第7話 家を追放
教会を出て、俺は家に向かう。
報告しないといけない。
伯父さんと伯母さんに――
俺が遊び人×3になったと。
街を歩く。
いつもと同じ道。
いつもと同じ景色。
だが――
人々の視線が、違う。
「あれが遊び人×3の……」
「可哀想に」
「いや、あいつが悪いんだろ」
ひそひそと話す声が、聞こえてくる。
噂は――
もう広まっているようだ。
俺は、下を向いて歩く。
視線が――
痛い。
家が見えてきた。
数年間、世話になった家。
両親が死んでから、ずっとここで暮らしてきた。
伯父さんと伯母さんは――
俺を受け入れてくれるだろうか?
いや、無理だろう。
遊び人×3なんて――
誰も受け入れない。
俺は、覚悟を決めて扉を開けた。
家に入ると――
伯父さんと伯母さんが、待ち受けていた。
どうやら噂が広まっていたようで、2人は既に俺が遊び人を選定してしまった事実を知っている様子だ。
「おいデルク、どういう事だ? お前と一緒に選定に向かった連中が、ことごとく儂の家に暴言を吐いているではないか! 遊び人の住む家だ!と。まさかおまえ、遊び人なんて職業になったんじゃないだろうな!」
伯父さんの声が――
怒りに満ちている。
伯父さん、ごめんなさい。
そのまさか――なんです。
俺は無言で、カードを差し出す。
伯父さんは黙ってカードを受け取り、伯母さんに渡す。
伯母さんも震える手で受け取り、カードを見ている。
その目が――
だんだん大きくなる。
そして――
俺にカードを返してくれた。
「可哀想な弟の子だと思って世話をしてきたが、遊び人の面倒を見るほどお人好しじゃないのでな。今日を限りに出ていってもらおうか!」
伯父さんの言葉が――
胸に突き刺さる。
「あ、あなた! いくらなんでもそれは!」
伯母さんが、伯父さんを止めようとする。
「いいかお前! デルクがこのままこの家に居続ければ、さっきの連中がまたあんな事をしてくるんだぞ?」
伯父さんが、伯母さんに言う。
「で、ですが。お義姉様と約束しましたのに」
伯母さんの声が――
震えている。
お義姉様――
俺の母さんのことだ。
伯母さんは、母さんと約束したんだ。
デルクを、10歳になるまで育てると。
「もう選定を受けたんだ、義理は果たしたさ。弟も遊び人になった息子の面倒を見ろとは言わんさ」
「ですが……」
伯母さんが、まだ何か言おうとする。
だが――
「なあそうだろデルク? 俺達はお前をここまで面倒見てやったんだ。お前ならわかるだろう?」
伯父さんが、俺に言う。
その目は――
俺に、わかってくれと訴えている。
俺は――
頷いた。
「はい伯父さん。悪いのは遊び人を選定してしまった俺です。伯母さんも今までお世話になりました、そしてありがとうございました。荷物をまとめ、出ていきます」
俺はそう言った。
伯父さんの顔が――
少しだけ、安堵する。
「まあ、その、デルクよ、恨むんじゃないぞ?」
「分かってます。むしろ今までこうしてよくして下さった事、このご恩は一生忘れません。それでは部屋の荷物をまとめ、出ていきます」
俺は、泣きそうになるのを必死に堪える。
ここで泣いたら――
伯父さんと伯母さんを、困らせてしまう。
俺は、部屋に向かった。
部屋に入る。
数年間、暮らした部屋。
小さな部屋だけど――
俺の居場所だった。
もう――
ここには戻れない。
俺は、上着を脱ぐ。
そして、隠してあった服に着替える。
万が一があった時の備えだ。
服にはポケットを仕込んであり、そこに今まで地道に稼いだお金――金貨数枚だけど――を服やズボンの隠しポケットにしまっていく。
万が一財布を無くせば、全て失う。
それを避けるために、こうして分散している。
今はカードがあるので、後でギルドでカードに入金しないといけないが。
俺は、冒険者として活動できるよう準備してあった荷物を取り出す。
着替えの服、小袋、小さな水筒、食器、ロープ――
全てカバンに入れる。
腰には、あまり切れ味はよくないが、ナイフよりは大きいショートソードに見えなくもない剣をさす。
懐には、ナイフを仕込む。
少量だが、用意してあった薬も持ち出す。
残念ながら、全てを持ち出すには俺の体は小さすぎる。
諦めて、手提げカバンに入るだけ入れる。
こちらは万が一捨ててもいいもの――予備の服などを入れる。
準備ができた。
俺は、部屋を見渡す。
最後に――
この部屋を、見ておこう。
ベッド、机、窓――
全て、思い出がある。
だが――
もう、ここには戻れない。
俺は、部屋を出た。
伯父さんと伯母さんに、最後の挨拶をする。
「それでは、お世話になりました」
俺は、深く頭を下げる。
2人は――
何も言わなかった。
ただ、黙って見ている。
俺は、扉を開ける。
外に出る。
扉が――
閉まる。
結局、2人は見送ってくれなかった。
だが――
仕方ない。
俺は――
遊び人×3なんだから。
そして俺は、住処を失い、今後の見通しも立たないまま、この場を去った。




