04.モテ期到来
(釣書って、なんなんだろう?)
「やっと、読む気になったんですね? 読まないから、燃やせ!! なんて仰るんで、取り敢えず半年経ったら、仕事として燃やしてますけど⋯⋯」
「ごめんなさい。他人に、嫌な事押し付けてたよね? そもそも人から貰ったものを読まずに捨てるなんて、人として⋯⋯捨てるなら自分で捨てれば良かったんだ⋯⋯」
(このおじさん、大神官だし、てっきり良い人だって思い込んでたけど、実は悪い人なのかな?)
「いえ、私が頂いても、読みはしないでしょうから」
「えっ? アッシャーも読まないの?」
「まあ、その量と内容をもう一度見て、どのようなお返事にするかだけ決めて下されば、私がお断りの返事を手配しますよ。今、お持ちしますので、お待ち下さい」
そう言って、アッシャーは、部屋を一度出ていった。
「お待たせいたしました!」
戻ってきたアッシャーは、お供の者を連れて、サービスワゴンの上にいっぱいの釣書を持って来た。木箱4つに収められたそれらは、今にも崩れ落ちそうだ。
「これで全部?」
「古い物から3ヶ月分ですよ。取り敢えず、分類用の箱を他に2つ用意しますから、断るか断らないか分けて入れて下されば結構です」
「うん」
そうして初めて、僕は、釣書とやらを目にする事にした。
「か、可愛い〜!!」
中を開くと、可愛い女の子の絵が出てきた。思わず顔がニヤける。
「え! 僕と結婚したいから、会って欲しいって?」
(これって、お見合いってこと? 釣書って、お見合いの申込書のことだったんだ)
取り敢えず、申し込んでくれた子には申し訳ないけど、好みの顔かどうかで、分けることにした。だって、3ヶ月だけで100通以上あるんだもん。絵を見るだけできっと1時間はかかる。
「ねぇ、アッシャー、これって、モテモテってことだよね?」
(こんなおじさんが、何でモテるんだ? この世界の人って、趣味が悪いのかな? 太ってる人がモテる国もあるって、学校の先生が言ってたから、おじさんがモテる国もあるのかな? 僕には、どんな子が良いんだろう⋯⋯)
「はいはい、モテモテですよ⋯⋯。まぁ、あなたのスペックしか見てないですし、ご令嬢というよりは、その親御さんが結婚させたいだけですけどね?」
アッシャーが溜息をついた。
「ヘヘッ、それでも、たくさんいる男の人の中から選んでくれたって思ったら、何だか嬉しいな!」
思いっきり笑顔を向けると、アッシャーが何だか残念なものを見る目で僕を見た。
「取り敢えず、こっちの箱の子は断ってもらって良い?」
「理由はどのように?」
「ん〜、正直に言うと、好みの顔じゃないだけなんだ。でも、そんな事言ったら怒られちゃうよね?」
「はぁ⋯⋯、わかりました。今回は御縁が無かったと無難にお断りしておきます」
「ありがとう!!」
「で、そちらの残りは? どのように?」
「だよね? 正直、会ってみないとわからないけど、まだ15通くらいあるし、全員に会うわけにはいかないよね? アッシャーは、どうやって選んでるの?」
僕は、アッシャーに聞いてみた。『わからない事は恥ずかしい事じゃない』って、昔、母さんに教えてもらったんだよね。大人に聞いたら、大抵の事は知ってたり、知らなくても調べて教えてくれる。
「わ、私ですか?」
「そうそう、だいたいアッシャーだって、結婚してないから神官してるんでしょ?」
「⋯⋯私の場合、幼い頃から決められた相手がおりますので、特に考えた事、ないんです。⋯⋯お役に立てず、申し訳ありません」
アッシャーが珍しく謝った。
「あ、謝らないでよ。凄いな! 恋人がいるって事? どんな人? ねぇ、どうやって知り合ったの? どこが好きなの?」
僕は、興奮してアッシャーを質問攻めにした。
(恋人がいるって、どんな感じなんだろう?)
「⋯⋯い、言いません!」
アッシャーが顔を真っ赤にして、部屋を出て行った。
「あんなに真っ赤になるなんて、アハハッ」
僕は、声を立てて笑った。思えば、この世界に転生して、初めてかもしれない。
(あんなに顔を真っ赤にして⋯⋯。そんなに恥ずかしがる事なのかな? だって、相手の子にはそれだけ素敵な所があるんだよね? 友達の素敵な所を見つけられるのは、良い事だって、担任の先生が言ってたけど⋯⋯。友達の好きとは違うんだよね?)
「ぷふっ」
僕は、アッシャーの真っ赤な顔を思い出して、もう一度笑った。アッシャーには、いつも叱られたり、嗜められてばかりだから、可笑しくて仕方ない。
(まぁ、取り敢えず、何とかなるかな? 誰か1人だけでも会ってみよう! わからなきゃ、やってみたら良いよね?)