第215話 国王ヴィッテヴェーン16世
「ではお入り下さい。」
案内のおじさんにそう言われ……でもきっとそれなりな身分のおじさんなんだろうな、と思いながら言われた通りにします。
しかし何か気になります。何だろう。
特にここまで説明のないまま謁見の間に入れと言われ、困惑します。
トゥーニスさんに王都へ来てほしいと言われ来たものの、国王陛下とお会いするなんて一言も説明や伝言、それっぽい事は何もなかったのに、いきなりです。
しかも何の為に国王自ら俺達と会うのか皆目見当がつきません。
部屋に入ると無人の立派な椅子が2脚あり、その前にはトゥーニスさんとユスティネさんが立っています。
あれ?陛下は?
俺達が入室すると後ろのドアが閉まっていきます。あれ?どうしたら?
するといきなり肩を叩かれ振り向きます。
するとその、俺の頬にその人の指が。
え?え?何ですかこれは?
「うひょおお!ひーかかったひーかかった!」
ええと案内してくれたおじさんだよね?
しーんと静まり返った部屋に響き渡るおじさんの言葉。
するとため息をついたトゥーニスさんがこちらにやってきます。
あれ?俺ではなく、俺の肩を叩いたおじさんの所へだけど。
しかし何者でしょうか?
俺は案内されて部屋に入ったはいいのですが、その後肩を叩かれるまで誰かが俺に近づいていた事に全く気付きませんでした。
スキルで気配を探っていたはずなのに。相当な手練れということでしょうか。
そして今大きな笑い声が。
「父上、いたずらも度が過ぎますぞ?」
「よいではないかよいではないか!これが楽しみでこの部屋へ人を呼んでいるようなものなんだぞ?」
「そんな事をする国王は大陸中探しても父上以外居ないでしょうな。」
えーと……目の前のおじさんが国王陛下?
「其方がデルクか?」
「は、はい。」
「そうかそうか、その方が所持しておるスキルをもってしても余の変装を見破れなかったのだな!そうかそうか!うひょひょひょおお。言い忘れとったが、余が国王ヴィッテヴェーン16世ぢゃ!」
そんな自慢気に語らなくても……。
「あ、ちょ!トゥーニスよ何をする!」
襟首捕まえて玉座に連れていってるよ。何この国王陛下??単なる変なおじさん?
「国王なら国王らしく、玉座でふんぞり返っていろよ!」
何が起こっているのでしょうか?
「いいではないかトゥーニスよ。余の楽しみを奪うでない!」
「その楽しみに付き合わされる方の身にもなったらどうですか?」
トゥーニスさんはまるで腐った物を見るかのように陛下を見つめています。
あの……これが普通の光景なのでしょうか。
「デルクよ、楽しかったであろう?」
楽しかったって?それって本気で聞いているのでしょうか?
「……訳が分かりません。」
あれが楽しみ??
うーん、俺は理解に苦しみます。全く理解できません。
「ははは!まあ冗談だ!其方らの反応、しかと楽しめた!その方ら聞けばかの深淵のダンジョンを攻略したとか……誠か?」
深淵のダンジョン?
「その、あのダンジョンは深淵のダンジョンと呼ばれているのでしょうか?そうであれば100層に到達しました。」
「そうかそうか100層か……マジで?」
駄目だ!この国王陛下、単なるダメ親父にしか見えないのですが。
あ、レイナウト目を逸らしている!
ロースもだ!
セシルは……セシルだけは俺を見てくれているよ!
「影ながら応援する。」
ありがとうセシル。
何て優しいのだろう。
セシルはそっと俺の手を握ってくれます。
ああ何だか落ち着きます。
ダメ親父のペースに完全に飲まれてしまっていたので、ありがたいです。
「うひょお!おいおいまさかこんな彼女がいたとは!やけるのう!!我が娘をどうじゃ?と思うたが、要らぬ下世話のようじゃ!」
え?何どういう事?そもそもそんな女性いませんよ?
「デルクには私がいる!」
セシル?何でそこで抱き着くの?え?え?
「そうかすまんのうお嬢ちゃん。」
「セシル!」
「すまんかったなセシルよ。で、何処まで行ったのじゃ?まさか最後までか?」
「何処まで?デルクと何処へ向かえばいいのだ?最後とは?ダンジョン最下層の事か?」
「へ?いやいや何を言うておる?ナニじゃよナニ。」
あ、トゥーニスさんが陛下の背後に……
スパン!
いい音が。
「いてええ!何をするバカ息子!」
「セシルとデルクはストイックなのです。」
「何だと!そんなバカな!」
バカはこいつだ、場内はそんな雰囲気で満たされました。
こんな人が国王陛下なのでしょうか?
俺は何か大事な覚悟をしに来たつもりだったのに、すっかり肩の力が抜けてしまいました。
……まあ、それはそれでいいのかもしれません。




