表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/18

15.仕返し

(ど、どうしよう)


 背中に冷たいものが流れる。


(これ、冷や汗ってヤツだよね?)

 

「⋯⋯ごめん」

 

 アナスタシアが黙っていたから、僕は謝罪した。


「ご、ごめんじゃありませんわ⋯⋯。謝れば許される訳ではなくてよ? えっ? 王様? えっ? どういう事? お兄様って、まさか王様なの? と、取り乱して、失礼いたしました。私、フォス男爵家の次女のアナスタシアと申します」

 

(アナスタシアって、混乱した顔も可愛いんだな)


 そう思ってたのに、アナスタシアは、あっという間に平常心を取り戻して、王様へ優雅なカーテシーで挨拶をした。


「顔を上げよ」

 

 王様が言った。遠慮がちにアナスタシアが顔を上げる。


「フォス男爵令嬢、愚弟が申し訳ない事をしたな」

「いえ、王様に謝罪頂くなんて、滅相もございません。悪いのは全て、リプライ様。そして、それを見抜けなかった私です」

「はっ、殊勝な事だ。結婚すると聞いたが、本当にこやつで良いのか? 察するに、ここまで何も教えられずに、連れて来られてしまったのだろう? それに、こやつは、結婚したら大神官を辞任して、公爵位が叙爵される。そなたには、素人の夫のために、領地経営をしてもらわなければならない。それから⋯⋯」

「お、王様、待って下さい⋯⋯それ以上は――」

「黙れ!」

 

 (それ以上は、僕のダメなところを言わないで!)僕がそう言おうとした所を、王様が遮った。大きな声ではないのに、口調は厳しく、目が鋭い。思わずビクッとなって、押し黙った。


「今ならまだ引き返せるぞ? 私もこの報告を聞かなかった事にしてやろう」


(え? 僕、婚約破棄されちゃうの? どうしよう。まだ正式な婚約じゃないから、婚約未遂?)


「⋯⋯王様、失礼を承知で申し上げてもよろしいでしょうか?」


(失礼を承知でって、やっぱり⋯⋯どうしよう、とうしよう、どうしよう⋯⋯)

 

「私的な場だ、何なりと申せ」

 

 王様がアナスタシアにすんなりと許可を出した。


「まず、賜る領地の場所や規模、それから収支等の資料を拝見させて頂きたく存じます。それと⋯⋯リプライ様の資産も! 何年も大神官を務めていたのですから、まさかゼロって事はありませんよね?」


 アナスタシアに睨まれた気がしたけれど、気のせいだと思うことにした。けれど、どうして僕の財産なんて聞くんだろう。まさか⋯⋯今までのお見合い相手みたいに、アナスタシアも結局は僕の財産目当てだった、なんてことは──いや、考えたくない。


「それを見てから、結婚を決めるという事か?」

 

 王様が訝しげに、アナスタシアを見遣った。


「いえ、決めるのは結婚までの期間と、支援頂く人の手配です。ご心配なく、リプライ様を愛しております!」

 

 アナスタシアの言葉にホッと胸を撫でおろす。


「で? お前は何か言う事がないのか?」

 

 王様が、僕を睨みつけて問いかけた。


「ごめんなさい⋯⋯」


 僕は、アナスタシアに謝罪した。

   

(何だか今日は謝ってばかりだな)


「そうではない」


 王様が、僕に言った。

 

「あ! 王様、僕もアナスタシアを愛してます!」

「違う、全くお前は⋯⋯」

「あ! 王様、心配かけて、申し訳ありません」


(王様は、国で一番偉いから、先に謝らなくちゃいけなかったんだ。失敗したな)

 

「違う⋯⋯」

「へ?」


 沈黙が流れる。

 

「お前は、何時になったら、私を「兄」と、呼んでくれるのだ? 先ほどから王様、王様と⋯⋯」

 

(あ、これ、呼ばないと終わらないヤツだ)


「に、に、兄さん⋯⋯」

 

 僕は、おずおずと言葉にした。どうやら王様は、僕がアナスタシアに何も説明していない事より、王様を兄と呼ばない事に腹を立てていたらしい。


「あの? 私もお義兄様とお呼びしてよろしいでしょうか?」

 

 アナスタシアの言葉に、王様が満面の笑みを浮かべて頷いた。


(ナイスフォロー! やっぱり、アナスタシアをお嫁さんに選んで、正解だったな。あんなに怒ってた王様を一瞬で笑顔にするなんて凄いや)


「私も、親しみを込めて、アナと呼ばせてもらおう」

「もちろんですわ!」

「ダメ! 絶対ダメだ!」


 僕は、アナスタシアの言葉に慌てて、王様が相手だって事を忘れて、拒絶してしまった。


「お前には聞いてない」

「わかってるよ、でも、でも⋯⋯」


(嫌だ!)


「何だ? 申してみよ」

「僕がまだ、愛称で呼んだことがないのに、に、兄さんがアナスタシアを愛称で呼ぶのは嫌なんだ⋯⋯」


 隠しても仕方ないから、正直に言った。自分で言った言葉に、顔が赤くなっていく。


「ふっ、ふははははっ」

「うふふふふっ、ふふっ」


 王様とアナスタシアが、同時に笑った。


「はぁ、すまないリプライ。お前がしつこく王様と呼んだ仕返しだ」

「ふふっ、私からも仕返しですわ」

「えっ? 仕返し?」

「お前が私を王様と呼ぶから、私も愚弟やらこやつと言って、名前を呼ばずにいたのに、気づきもせんで。ずっと平気な顔をしているから、揶揄ったのだ。」

「まあ、お兄様ったらお人が悪いですわ、うふふっ」

「何を言う、そなたも気づいていて、愛称で呼ぶ事を許可したのであろう?」

「だって、王様がお兄様だなんて一言も知らされていなかったんですもの」


(僕、揶揄われてたの?)


「アナスタシアよ、すまないが愛称で呼ぶのは、もう少し先になりそうだな。」

「楽しみにしておりますわ」

「それから、領地経営は、心配せずとも、補佐をする者を見繕ってある。安心せよ」

「まぁ、そうでしたの? これは、出過ぎた事を申しました」

「兄さん、ぼ、僕は⋯⋯」

「ああ、そうか。まだお祝いの言葉を伝えていなかったな。リプライ、おめでとう!」


(いや、僕は、僕を無視して2人で話しを進めないでって言いたかったのに⋯⋯、ん? おめでとう? あれ?)


「お願いがあります。」


 僕は勇気を振絞った。

 

「何だ?」

「爵位のことです。彼女は男爵家のご令嬢なので⋯⋯」


 言いにくさに言葉が詰まる。

 

「だから、えっと⋯⋯、その、公爵でなく、伯爵とか、子爵とか」

「なんだ? 彼女の身分を上げるために、良い養子縁組先を用意しろと言う事か?」


(あ、説明が足りない?)


「いえ、逆です! 彼女のではなくて、僕の方の爵位を──下げて下さい!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ