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18.秘密と契約

最終話です

「ところでリプライ様、もう本当に隠し事はありませんわよね?」


「⋯えっと、アナスタシアには、ない⋯⋯かな?」

「うふふっ、あったらタダでは許しませんからね?」

 

(あぁ、夢か⋯⋯。夢の中でも会えるなんて、僕、どれだけアナスタシアの事が好きなんだよ。現実では、ヒーロムに大神官を譲る事を話してないって言って、叱られたんだよな?)


 そう思って、同じベッドで横に寝ているアナスタシアを温かく見つめる。

 

「ああ゛~!!」

 

(あった⋯⋯僕の人生最大の秘密⋯⋯)


 思わず、朝から大声を上げてしまった。(マズイ⋯⋯)と思った時には、遅かった。


「朝から大声を出して、どうされたのですか?」

 

 僕は、話す事を決断した。だって、家族だし、察しの良いアナスタシアには、いつか何かの拍子にバレてしまう気がする。下手に隠し立てして、疑いを持たれるより、話してしまって方が楽だ。


「あのさ、怒らない?」

 

(話す前に怒らないか聞いてしまうなんて、僕がまだまだ子供だからなんだろうな)


「いえ、怒ります。あなたがそう仰るって事は、怒られる様な事なのでしょう?」


「う、⋯⋯えっと、これだけは初めにわかっておいて欲しいんだけど、決して隠そうとか秘密にしようとしてたわけではないんだ」

 

(そう、本当の事だ!)


「あらあら、いつまで言い訳が続くのかしら? 悪気がなければ何をしても良いわけではなくてよ? そんな事では、父親は務まりませんわ!」

 

 僕らは、結婚して直ぐに子供を授かって、もうしばらくすると親になる予定だ。アナスタシアに厳しく言われても仕方ない。


「ごめん。でも、信じてもらえた事がないから、すっかり忘れてたんだ」

「忘れる様な些細な事なんですの?」


「いや、えっと⋯⋯僕、実はリプライじゃない⋯⋯」


 アナスタシアが、目を丸くして押し黙った。

 

「え? リプライ様がリプライ様でない?」


(混乱するよね? 僕だってしたし)


「うん、僕、本当は港って言うんだ⋯⋯気づいたら身体だけリプライで⋯⋯」

「ちょ、ちょっと待って下さい。理解が追いつきませんわ」

「だよね?忘れて⋯⋯」

「忘れろ? 無理ですわ。だって、あなたは⋯⋯神殿で信者の悩みを聞き、婚礼の司祭を務め、聖水だって作っていたでしょう? あなたの素直で、誠実で、年上なのに可愛らしい所が好きだと思っていたのに、私は、私は、騙されていたのですか?」

 

 アナスタシアが悲しそうにうつむいた。


「違う!⋯⋯あ、大きな声を出して、ごめん。アナスタシアに出会った時には、既に僕はリプライで⋯⋯、訳がわからないよね? 自分でも理解の範疇を超えてて、上手く説明出来ないんだ。だから、今までアッシャーにも信じてもらえなくて⋯⋯諦めてしまってたんだ」


「⋯⋯」


「⋯⋯」

 

 お互いに無言になる。


「それで? 本物のリプライ様はどちらに?」

「わからない。僕の暮らしていた世界では、転生って言われていてさ。そういう物語が溢れてたんだけど、実際にそんな人には会った事ない。身体の持ち主の記憶を取り戻す登場人物もいれば、そうじゃない人もいてさ」

「思い出したら、リプ⋯⋯港様の記憶は、無くなってしまうのですか?」

「まさか?」

 

(記憶を取り戻す事ばかりで、正直今の僕の記憶が無くなるなんて、考えた事なかった)

 

 僕は、リプライになる前の港の記憶を、洗いざらい話した。


「⋯⋯契約魔法を⋯⋯結んで頂けますか?」

 

(そう言えば、アナスタシアは月魔法の持ち主で、契約魔法が得意なんだった)


「どんな?」

「もしあなたが⋯⋯、あなたの意思ではなくなった時は——離縁していただきたいのです」


 アナスタシアの手が震えている。

 

「それは⋯⋯」

 

(ダメだとは言えない。だって、僕の知らないおじさんが、アナスタシアと夫婦になるって事だ。でも、産まれてくる子供が父親の居ない子供になってしまう⋯⋯)


 悩んでも何も出て来ない。


「君に任せるよ」

 

 僕が言うと、アナスタシアの身体がダークブルーに光って、2人を包んだ。


「終わりましたわ」

 

 僕が頷く。


「あなたが偽物、と言いたい訳ではありませんけど⋯⋯、本物のリプライ様の記憶を戻す方法をさがしましょうか?」

「はい?」

 

 驚く僕を横目に、アナスタシアが意地悪く微笑んだ。


(夢で見た、タダではおかないとは、こういう意味だったのか?)


「何をぼやっとしてますの? 取り戻せていないから、不安になって、恐れるのでしょう? でしたら、取り戻してしまえば良いのです!」

「でも⋯⋯」

「でもではありませんわ! 契約魔法を結び、後に引けなくなったのですから。私と過ごした日々を忘れるなんて、何があっても許しません!」

 

 そう言って、アナスタシアは力強く微笑んだ。


「僕だって、忘れたくない⋯⋯」

 

 思わず俯いてしまう。


「俯いている暇などありませんわよ? 前向き! 前向き! 前向き! 前向き!」

 

 アナスタシアが、ヒーロムの前向きソングを口付さんだ。


「お、おい!」

 

 驚いて、顔を上げる。


「ヒーロム様に教えて頂いたんですのよ」

 

 こうして、ヒーロムの前向きソングは、いつの間にやら、我が家のテーマソングになってしまった。神殿を辞めたのに、どこまでも着いてきて、本当に暑苦しいヤツ、だから嫌いなんだ。⋯⋯でも、ほんのちょっとだけ、感謝してる。この事は、永遠に秘密だ。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。

リプライとアナスタシアの物語は、ここでいったん幕を閉じます。


次は、この物語にも登場したヒーロムを主人公にしたお話を予定しています。

まずは短編版、その後に連載版として展開していく予定ですので、ぜひお楽しみに!

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