表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/18

05.虫の知らせ

「はぁ……」

 

(誰か1人だけでも会ってみよう! わからなきゃ、やってみたら良いよね?)なんて、気楽に簡単に考えてたのに、お見合いが全く上手くいかない⋯⋯。


 会ってみたら、絵とは全然別人だったり、僕の事を知ろうともしない子ばっかりだった。アッシャーが、「僕のスペックしか見てない」って言ってた事は、本当なのかもしれない。


(顔が全てじゃないけど、第一印象って大事だよね?)


 絵と別人てだけで、何だか嘘をつかれた気分になって、その後の会話が全く耳に入らなくなる――。


「あの、大神官様ですよね?」


 悪夢のようなお見合いを思い返して、溜息をつきながら、教会前の花壇で花に水やりをしている僕に、品の良い御婦人が声を掛けてきた。


(誰? 僕、会ったことあったかな? まさか、僕にこの場で求婚なんてしないよね?)


「前に懺悔室でご相談した者です」

 

(あぁ、信者さんか。でもいつの人だろう? 1日に何人も相手にしているし、声だけじゃ、全く思い出せないな⋯⋯)


「あの? 失礼ですが、どのような?」

 

 僕が聞くと、御婦人は丁寧に応じてくれた。


「2ヶ月ほど前に、自己責任だと伝えなさいと」


(2ヶ月前?)


「あ、(あ〜!!)」

 

 思わず大きな声を上げそうになって、口元を自分の手で押さえた。隣には、おじさんに転生する前の僕と、同じくらいの背の少年が立っている。


「もしかして?」

「ええ、大神官様の助言を聞いて放っておいたら、うふふっ」

 

 御婦人が嬉しそうに柔らかく微笑んで、息子に頭を下げさせた。


(初めての相談者さんだ!)


「それは良かった」

 

 僕は、丁寧に頭を下げ、場を離れた。


(こんな僕でも、役に立つ事ができたんだ!)


 僕は嬉しくて、飛び回りたい気分になった。『ヨッシャ!』実際に30過ぎたおじさんが飛び回ってたら気持ち悪いから、小さく1人で拳を握りしめた。


(わざわざお礼を言いに来てくれたのかな?)


 何だかとっても温かい気持ちになって、ウキウキしてきた。


「リプライ様〜! こんな所にいらっしゃったんですね?」

「何だよ、今は食後の休憩時間なんだから、花壇に水やりしたっていいだろ?」

 

 僕は、アッシャーを睨んだ。


(せっかく良い気分だったのにな⋯⋯)


「まあ、そうなんですけどね? 急ぎのご相談がありますので、執務室へお戻り下さい」

「え〜?」

「はいはい、可愛い鳴き声出しても、ダメですよ」

 

(鳴き声って言われた⋯⋯コイツ、僕の事何だと思ってるんだよ!)


「何だよ、急ぎって?」

 

 僕は、せっかくの休憩を邪魔されて、ムカついたから、もう一度、アッシャーを睨みつけた。


「フィリップ侯爵家から、結婚式の司祭をして欲しいと依頼が来ております。お受けしますか?」

「へぇ、良いんじゃない? 新郎新婦さんをお祝いするんだろ? でも、何でわざわざ聞くんだ? 懺悔室だって、安息日の司会だって、今まで許可を求めた事なんてないじゃないか?」

 

 訝しげにアッシャーを見遣る。


「あ、気づいちゃいました? 実は、縁もゆかりもなく、結婚式の司祭を大神官に依頼して来るなんて、そんな図々しいお方は初めてでして⋯⋯、それに⋯⋯」

 

「何だよ? 珍しく歯切れが悪くないか?」

 

アッシャーは、言葉を選んでいる様だ。


「いや、笑わないで下さいよ? 本当に何となくなんです。直感って言うんですかねぇ? 何だか嫌な予感がするんですよ」

 

(あぁ、明確な理由が無いのか⋯⋯、そりゃ説明が難しいよね?)


「アッシャー? それは大事な事だよ、『虫の知らせ』って言って、無視しちゃ駄目だ、断ろう!」

 

(どんな理由で断ろうかな?)


「リ、リプ⋯⋯ライ様、虫の⋯⋯虫の知らせ⋯⋯を無視⋯⋯って、⋯⋯親父ギャグですか?」

 

 僕は真面目な話をしてたのに、アッシャーは、身体をヒクヒク震わせ、笑いを堪えながら発言した。


「はぁ~、笑わせて頂きました。それでは多忙を理由にお断りしておきます!」


「えっ? そんな理由で良いのか? 待つって言われたらどうするんだ?」


「大丈夫ですよ、もともと大神官が結婚式の司祭をした事なんて、ほとんどないんです。司祭をするとすれば、お身内のものくらいです。通常通り、目下の者にやらせておきます」

 

 その場はそれで終わった。


 数カ月後、アッシャーがニヤついて、僕の執務室に入って来た。

 

「リプライ様、良かったですねぇ」

 

「何がだ?」

 

 アッシャーの唐突な問いかけに、何の事だか反応に困った。

 

「あれ? まだお噂を聞いておりませんか?」 

「だから何の?」 

「フィリップ侯爵家ですが、脱税の疑いで取り調べを受けているそうですよ?」 

「そ、そうなのか?」

 

(フィリップ侯爵って、たしか僕が結婚式の司祭を断ったお家だよね?)

 

「いや〜、虫の知らせ、大事ですね、もしあの時、受けていたら、確実にリプライ様や神殿が加担していたのではないか、と疑われ、巻き込まれてたでしょう?」

 

(はははっ⋯⋯、そんな事聞いたら、お見合いが今まで上手くいってないのもありがたいのかな? これからは、まず、相手の家の状況をよく調べるクセをつけなくちゃダメだな?)


 これ以来、僕は顔だけが気に入ったご令嬢に会う事を止めた。しばらく、仕事に打ち込むしか無さそうだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ