表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/18

07.大神官の日常

 今日も、朝から忙しい。アッシャーとの約束通り、月1回の聖水作りをしたり、懺悔室で信者さん達の悩みを聞いたり、気がつくと、1年間、毎日忙しなく働いていた。


「アッシャー、お休みが欲しいんだけど?」

「はい?」

「はい? じゃ無くてさ⋯⋯。学校でも、職場でも、週末は休みだろ? 学生なら、夏休みや、冬休みだってあるのに、神官だけ休みが無いなんて、どう考えてもおかしくないかな?」

「民が休む日は、神殿に礼拝に来ますから、難しいかと⋯⋯」


 アッシャーは、僕のお願いに思案した。


「でも、こんな職場だから、未婚男性にだけ許された尊い仕事だとか言って、みんな辞めちゃうんでしょ?」

「いえいえ、生涯独身を貫き通す方もいらっしゃいますよ」


(いや、だからいつも人が足りないんだって)


 神官の仕事は、3食保証されているから、人気がないわけじゃない。おまけに、辞めた後は、神が身元保証人だ。だからこそ、入ってくる人材がいても、辞めていく人材が多くて、万年人手不足だった。


「ま、あなたは、半年に1回しか聖水を作らない事で、本来聖水を作る日に、丸一日勝手に休んでいたんですから、不満に思うのもわかりますけど⋯⋯」


「!? それだ!! 仕事をまとめるのはどうかな?」


(まとめればいいんだ。でも、リプライって、自分だけ休みを一人占めしてたって事? ひどいな)

 

「まとめる、ですか?」

「うん。まとめて、1日空けたらいいんだよ」


 それから僕は、神官の仕事を紙に書き出した。

 

 土曜日と日曜日は、合同礼拝と結婚式を行う開放日。これは、一般的な市民の休みが週末だから変えられない。


(変えるとしたら、月曜日から金曜日の仕事だ。懺悔室での悩み相談、結婚届の受付、孤児院への慰問、神殿の掃除⋯⋯。結構あるなぁ)


「アッシャー、決めた!」


 僕は、18時までの神殿の解放時間を20時まで延長して、月曜日を休みにする事に決めた。仕事の量が変わらないなら、1日の仕事を他の日に少しずつ振り分けたら良い。


「決めた! ではありません。あなた1人で決めて良い事ではありませんよ」

「じゃあ、どうしたら良いんだよ?」  

「大神官会議を招集いたします」

「大神官会議? 大神官って、1人じゃないの?」


(そんな会議があるって、初めて聞いた気がする)

 

「安心して下さい、お一人ですよ。過去の大神官様を3人お呼びするだけです。あなたの在位が長いので、他の方は、儚くなってしまわれましたから」

「儚く?」


(儚くってなんだ? 難しい言葉、苦手だな⋯⋯)

 

「お亡くなりになったということですよ」

「あ、死んじゃったんだ」


 僕の言語能力の低さに、アッシャーが呆れた。


(伝えたい言葉は、受け取る人がわかる言葉で話さなきゃ、意味がないんだぞ!)


 そう思ったけど、言うと、アッシャーから長いお説教をくらいそうだから止めた。


「集まってくれて、ありがとう」


 アッシャーに促されて、僕はまず、感謝の気持ちを伝えた。今回の休みを作る計画は、事前に会議招集の案内とともに送ってある。賛成にしろ、反対にしろ、趣旨は理解してくれているはずだ。


「いえ、幻とまで言われた大神官会議に自らが呼ばれるなど、大変光栄な事です」

「幻?」

「ええ、会議が開かれたのは、過去、次の者を決めずに大神官が急死なさった1度きりですからね」


 元大神官のおじいさんが言った。


「私も、そんな会議がある事、忘れてましたよ」


 そう言ったのは、僕の前任者だというおじさんだ。

  

「私は、良い改革だとは思うものの、一方で、神に仕える身がそんなに休んで良いのか? と判断しかねております」


 前任者のおじさんが、続けて言った。会議室がざわつく。


「みんな、臆病だなぁ⋯⋯」

「臆病だと?」

 

 元神官達が怒気を含んだ言葉を、次々に僕に投げかけた。思わず声に出てしまった僕の呟きが、みんなの怒りと不安を増大させた。


「あのさ!」


 僕は思い切り大きく息を吸い込んで、響くように声を発した。


「僕が欲しいのって、出来ない理由じゃなくて、どうやったら出来るかって、知恵なんだよね」


「⋯⋯」


 僕の言葉に、会議室がしんと静まり返った。


「リプライ様? 失礼ですよ。皆様、あなたの事を試していらっしゃるだけです」


 アッシャーが、僕を嗜めるようにして、沈黙を打ち破ってくれた。


「試して? どういう事?」

「まさか、優秀な元大神官様達が、初めての取組に怖気づくなんてあり得ません。知恵もお持ちのはずです。要は、あなた様が本気か試していらっしゃるだけですよ?」


「そっか。あれ? 僕の勘違い? てっきり、臆病者のもうろくジジイ⋯⋯」


「リプライ様? 心の声が漏れております」


「!! ご、ごめんなさい〜!!」

 

 こうして、紆余曲折あったけど、月曜日の休みを僕は勝ち取った。実施してみれば、意外と平日の夜に訪れる信者も多かった。


(良し! この調子で夏休みも勝ち取るぞ!)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ