Scine1
文末に挿絵があります。
Scene.1
信もて世とたたかいて 勝ちし聖徒のために、
みさかえは主にあれや ハレルヤ、ハレルヤ。
つわものよ、おおしかれ、 聖徒のあとをふみて、
いさぎよくたたかえよ、 ハレルヤ、ハレルヤ。
よしや仇つよくとも、 主イエスはともにませば、
わが手にぞ勝ちはある、 ハレルヤ、ハレルヤ。
海よりも陸よりも 勝ちし聖徒はうたい、
み門へとすすみゆく、 ハレルヤ、ハレルヤ。
(For all the saints who from their labours resut)
……今日、私は18の誕生日を迎えた。
待ち望んでいた約束の日。
あの人はまだ旅路より帰っていなかったが、身を清め、彼から贈られた花嫁衣裳を身に着け、花を飾った。
離れていても心は心はひとつに結ばれたい。
私は、彼に対する永遠の愛を主に誓った。彼もどこかで宣誓してくれていることを願いながら。
早く。
早く帰ってきてほしい。
昼は彼の無事を願って主に祈った。夜は彼がショプロンに帰郷する夢を見て、何度も目を覚ました。
彼が発ったその日から、ずっと。
なぜ……。
なぜ彼は戻らないのだろう、約束の日なのに。
天地の君なる主よ、どうか邪悪なる者の冷たき牙から、彼をお護りください。一日も早く……一刻も早く彼が私の元へ帰ってきますように。
そして、その祈りは後半だけ叶えられた。
その日。
ブラン村から届けられたのは空の棺。
その上に置かれた銀の聖剣は…………間違いなく彼の愛剣だった。
「旦那は吸血鬼と刺し違えて死んだ」
ブラショフで従者として彼に雇われたという若い男は、そう告げた。
音がやむ。
色が消える
時が止まる。
彼、が……死んだ…………。
地に手をつく。
体を、足だけでは支えられなかった。
鳴り響く弔いの鐘の音。
奏でられるのは結婚を寿ぐ聖歌ではなく、死者を悼む葬送の曲。純白の花嫁衣裳は脱がされ、漆黒の喪服を着せられた。
虚空が青い。
彼が逝った日の空もこのように澄んでいたのなら、彼の魂は迷わずに永遠の故郷に導かれ、主とまみえることができただろう。
そう願う。
願わずにいられない。
涙は流さなかった。流せなかった。彼の魂がこの世に留まって彷徨うことがないように。
自分で自分の命を断つことも出来ない。それは禁忌、永遠に許されない罪科だ。
自殺者は吸血鬼と化すという……。
私は耐えた。
私も彼と同じく、吸血鬼と戦うことを自らに課した、吸血鬼殺しだったから。
彼の棺には十字架と野薔薇と彼の剣の鞘を入れた。
剣は私の剣の鞘に納める。
……私は戦う。
彼の剣で、彼と共に戦う。
すべての不死者をと地上から掃滅する。
それは神の御心にも適うことだ。
愛しい人よ、再び剣を手にする私を許してほしい……。
主人公
挿絵:一縷。