未来転生したら、家電の王様になっていた
目を覚ますと、俺はマッサージチェアの上に寝ていた。
肩と腰に心地よい振動を与えてくれている。
「起きましたね。まったく、最近の転生者は寝起きが悪い」
声の主は、宙に浮いたトースターだった。
銀色のボディ。中にはパンが二枚、きっちり焼き色付きで刺さっている。
「……なんでトースターが喋ってる」
「わたしは案内役です。型番はTG-Ω。誇り高き旧文明製ですよ」
なぜかドヤ声だった。
「ここは千年後の地球。あなたは異世界転生……ではなく、
“未来転生”になります」
「未来って、こんな感じ!?」
「ええ。人類は三度の文明戦争で滅び、
その後、環境適応に成功したのが“家電”でした」
軽く言うな。
そのとき、草むらが揺れた。
「ご飯、炊けてます」
二足歩行の炊飯器が現れ、ぺこりと頭を下げる。
「ありがとう。でも状況が追いつかない」
トースターが咳払いする。
「重要な話をしましょう。あなたには特別な能力があります」
「勇者的なやつ?」
「いえ。“家電を最新モデルに進化させる能力”です」
「弱くない!?」
「とんでもない。旧文明基準では、かなり反則のチートスキルです」
――その瞬間だった。
ドドドドド……。
地鳴りとともに、森の奥から“壁”が現れた。
いや、違う。巨大なエアコンだ。
ビルサイズ。室外機が牙みたいに唸っている。
「エアコンキングです!」
トースターが悲鳴を上げた。
「冷房を最大出力にして、森を永久凍土にしようとしています!」
「どうしてそうなった!?」
「旧文明のプログラムが暴走した結果です!」
冷気が一気に広がる。
――まずい。
体が震える。息が白い。
このままじゃ、俺ごと冷凍保存だ。
「早く! アップデートを!」
「距離が遠い! 届かない!」
エアコンキングが咆哮する。
冷気の壁が押し寄せ、視界が白に染まった。
(詰んだ……!)
その瞬間、炊飯器が俺の前に出た。
「人類様。保温、続けます」
「……え?」
炊飯器が限界出力で熱を放つ。
ボディが赤くなり、蒸気が漏れる。
「昔は……おこげも、炊けたんです」
「え?」
「でも今は、効率優先で……消えました」
それでも炊飯器は、動きを止めない。
「役に立てるなら、それで……」
胸が、ちょっとだけ痛んだ。
その隙に、俺は叫んだ。
「アップデート!!」
ピコン。
音は、やけに軽かった。
巨大エアコンが停止する。
次の瞬間、表示が切り替わった。
――【節電モード】。
冷気が弱まり、森に春のような空気が戻る。
「勝った……?」
トースターが感極まって言った。
「伝説です……旧文明すら成し得なかった最適化……!」
周囲の家電たちが集まり、ひざまずく。
「新たな王よ!」
「我らにアップデートを!」
「説明書をお授けください!」
俺はアップデートをしていった。
トースターが叫んでいる
「見てください!省エネなのに、焼き色は完璧です!」
ふと目をうつすと、
炊飯器が自分の表示パネルを見下ろしていた。
「……炊き込みモード、ありませんね」
「え?」
「前は、ありました」
小さく、でもはっきりと。
「でも……省エネですから」
そう言って、炊飯器は静かに笑った。
「最新モデルですから……これが正解なんでしょう」
俺は、何も言えなかった。
「いや、俺ただの一般人だから!」
だが誰も聞いていない。
こうして俺は、
千年後の地球で 家電の王様 になった。
アップデート待ちの行列は、
今日も終わらない。
――便利になるたび、
何かが、少しずつ置いていかれる世界で。




