女の腕を掴み
「止めろよ!」と叫んだ。
意識が暗転した。