常盤の言の葉
川が常に流れ同じ水をとどめないように
春雨に打たれた花が徒に散ってしまうように
あるいは祇園精舎に鐘の音が鳴るように
世にあるものは皆移り変わり何処へと消えてゆく
不確かな世にいる人はそれに輪郭を与えるための美しさを探して生きる
ある人の美しさは富だった
ある人の美しさは愛だった
ある人の美しさは快楽だった
皆どこかで虚しさとも思いながらそれらを得ようとする
ある人はそれらを得るために筆を執り文字を綴った
逆らうことのできない流れにありながらその手で言葉を生み出しつづけた
彼らのうち一人は夜空の彼方へと消えた
彼らのうち一人は国のために最期を捧げた
彼らのうち一人は想いを遂げないまま肺を病み生涯を閉じた
しかし彼らはその美しさを残していった
本を開きさえすれば彼らの心はその時のままに現れる
彼らの言の葉はどれも常盤の色をしている
松の葉は雪の中にあってもその常盤色をほんのわずかにも変えない
それと同じように言の葉は常盤に想いを表す
私はその言の葉を用いて物事を記すのだ。