第12話 国王の庶子
「それにだな……君はまだ子供だから知らんと思うが、国王陛下は根っからの遊び人なのだよ。そして幼馴染である宰相閣下もまた、国王陛下と共に悪童だったのだよ」
トゥーニスが、続ける。
うん?
何か聞いた話と違う。
確かに宰相閣下と国王陛下は幼馴染だ。
しかも冒険者時代は同じパーティーメンバーで、数多の英雄譚をあちこちで見かける。
酒場に行けば、吟遊詩人が歌っている。
本屋に行けば、英雄譚の本が並んでいる。
国王陛下と宰相閣下は――
この国の英雄なんだ。
「国王陛下と宰相閣下は冒険者時代、同じパーティーで活躍し、数多の英雄譚を街のあちこちで残したと聞き及んでいますが、違うのですか?」
俺は、混乱しながら聞く。
「それだがな……ある意味英雄だな。英雄色を好むというだろう?」
トゥーニスが、意味深に笑う。
英雄色を好む――
その言葉の意味を、俺は知っている。
女性関係が派手だということだ。
「英雄譚と違いますが、そういう方もいらっしゃると聞いた事はあります……」
俺は、困惑しながら答える。
そして――
トゥーニスの次の言葉に、俺は驚愕した。
「かく言う俺も、国王陛下の落とし種さ」
え?
落とし種――
つまり、隠し子?
「え? トゥーニスさんって、王子様なんですか?」
俺は、驚いて聞く。
王子様――
だったら、王宮に住んでいるはずだ。
なのに、なぜこの街に?
「いや、俺の母親はこの街で普通に暮らしている。まあ庶民だな。いや、庶民と言うのは無理があるか。まあ国王陛下と一時期同じパーティーに所属していたと言うべきか? 国王の子を宿したからそのまま引退、そして此処に居ついたわけだ」
トゥーニスが、淡々と説明する。
うわあ……
同じパーティーメンバーに手を出して、相手はそのまま引退?
それは――
かなり無責任な気がする。
だが、トゥーニスの表情は――
特に恨んでいるようには見えない。
「一応俺は貴族の称号を貰ってはいるが、一代限りの準男爵だしな」
トゥーニスが、続ける。
準男爵――
貴族の中でも、最も低い位だ。
だが、庶子にとっては――
それでも十分な配慮なのかもしれない。
「はあ……でも、国王陛下が遊び人で、トゥーニスさんも遊び人だったんですよね……親が遊び人だと、子も遊び人になりやすいんですか?」
俺は、気になって聞く。
もしそうなら――
遊び人は、遺伝するのかもしれない。
「いや多分違うな。国王陛下の子供で遊び人は……数人だ。残りは色々だな」
トゥーニスが、首を横に振る。
「そうなんですか……」
遺伝ではないのか。
じゃあ――
なぜ俺は、遊び人×3なんて引いたんだ?
「まあそういう話は追々してやろう。それよりもだ、先ずはここの生活に慣れる事だな。そして1週間程過ごしたら、少しずつ遊び人の事を教えてやろうではないか。そして、5年後に備えるのだ」
トゥーニスが、話題を変える。
「先程から気になっていたのですが、5年後に何を備えるのですか? 確かに俺達は5年後、15歳になれば冒険者となって金を稼ぐ必要がありますが、まだまだ時間はありますよね?」
俺は、疑問をぶつける。
5年――
長い時間だ。
だが、トゥーニスの表情は――
真剣だ。
「あるといえばあるが、あっという間だぞ5年なんて。それに今、デルクは俺の所にいるからいいが、1人で街の中を歩いてみろ、途端に誹謗中傷、そして投石の被害に遭う。運が悪ければ殺されるな。中には住んでいる街に遊び人がいるのを恥と思う連中もいるからな」
トゥーニスの言葉に、俺は背筋が寒くなる。
殺される――
そんなことが、本当にあるのか?
「だがまあ、普通は年に数十人程遊び人が増えるから、全員をそんな風にする訳にはいかんのだがな……」
トゥーニスが、付け加える。
俺は――
運が良かったのだろうか?
トゥーニスさんに出会えて。
「それに本来は遊び人が現れたら教会へ報告をせねばならぬ決まりなのだよ。しかしあの司祭はそれをしないだろう。出世の邪魔になると思い、秘かに其方の命を狙うかもしれぬ。もしくはダンジョン等で修行中に、事故に見せかけ始末するやもしれぬ。一歩外へ出たら、常に油断する事のないようにな」
トゥーニスが、警告する。
司祭様が――
俺の命を狙う?
そんな……
あんなに親身になってくれたのに。
「大丈夫なのでしょうか?」
俺は、不安になって聞く。
それにあんなに親身になってくれた司祭様を、どうしてトゥーニスさんはこのような言い方を?
もしかして実際は……
いや、疑っては駄目だ。
でも――
トゥーニスさんの警告は、真剣だった。
ここは――
じっくりと見極めないと。




