共通の話し相手
用事を思い出した春は廊下や階段を行ったりきたりしていた。
――この病院広すぎるんだよ!! ここがどこだか分からないんだが!
春は廊下をを小走りしていると、たくさんの人が春に声をかけた。
「おっ春ちゃん! どうかしたんかい?」
「あ、こんにちはー! いやぁ秋ちゃんのとこに行きたいんですけど、久しぶりすぎて迷っちゃいました…」
「また春ちゃん迷ったんか!! そりゃあ頑張ってな! あ、そうだ。さっき孫たちが来てそれで果物もらったんだけどよ、けどワシは一人でこんな食えんから春ちゃんに少しやるよ! このかごに入ってる分は持っていいぜ。」
「わーありがとう!! 秋ちゃんと一緒に食べるね!」
春がそう言ってかごを受け取ると、周りを歩いてる人からも「これもよければ食べてね」と、お菓子などをたくさんくれた。周りを歩いてる人たちが春の顔を知ってるからこそだった。かごの三分の一程度しか入ってなかったかごはすぐに山盛りになった。春は「ありがとう!」と笑ってお礼をいった。
そんな春の笑顔に周りの人も笑顔になっている。そんな中、一人が声を出した。
「あたし秋ちゃんの病室まで案内できるよ!」
「え、本当!? 連れっててくれる?」
「もっちろんいいよ!」
春は教えてくれるという少女のあとについて行くことを決め、その場を離れる最後にお礼をまた言って少女についてった。
「ここだよ! 私もそろそろお母さんがお見舞い来てくれる時間だから病室もどるね」
「ありがとね! これもらったものだけど、お礼にあめあげる!」
少女は「ありがとう」と言ってパタパタとスリッパの音を立てて歩いていった。
春は個人病室の前に立ち、二回ノックをしてから部屋に入った。
「お邪魔しまーす! 秋ちゃん! 来たよー」
そこには、黒髪の長い髪をもった少女と、さっき廊下で話した右側に黒い跡がある少年がいた。
「死神さん!!?」
「あらーなんだ春ちゃん知ってたの? じゃあ話が早いわね」
春は驚きで口が開いている。一方春の言葉に少し驚きつつ、笑顔を絶やさない秋はベッド近くにあるいすに座って項垂れている少年を指してこう言った。
「こちら、私の魂を取ってくれる死神さんの冬ちゃんです」
「おい、秋。ちゃんは止めてくれ」
話に少し置いていかれそうな春は話をよく聞くために、扉近くで止まっていた足を動かしベット近くのいすに座った。そして、その
「えっと、つまり、どういうことなんでしょうか……秋ちゃんは死んじゃうんですか」
「うん、そりゃあ何時か人は死ぬよ。でも私も近々だろうな、とは思ってたから一週間前ぐらいに冬が来たんだけど、驚かなかったよ。まぁ何時死ぬかはどうしても教えてくれないんだけどさ」
「そういう規則だからな。……まぁ俺は早めに魂を取る相手に会いに来るから、近々とは限らんからな」
その言葉は秋ではなく春に向けられた言葉なのだろう。なぜなら、春は今大きな瞳からボロボロと涙を流しているのだ。
「やだ。私、秋ちゃん、死んだら、やだっから」
少しづつ途切れながらも必死に言葉を繋げた。
「もー泣かないでよ! ほら、ティッシュ。春ちゃんは笑顔がいっちばん似合うんだからさ!!」
そう言いながら、秋は歯を見せて笑った。春も素直にティッシュを受け取り、まだ鼻水と涙でグチャグチャの顔で精一杯笑顔を見せた。
「じゃ知ってる同士だったんだし、自己紹介いらないね」
「俺、こいつのこと一切知らないんだが」
「あ、私もこの死神さんのこと知らない!!」
「え、知り合いじゃないの? ……まぁじゃあ自己紹介からいこっか」
秋は驚きながらも、話を進めようと話題を持ち出し、「まずは冬からね」と言って冬に自己紹介をするように言った。
「死神。名前は冬。以上だ」
「春です!! 高校生だよ! お外とか自然が大好き!」
「私は秋。知ってると思うけど、私だけしないのもむずがゆい! 食べる事が大好き」
自己紹介が終わった後の会話は、春と秋が話題を出してそれに冬も混ざる、といった会話だが会話が途切れる事は無く、春はとても居心地がよかった。明るく元気な春。みんなのお姉さんのような存在で、バランスよく会話を回す事ができる秋。そして、静かだが居心地を悪くさせるようなことは言わずに、一歩手前で周りを見る冬。とても三人はバランスが良かったから居心地が良いだろう。そんなことを少し感じつつ、三人は秋の病室で話していた。楽しい時間はすぐ過ぎ去る。
「あ、もう自分の病室戻んなきゃ! あ、冬はどうするの?」
「まだ残る」
「そうなんだ! よし、じゃあね! 秋ちゃん、冬ちゃん!!」
「ちゃん付けするんじゃねぇ!」
「うん、ばいばい。また来てね春ちゃん! 春ちゃんが持ってきたお菓子とかいっぱい残ってるんだから!」
「わかった!」と返事をして、春は秋の病室から出て行った。
自分の病室に戻る時は、看護師さんに道を教えてもらい無事帰ることができた。
帰れたことにホッとした春は、自分の個人病室の扉を開けた。
そこには……
「こんにちははるるん!」