表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/18

08.神殿改革

「今日は、月曜休みを始めた結果報告と、相談があって呼んだんだ」

「またですか?」


 元大神官達が、不満を漏らす。

 

「そう、また」


 アッシャーが資料を配ってくれる。そこには、神殿の困り事という名の「僕のやりたい事」が、リスト化して書かれていた。僕が1番欲しいのは、夏休みだけど、いきなり夏休みを導入するには、人手が足りない。


「このような資料を提示されたのです。このうちどれを、ではなく、何処から手をつけるべきかが、本日の議題ですかな?」


 最年長の元大神官が尋ねた。

  

「凄いなおじいちゃん! 話が早くて、びっくりだよ」

「ゴホンッ! 神殿始まって以来の一大改革、というわけですかな」


(あ! 勢い任せに、おじいちゃんて言っちゃった。これ、後でアッシャーからお説教かな?)


 僕が、アッシャーをチラリと見ると、冷ややかな視線で僕を見ていた。


「まずは、職場体験ってやつをやりたいんだ。神官の仕事をもっと知ってもらってさ、憧れの仕事にしたいんだ」

「神官は、尊い仕事、憧れだけで出来るものではありませんぞ」

「でもさ、実際は、平民が食事に困らない手段として希望したり、貴族が多額の寄付をして、名誉職として数年勤めるかがほとんどでしょ? だから今まで、色々変えずに古い体質のままなんじゃない?」

「古いとは? 伝統を馬鹿にされるのですか?」


(説得しなきゃ。今の大神官は、僕だ!)


「違うんだ。本当は、知恵を携えたあなた達に、今すぐ復帰して欲しい。でも、結婚してるし、それぞれの生活があって、簡単に復帰が出来ない事もわかってる。だからさ、これから神殿が変わっていく事を、職場体験を通して伝えていきたいんだ。それで3人に、職場体験の案内役を引き受けて欲しいんだ⋯⋯ダメかなぁ?」


 僕は、おじさんの上目遣いなんて可愛くないってわかってるけど、上目遣いで元大神官達を見回した。

  

「⋯⋯毎日は、できませんぞ」


 最年長の元大神官が、見かねたように返事をしてくれた。


「とりあえず、大神官会議は、毎月、第1月曜日に固定して頂けますか? 予定が決まっていた方が、我々も助かります」


 僕の前任者が言った。


「これからも協力してくれるってこと?」


 僕は、嬉しくなって、声を弾ませた。

 

「協力してくれるではなく、させるのでしょう? まあ、あなたを大神官に任命したのは私ですからね。任命責任ってヤツですよ」


(やった〜!!)


 こうして元大神官による「神官の一日体験ツアー」開催と、月1回の大神官会議開催が決まった。


「リプライ様、とりあえず、次の会議では、どんなツアーにすべきか、皆様のアイディアを持ち寄って頂くという事でよろしいでしょうか?」


 アッシャーが、最後にまとめてくれた。


◇◇


「それでは、大神官会議を始めます」


 今日は、神官の一日体験ツアーが始まってから、初めての会議だ。

 

「最初は緊張していた参加者も、帰る頃には「また来たい」「僕も将来、神官になりたい」などと笑顔を見せてくれておりました」


 僕の前任者が口火をきった。

 

「そうですね、なかなか好評です。ですが⋯⋯」

「ですが?」

「ツアーに参加した子供達から、これだけ広い神殿の掃除は、大変ではないのか? 手伝ってはダメか? と質問を受けまして⋯⋯」


 そう言ったのは、元大神官のリン様だ。


(この人の名前だけは、父さんと同じ名前だから、覚えられたんだよね)


「本当か? じゃあ、手伝ってもらおう!」

「いや、そんな簡単に決めては⋯⋯」


(今まで会議で、リン様は、ほとんどだんまりだったのに、今日は珍しいな)


「だって、やりたいんでしょ? 市民の声を聴く神殿! なんか格好良くない? それに、神殿の掃除が大変なのは、本当じゃないか」

「しかし、不審者が入り込んだりしたら、どうされるのですか? 体験ツアーのように、子供だけを対象にされるのですか?」


(そっか、掃除をするなら、大人の手も借りたいよね? 不審者か⋯⋯、何も考えてなかったな。まだまだ僕は子供で、考えが足りないんだろうな)


「あの? 団体申込にされては如何でしょうか?」


 アッシャーが提案した。


「そなたは、補佐であろう? 発言は許されていないはずだが?」

「まあ、そう目くじらを立てずに、一市民の意見として、彼の意見も聞いてみましょう」


 最年長の元大神官が厳しい目を向けたが、リン様が優しく場を執り成してくれた。


「孤児院や学校、商業ギルドなどの団体で申し込みをさせ、身元の保証は、そちらに任せては如何かと?」

「凄い! それなら、神官達の手間をグッと減らせる。1人じゃ思いつかないアイデアばっかりだ」


 僕は、感動して目に涙を浮かべた。 

  

 そして、神殿の大掃除。最初はあまり市民から手が挙がらずに困った。そこで、清掃後に「オヤツ」を付けたら、それが評判となり、今では抽選しなければならないほど人気だ。


 こんな感じで、今日も神殿はにぎやかだ。新しいことを試すたびに、ちょっとしたドタバタや笑いが生まれる。


(念願の夏休み取得には、まだ時間がかかりそうだけど、いつか叶うと良いなぁ)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ