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09.次代の者

(はぁ⋯⋯。気になるって難しいな)


 アッシャーに次代の大神官を探すって宣言してから、既に3年が経った。僕は、今年33歳だ。一時期、嫌になって、仕事ばかりしていたけど、今では次の大神官と同時並行して、お嫁さんも探してる。

 

 お嫁さん探しは、まず、釣書の相手の家をアッシャーに調べてもらって、問題ない家柄だけにしてもらう。その後、会うんだけど、僕の年齢に女性が求めるのは、大人の包容力とか色気とか⋯⋯、人生15年目の僕には、とにかく無いものばかりなんだ。


 「上手くいくかも?」って思った事もあったんだけど、そしたら急にお金を無心してきてさ。僕が、今自分で自由に出来るお金が無いってわかったら、いっさい連絡が取れなくなったんだ。

 

 僕のお金(大神官としての稼ぎ)は、神殿に管理されてて、使う時には事前に申請しなきゃいけない⋯⋯。


(退職する時には、残りを全部貰えるみたいだけど、いくら貯まってるんだろう?)


 金銭トラブルに巻き込まれないように、1回に使える金額が決まってる。デートで渡す花や、観劇チケットなんかは現物支給で、現金を持ち歩かなくて済むように工夫されてる。現金で貰えるのは、飲み物代と、ちょっと露店で食べ物を買えるくらいのお金。だから、港でいた時の方がお金持ちだった。

 

 僕は、相手の女の子には、最初にお金の事を伝えた。そうしたら、デートでお金を使わない(使えない)男に、愛想を尽かす子が続出で、なかなか2回目のデートに辿り着かなかった。


(僕に魅力が無いんじゃなくて、お金が原因だよね? だと良いな⋯⋯)

 

 僕は、大神官を辞めたら、公爵になって領地経営しなきゃいけない。だから、できれば領地経営を手伝ってくれるような、堅実で無駄遣いをしない、きちんと知識を備えた子と結婚したい。だけど、この世界では、家を継いで領地経営するのはほとんどが男で、その知識を備えた女性は稀だった。


(父さんも母さんも幸せそうだったし、結婚してみたいって思ってたけど⋯⋯、僕、結婚は諦めようかな? そうすれば、大神官も探さなくて良い)


「はぁ⋯⋯」

 

 声に出して、盛大に溜息をついてしまった。


「リプライ様、溜息つくと幸せ逃げますよ?」


 そう言って、ニヤニヤ執務室に入って来たのは、アッシャーではなく、最近大神官の補佐見習いとして任に付いたヒーロムという少年だった。クローバー公爵家の嫡男、15歳だ。


(こいつ、何だか嫌だ!)


 そう思った第一印象は、今も変わらない⋯⋯。何が嫌なのかその時はよくわからなかったんだけど、やたらといつも前向きなんだ。それに、僕と同じくたった人生15年を生きてきただけのはずなのに、公爵家で育ったからか、僕にはない余裕があって⋯⋯、ムカつく。


「溜息をつくと幸せが逃げるか? では、どうしたら幸せが集まるんだ?」

 

 やり込めてやりたくて、少し上から目線な感じで質問すると、ヒーロムはこともなげに答えた。


「笑う門には福来る、笑うだけですよ!」


(やっぱり嫌いだ⋯⋯暑苦しいっていうのかな? 何ていうのか、前向き過ぎて、話していて疲れるんだよな。こいつ、正論を振りかざして暑苦しい熱血教師みたいだ) 

 

「そんな事で福が来るなら、神殿など不要だな」

 

 まるで、悪役の捨て台詞のように、言い捨ててしまった。


(はぁ、見た目だけで言ったら、18も年下の若者に、一体、僕は何をやってるんだろう? きっと、世間からみたら、ヒーロムは、前向きで、明るい好青年なんだろうな⋯⋯)


「前向き!前向き!前向き!前向き⋯⋯」

 

 ヒーロムは、僕の嫌味がわからなかったのか、謎の歌を口ずさんで執務室を出ていった。


(何か、聞いたことがあるような無いような、どこで聞いたんだっけ?)


「前向き!前向き!前向き!前向き⋯⋯」

 

 入れ替わりで、アッシャーが同じ歌を口ずさみながら、執務室に入って来た。


「おい!! 止めろ」

 

 せっかくヒーロムが出て行ったのに⋯⋯。


「おや? あれに何か言われたのですか?」 

「⋯⋯溜息をつくと、幸せが逃げるんだとさ」

「なるほど。リプライ様、毎日のように溜息ついてますもんね? まあ、次の大神官や、嫁さん探しが上手くいっていない事は、存じ上げておりますから、悩みが尽きないんでしょうけど⋯⋯」


(そう、そうなんだよ。勉強だって、逆上がりだって、頑張れば結果が出た。神殿の改革だって、少しずつでも成果が出てる。なのに、何をどう頑張れば良いのかすらわからない)


「そうなんだ⋯⋯人生で(ってまだ15年だけど)、こんなに上手くいかないのは初めてだよ⋯⋯」


(大人って、大変なんだな⋯⋯)

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