Sleeping Mystery
その少女は、一日のほとんどを寝て過ごしている。
脳が情報を整理するのに時間が掛かるのだろう。
起きているのは午後三時からの三十分間だけだ。
たがら彼女を訪問する人間は一日一人と決まっている。
誰もが彼女に話す内容をコンパクトに纏めて、ベッドの上で食事をとっている少女にそれを伝える。
話を聞き終わっても、彼女は「わかりました、ありがとう」とだけ言って、眠りについてしまう。
そして次の日起きてすぐ、前日の話に関するコメントを簡潔に述べる。
係りの人間が彼女の言葉を記録してから、その日の食事と訪問者を部屋に招き入れる。
訪問者の大半は警察関係者だ。
未解決事件の内容を話しに来ることが多い。
あとは、どうでもいいお悩み相談をしに来る者もいる。
それでも少女は話を聞き、次の日には睡眠中に計算して出した解を述べる。
未解決事件の場合は、誰が犯人か、或いはどこを探せばいいのかを。
お悩み相談の場合は、いくつもある解の中から、相談者が密かに望んでいるものを選ぶ。
少女に会うためには莫大な面会費が掛かる。
それ以外には何も必要ない。
しかし、彼女の元を訪れた者はみんな、後日必ず、その倍以上の金額を自ら納めている。
だから僕もまた、それなりのお金を工面して、ここへやって来た。
その建物は、屋敷と言うより城と表現したほうがいい。
暗い森の中に、眠るように建っていた。
大きな木の扉をノックすると、スーツを来た初老の男性が僕を招き入れ、案内してくれた。
石のブロックが敷き詰められた床。その上に赤いカーペットが伸びる。
廊下の両側には刀剣などが飾られている。
この男性の着ているスーツも含め、城の中のものは、どれも相当高級なものだと僕には分かる。
しかし、それらは全てが埃っぽく、屋敷全体が荒んでいた。
「こちらです」
男性が開けた扉の中は、薄いピンクの絨毯と同じ色の壁紙の部屋。
その奥に天井とカーテンの付いた大きなベッド。
ベッドの上で、少女が身体を起こしてパンを食べていた。
「こんにちは」
「……どうも」
「貴方は芸術家の方? ご専門は?」
「いえ、その、僕は見るのが仕事というか」
「あら、そうなの? きっと才能があるわ。是非チャレンジしてみて」
「あ、はい。あの……」
「どうぞお話になって」
「……はい。僕は、その、人を好きになれないのです。人間は、好きなんですよ? 形とか。でも、そうじゃなくて。下世話な話かもしれませんが、その、異性を好きになれないのです」
「貴方は、そんな筈ないわ」
「……何というか、僕の仕事柄、綺麗な女性に会うことは比較的多いんです。美しい女性に対して、美しいと感じることはあります。それに、こう見えて、女性にはそこそこモテるんですよ。でも、女性に言い寄られると、気持ちが覚めるというか。その……」
「わかりました。ありがとう」
「いや、まだ……」
「もう充分ですよ。ただ、一つだけいいかしら?」
「はい」
「貴方は、私が美しいと思う?」
「……はい」
「……そう。ありがとう」
「あの……?」
「私は、貴方が嫌いです。だから、どうか安心して?」
次の日、彼女から手紙が届いた。
たぶん、あの少女の文字ではないだろう。
そこには僕に関する色々な情報が疑問系で書かれていた。
『貴方には兄が一人、妹が一人いますね?』
『貴方の父親は古物商ですね?』
『貴方の母親は絵のモデルをされていますね?』
『貴方の職業は美術品鑑定士ですね?』
『貴方は美しい女性の、美しいフォルムが好きですね?』
『貴方は醜いものが嫌いですね?』
『貴方は美と醜の見分けが付かない人間が嫌いですね?』
『貴方は貴方の母親を殺しましたね?』
最後の一文だけが、肯定文で書かれていた。
『貴方は、自分なんかを好きになるような人間は、みんな等しく、軽蔑しているからですよ』




