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TOBE  作者: 清泪(せいな)
赤いマフラー

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第5話

「そこに屈み込んでる彼はどうし……」


 勇樹が言い切るより先に、歩み寄ってきた高校生の手が勇樹の胸ぐらを掴んだ。

 ティーンズファッション雑誌のモデルのように整えられたオシャレな金髪が勇樹の後方から照らす自転車のライトで輝くのを最後に、自転車のライトは消灯した。

 自動点灯とはいえ、ペダルを漕がなければ点き続けるわけもない。

 まだ夜目がはっきりとはきいていない勇樹には、少し困った事態になった。

 今から殴る相手の顔が見えないので覚えられない、というちょっと困った事態に。


「うっせぇ、オッサンには関係ねっ……」


 二回目の“オッサン”には腹がたったので、勇樹は胸ぐらを掴む高校生の腕を捻ると足を払って宙に舞わせた。

 腕と足に別々の回転を加えれば、人は簡単に宙を舞う。

 自身に何が起きたのかわからないまま身体を地面に叩きつけられた高校生の腹を踏んづける。


「オッサンじゃねぇ、お兄さんだ」


 そう一言発して、勇樹は奥で屈み込んでいる少年に向かって一歩を踏み出した。

 闇の中で影、他の高校生達が蠢いている。

 何が起こっているのかを、まだ把握できずにいるようだ。


「いいか、コイツみたいに痛い目にあいたくなかったら答えろ。そこで屈み込んでいる少年はどうしたんだ?」


 暗闇の中で蠢く高校生達に見えるかどうかはわからないが、勇樹は足下で倒れている指さしながら言った。

 繰り返した質問は一音一音をはっきりと発する。


 高校生達の答えを待つ。

 しかし誰一人としてそれには答えず、闇の中息を飲む音だけが聞こえる。


 息を飲む音に足が地面を動く音が加わる。

 闇の中で蠢く高校生達が態勢を整え始めたのだ。

 深く落ちるように静まる空気。

 勇樹はその空気が意味する事を理解した。


 噂になるほど、彼らはここでイジメを繰り返している。

 つまり噂となってしまうほど、その現状は誰にも制止できずにいるということ。

 近所の住民も、学校の教師も、そして、近隣の警察官も。

 制止を免れる様に或いは逃げ、或いは攻撃してきたのだろう。

 先程真っ先に胸ぐらを掴んできた少年のように。

 イジメを制止する者に牙を剥いてきたのだろう。


 吸えば、吐く。

 小さな呼吸が聞こえた。

 いくつもいくつも、辺りの空気を重くする様な鋭い呼吸が。

 臨戦態勢だ。


 威勢良く吠えるわけでもなく、影の一つが動く。

 暗闇の中で乱入者へ攻撃することに慣れているのだろう。

 下手に自分の動きを察せるようなことはしない。

 それでも暴力を振るうという興奮を抑えきれないのか、漏れる息が白く濁り宙を流れた。

 勇樹は一歩前のめりになる吐息を見つけ、牽制するように一歩踏み込んだ。


 後手の先。

 漫画で得た知識と通信教育で得た知識、その中で出来たら格好いいよなと思った戦略。

 一歩踏み込んだ勇樹は相手の動きを少し待った。

 しかし、牽制が効いたのか高校生の方も次の動きを待ち構える。

 互いに間合いからは少し遠い距離で待ち合う。


「うぜぇなぁ、来るなら来いよ、オッサン!」


 暗闇での沈黙のにらみ合いにほんの少しの我慢もできず、高校生が吠える。

 応えるように勇樹はもう一歩踏み込んだ。

 蹴りの範囲。


「トォッ!!」


 どれが後で、どれが先だかわからなくなったが、吠えられたので蹴り止めた。

 横腹を蹴られ、うげぇ、と唾液を吐く高校生の一人をかばうように周りの高校生たちが身を乗り出す。

 仲間意識はあれど連携などは取れるわけもなく、それぞれの攻撃は一点狙いで、避けやすかった。

 勇樹は冷静にかわしていく。


 前から三人、左右に二人。

 夜目に馴れてきた視界に映る五人の人影。

 倒した一人、横腹を抑え屈む一人。

 合わせて七人。

 奥にはしゃがみ込んだままの人影が一つ。

 七対一。


 反吐が出る、とかそういう悪態をつきたいなと勇樹は思った。

 だけども直面した事態にはそういう反応を越えた拒絶があった。


 前から来る三人の真ん中、背の高い高校生の胸ぐらを掴む。

 後ろに身を反らしたはずの勇樹が直ぐ様前へと動いたのに驚いて、高校生の反応は遅れる。

 二人やられたことでビビりも加わり、高校生は身を強ばらせる。


「ビビんならこんなことしてんじゃねぇよ」


 勇樹は怒気を込めてそう呟くと掴んだ高校生を突き放して、前蹴りを一発。

 正面三人の残る二人、左右の高校生がその隙にと応戦するも、その動きに合わせて次々と身をかわした。

 自身がこんなに動けるとは、と勇樹自身が驚いていたがヒーローへのイメージトレーニングは入念すぎるほどしてきたものだ。

 子供との喧嘩ぐらいで遅れをとるわけはない。

 顔面を手の甲で払えば痛いといちいちリアクションを取るような素人、イメージの怪人たちとは程遠い。


 ……こんなもん、ヒーローのすることじゃねぇな。

 残る高校生たちにきつめな一撃をそれぞれお見舞いしながら、勇樹はそう自嘲した。

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