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導きの灯り〜阿門甲斐吽〜  作者: 阿門 甲斐吽


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【第35話】渓谷の呪縛


 (ふか)(きり)()ざされた霧島山系(きりしまさんけい)(ふもと)


 その奥深(おくふか)くに位置(いち)する(ふる)びた渓谷(けいこく)は、あたかも外部(がいぶ)時間(じかん)拒絶(きょぜつ)するかのように、(おも)(よど)んだ静寂(せいじゃく)(つつ)まれていた。


 かつて修験者(しゅげんじゃ)たちが()(きよ)め、神聖(しんせい)(いの)りを(ささ)げたというその場所(ばしょ)は、いまや邪教(じゃきょう)()によって(ゆが)められ、()(かげ)もない()領域(りょういき)へと変貌(へんぼう)()げている。


 阿門(あもん)甲斐吽(かいうん)先頭(せんとう)に、神楽坂(かぐらざか)弘恵(ひろえ)柏木(かしわぎ)(みなと)(たちばな)翔平(しょうへい)四人(よにん)は、足元(あしもと)不安定(ふあんてい)山肌(やまはだ)()みしめながら慎重(しんちょう)()(すす)めていた。


 周囲(しゅうい)木々(きぎ)(くろ)ずみ、()一枚一枚(いちまいいちまい)にまで邪悪(じゃあく)呪詛(じゅそ)気配(けはい)()()いているかのようだ。


「ここが、最初(さいしょ)の『封印(ふういん)(くい)』が(かく)されている場所(ばしょ)か……」


 (みなと)祖父(そふ)手帳(てちょう)をしっかりと(むね)()きしめながら、周囲(しゅうい)警戒(けいかい)するように見回(みまわ)した。


 空気(くうき)密度(みつど)(こと)なり、呼吸(こきゅう)をするたびに(はい)(おく)(つめ)たく()けるような感覚(かんかく)(おぼ)える。


 祖父(そふ)がこの()調査(ちょうさ)断念(だんねん)せざるを()なかった理由(りゆう)が、肌身(はだみ)をもって(いた)いほど理解(りかい)できた。


「そうだ。霧島(きりしま)から(みなみ)へと(なが)れる本来(ほんらい)(きよ)らかな龍脈(りゅうみゃく)が、この渓谷(けいこく)(そこ)無理(むり)やり()()げられ、ドス(ぐろ)(よど)みに()えられている」


 甲斐吽(かいうん)(ひく)(こえ)()げると、仕込(しこ)(づえ)()(にぎ)()(ちから)()めた。


 その双眸(そうぼう)は、(やみ)(おく)(ひそ)気配(けはい)(するど)(とら)えている。


 ふと、弘恵(ひろえ)(あし)()め、()にした神楽鈴(かぐらすず)(かす)かに()らした。


 ()んだ(すず)()冷気(れいき)(なか)へと(ひび)(わた)るが、すぐに周囲(しゅうい)(おも)瘴気(しょうき)()()まれるようにして()えていく。


()をつけて……。普通(ふつう)魔物(まもの)じゃないわ。この土地(とち)歴史(れきし)、それも邪教(じゃきょう)(もの)たちが意図的(いとてき)()()えた()記憶(きおく)そのものが、(わたし)たちを拒絶(きょぜつ)しようとしている」


 弘恵(ひろえ)警告(けいこく)()わるか()わらないかのうちに、足元(あしもと)湿(しめ)った(つち)がぐにゃりと波打(なみう)った。


 (つぎ)瞬間(しゅんかん)渓谷(けいこく)両岸(りょうがん)から無数(むすう)(くろ)(かげ)()()し、四人(よにん)退路(たいろ)(ふさ)ぐようにして()れをなして(あらわ)れた。


 それはかつてこの()非業(ひごう)()()げた(もの)たちの怨念(おんねん)が、邪教(じゃきょう)呪術(じゅじゅつ)によって(かたち)()えられた異形(いぎょう)従者(じゅうしゃ)たちだった。


「ちっ、(つぎ)から(つぎ)へとよくもまあ、気味(きみ)(わる)連中(れんちゅう)()いてきやがるぜ!」


 翔平(しょうへい)舌打(したう)ちをすると、身構(みがま)えて(こぶし)(かた)めた。


 その全身(ぜんしん)から、自身(じしん)血筋(ちすじ)宿(やど)微弱(びじゃく)霊的(れいてき)感応力(かんのうりょく)(ねつ)()びて(あふ)()し、周囲(しゅうい)(やみ)をわずかに()(かえ)す。


(ひる)むな! (やつ)らは過去(かこ)幻影(げんえい)(のろ)いの残滓(ざんし)にすぎない。その(おく)にある(くい)()たなければ、何度(なんど)でも(よみがえ)るぞ!」


 甲斐吽(かいうん)号令(ごうれい)同時(どうじ)に、疾風(しっぷう)のような()()みが(はな)たれた。


 仕込(しこ)(づえ)刀身(とうしん)から(はな)たれた黄金色(こがねいろ)閃光(せんこう)が、(おそ)いかかる(くろ)(かげ)()れを両断(りょうだん)する。


 物理的(ぶつりてき)斬撃(ざんげき)ではなく、(よど)んだ呪縛(じゅばく)根源(こんげん)()()神聖(しんせい)剣技(けんぎ)が、渓谷(けいこく)(やみ)()()いていく。


(わたし)たちも(つづ)くわ!」


 弘恵(ひろえ)神楽鈴(かぐらすず)(はげ)しく()()らし、純白(じゅんぱく)聖域(せいいき)展開(てんかい)した。


 彼女(かのじょ)(はな)清浄(せいじょう)(ひかり)は、まるで(よる)(はら)黎明(れいめい)(ひかり)(ごと)く、周囲(しゅうい)渦巻(うずま)邪悪(じゃあく)気配(けはい)次々(つぎつぎ)()(はら)っていく。


 聖域(せいいき)(ひかり)()れた(くろ)(かげ)たちは、断末魔(だんまつま)悲鳴(ひめい)のような(かぜ)(おと)(のこ)して霧散(むさん)していった。


 しかし、(てき)(かず)(おとろ)えることを()らない。


 渓谷(けいこく)奥底(おくそこ)、ひときわ(ふか)(くろ)瘴気(しょうき)(はな)岩陰(いわかげ)から、さらに強大(きょうだい)なプレッシャーが(せま)()る。


 そこにあったのは、人工的(じんこうてき)()()まれた一本(いっぽん)巨大(きょだい)(てつ)(くい)だった。


 無数(むすう)呪文(じゅもん)(きざ)まれ、()()れたような(さび)をまとったその(くい)こそが、霧島(きりしま)からの龍脈(りゅうみゃく)をせき()め、すべての元凶(げんきょう)となっている『封印(ふういん)(くい)』に(ちが)いなかった。


「あれだ……! あの(くい)が、この土地(とち)龍脈(りゅうみゃく)(くる)わせている元凶(げんきょう)だ!」


 (みなと)()(しめ)したその場所(ばしょ)()かおうとした瞬間(しゅんかん)(くい)周囲(しゅうい)渦巻(うずま)いていた瘴気(しょうき)凝縮(ぎょうしゅく)され、巨大(きょだい)異形(いぎょう)化身(けしん)となって()(ふさ)がった。


 人間(にんげん)姿(すがた)(ゆが)めたようなその巨体(きょたい)は、かつてこの()私欲(しよく)のために龍脈(りゅうみゃく)をねじ()げた邪教(じゃきょう)呪術者(じゅじゅつしゃ)たちの怨念(おんねん)結晶化(けっしょうか)したものだった。


邪魔(じゃま)をするな……!」


 (みなと)祖父(そふ)手帳(てちょう)(ふところ)にしまい、手元(てもと)()()せた霊的(れいてき)気配(けはい)総動員(そうどういん)して(まえ)へと(おど)()た。


 血族(けつぞく)因縁(いんねん)(みちび)かれ、祖父(そふ)意志(いし)()(もの)として、(かれ)はここで()くわけにはいかなかった。


(みなと)一人(ひとり)()かせるかよ!」


 翔平(しょうへい)素早(すばや)(みなと)側面(そくめん)(まわ)()み、(せま)()化身(けしん)をその()(てい)して()()めた。


 二人(ふたり)呼吸(こきゅう)完璧(かんぺき)()()い、(たが)いの()(なが)れる因縁(いんねん)(ちから)共鳴(きょうめい)()う。


(いま)だ、甲斐吽(かいうん)さん、弘恵(ひろえ)さん!」


 二人(ふたり)若者(わかもの)(つく)()したわずかな(すき)を、甲斐吽(かいうん)弘恵(ひろえ)見逃(みのが)すはずがなかった。


大地(だいち)(ことわり)(ゆが)める(もの)よ、その(つみ)とともに()()るがいい!」


 甲斐吽(かいうん)渾身(こんしん)一撃(いちげき)黄金(おうごん)(ひかり)をまとい、化身(けしん)巨体(きょたい)正面(しょうめん)から両断(りょうだん)した。


 さらに弘恵(ひろえ)(はな)った浄化(じょうか)鈴音(すずね)追撃(ついげき)となり、化身(けしん)姿(すがた)完全(かんぜん)()()る。


 障害(しょうがい)()()った()(まえ)には、禍々(まがまが)しい(ひか)りを(はな)つ『封印(ふういん)(くい)』が一本(いっぽん)、むき()しになって()()っていた。


 四人(よにん)はその(くい)()(かこ)み、それぞれが宿(やど)因縁(いんねん)(ちから)霊力(れいりょく)(ひと)つに(かさ)()わせる。


「これで()わりだ……!」


 甲斐吽(かいうん)(つえ)(みなと)たちの意志(いし)()められた渾身(こんしん)一撃(いちげき)が、封印(ふういん)(くい)根元(ねもと)へと(たた)()まれた。


 (はげ)しい金属音(きんぞくおん)とともに、(くい)全体(ぜんたい)無数(むすう)亀裂(きれつ)(はし)り、(つぎ)瞬間(しゅんかん)轟音(ごうおん)(とも)完全(かんぜん)粉砕(ふんさい)された。


 (くい)(くだ)()った瞬間(しゅんかん)渓谷(けいこく)空気(くうき)一変(いっぺん)した。


 (いま)まで(おも)くのしかかっていた(よど)みが(うそ)のように()(わた)り、(きた)霧島山系(きりしまさんけい)から()()本来(ほんらい)(きよ)らかな霊気(れいき)が、せき()められていたダムが決壊(けっかい)するかのように(いきお)いよくこの()へと(なが)()んできた。


 (つめ)たく()んだ(かぜ)四人(よにん)(ほお)()で、()()てていた渓谷(けいこく)地面(じめん)から、わずかに(みどり)芽吹(めぶ)きが(かお)()(はじ)める。


 最初(さいしょ)封印(ふういん)()かれ、龍脈(りゅうみゃく)本来(ほんらい)(なが)れを()(もど)したのだ。


(ひと)つ、片付(かたづ)いたな」


 (いき)(ととの)えた翔平(しょうへい)(あせ)(ぬぐ)いながら(わら)うと、(みなと)もまた、(むね)のつかえが()れたような清々(すがすが)しい笑顔(えがお)(うなず)いた。


「ああ、だがこれはまだ(はじ)まりにすぎない。桜島(さくらじま)、そして鹿児島市内(かごしましない)()けて、(のこ)りの(くい)をすべて破壊(はかい)するまで、(おれ)たちの(たたか)いは()わらない」


 (うしな)われた歴史(れきし)裏側(うらがわ)(あば)き、大地(だいち)呼吸(こきゅう)()(もど)すための(たび)は、(たし)かな手応(てごた)えと(とも)(つぎ)舞台(ぶたい)へと(つづ)いていくのだった。






(だい) 35()(かん)







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