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Sleeping Mystery

掲載日:2012/06/06



 その少女は、一日のほとんどを寝て過ごしている。

 脳が情報を整理するのに時間が掛かるのだろう。

 起きているのは午後三時からの三十分間だけだ。

 たがら彼女を訪問する人間は一日一人と決まっている。

 誰もが彼女に話す内容をコンパクトに纏めて、ベッドの上で食事をとっている少女にそれを伝える。

 話を聞き終わっても、彼女は「わかりました、ありがとう」とだけ言って、眠りについてしまう。

 そして次の日起きてすぐ、前日の話に関するコメントを簡潔に述べる。

 係りの人間が彼女の言葉を記録してから、その日の食事と訪問者を部屋に招き入れる。


 訪問者の大半は警察関係者だ。

 未解決事件の内容を話しに来ることが多い。

 あとは、どうでもいいお悩み相談をしに来る者もいる。

 それでも少女は話を聞き、次の日には睡眠中に計算して出した解を述べる。

 未解決事件の場合は、誰が犯人か、或いはどこを探せばいいのかを。

 お悩み相談の場合は、いくつもある解の中から、相談者が密かに望んでいるものを選ぶ。

 少女に会うためには莫大な面会費が掛かる。

 それ以外には何も必要ない。

 しかし、彼女の元を訪れた者はみんな、後日必ず、その倍以上の金額を自ら納めている。

 だから僕もまた、それなりのお金を工面して、ここへやって来た。


 その建物は、屋敷と言うより城と表現したほうがいい。

 暗い森の中に、眠るように建っていた。

 大きな木の扉をノックすると、スーツを来た初老の男性が僕を招き入れ、案内してくれた。

 石のブロックが敷き詰められた床。その上に赤いカーペットが伸びる。

 廊下の両側には刀剣などが飾られている。

 この男性の着ているスーツも含め、城の中のものは、どれも相当高級なものだと僕には分かる。

 しかし、それらは全てが埃っぽく、屋敷全体が荒んでいた。

 「こちらです」

 男性が開けた扉の中は、薄いピンクの絨毯と同じ色の壁紙の部屋。

 その奥に天井とカーテンの付いた大きなベッド。

 ベッドの上で、少女が身体を起こしてパンを食べていた。


 「こんにちは」

 「……どうも」

 「貴方は芸術家の方? ご専門は?」

 「いえ、その、僕は見るのが仕事というか」

 「あら、そうなの? きっと才能があるわ。是非チャレンジしてみて」

 「あ、はい。あの……」

 「どうぞお話になって」

 「……はい。僕は、その、人を好きになれないのです。人間は、好きなんですよ? 形とか。でも、そうじゃなくて。下世話な話かもしれませんが、その、異性を好きになれないのです」

 「貴方は、そんな筈ないわ」

 「……何というか、僕の仕事柄、綺麗な女性に会うことは比較的多いんです。美しい女性に対して、美しいと感じることはあります。それに、こう見えて、女性にはそこそこモテるんですよ。でも、女性に言い寄られると、気持ちが覚めるというか。その……」

 「わかりました。ありがとう」

 「いや、まだ……」

 「もう充分ですよ。ただ、一つだけいいかしら?」

 「はい」

 「貴方は、私が美しいと思う?」

 「……はい」

 「……そう。ありがとう」

 「あの……?」

 「私は、貴方が嫌いです。だから、どうか安心して?」


 次の日、彼女から手紙が届いた。

 たぶん、あの少女の文字ではないだろう。

 そこには僕に関する色々な情報が疑問系で書かれていた。

 『貴方には兄が一人、妹が一人いますね?』

 『貴方の父親は古物商ですね?』

 『貴方の母親は絵のモデルをされていますね?』

 『貴方の職業は美術品鑑定士ですね?』

 『貴方は美しい女性の、美しいフォルムが好きですね?』

 『貴方は醜いものが嫌いですね?』

 『貴方は美と醜の見分けが付かない人間が嫌いですね?』

 『貴方は貴方の母親を殺しましたね?』

 最後の一文だけが、肯定文で書かれていた。

 『貴方は、自分なんかを好きになるような人間は、みんな等しく、軽蔑しているからですよ』



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