11.募る想い
「まあ、またお会いしましたね」
そう微笑んでくれたのは、アナスタシアだ。今日で会うのは3回目。
(今日こそ、何か会話するぞ!)
意気込んだは良いものの、相変わらず会話の糸口が見えない。
「今日も何か祈りに来たのですか?」
「ええ。姉が無事に新婚旅行から戻りましたので、そのお礼と、子供が出来たと聞いて、無事な出産を祈りに参りました」
(優しい子だな。彼女の祈りは、いつも家族のためのものだ。)
「リプライ様は、いつも何を祈るのですか? やはり、民の安寧でしょうか?」
僕は、アナスタシアの言葉を聞いて、恥ずかしくなった。
(祈りの時間に考える事なんて、早く終われ! 一択だ。それに、港の時だって、第一志望校に受かりますようにって、自分の事しか祈った事がない)
「あなたに祈ってもらえるなんて、羨ましい。お姉さんも喜ぶでしょう」
「うふふっ、そうだと嬉しいですわ。」
「⋯⋯」
(マズイ、会話が途切れた)
「そういえば、今、出産祝いに姉夫婦へのプレゼントで悩んでおりますの」
「そうか⋯⋯」
「ええ、姉の趣味は承知しているのですが、今回は、義兄にも喜んで頂きたくて」
アナスタシアが、真剣な顔をした。
(良いアドバイスをしてあげたい。でも、どうしたら? そうだ!)
「君は、何を貰ったら嬉しいの?」
「わ、私ですか?」
「うん。案外、自分の喜ぶ物が、相手の喜ぶものだったりするものだよ?」
「⋯⋯お、美味しい食事が⋯⋯。あまり、物には興味がありません⋯⋯」
アナスタシアが、恥ずかしそうに言った。
「じゃあ、行こうよ! お姉さん達の食の好みもあるけど、出産って凄く体力を使うって聞いた事があるよ? 精がつくように、お肉はどう? 次の月曜日はどうかな?」
僕は、自然に誘えたと思う。別に、デートとかお見合いのつもりじゃないから、行き先は、アッシャーに聞いた肉料理の専門店だ。
◇◇
「アッシャー、前に聞いた肉料理の専門店を予約してくれないかな?」
「若い神官でも連れて行かれるのですか?」
「いや、アナスタシアだよ。」
僕が言うと、アッシャーが驚いた顔をした。
「それは、どのような? まさかデートに誘ったのですか?」
「え? デート? 違う、違う。アナスタシアのお姉さんに子供が産まれるっていうから」
「それとフォス男爵令嬢との食事に何の関係が? ご令嬢は、きちんと承諾されたのですか?」
「う〜ん、何かよくわからないけど、頷いてはくれたよ?」
「それは、あなたの権力に従うしかなかったのでは?」
「う、嘘だろ⋯⋯」
僕は、慌ててアナスタシアに手紙を書いた。
『先日は、強引に誘ってしまって申し訳ありません。もし、大神官である事が理由で仕方なしに承諾したなら、今からでも断って欲しい。あくまで、1友人として誘ったつもりだった。来てくれるなら、君を楽しませたい。』
翌日、アナスタシアから返事が届いた。
『喜んでお供させていただきます。友人として、楽しい時間を過ごせることを楽しみにしておりますわ。』
(良かった! 来てくれるんだ!)
僕は、胸を撫で下ろした。
◇◇
約束の日、肉料理の専門店でアナスタシアを待っていると、彼女は優雅な足取りで現れた。
「ごきげんよう、リプライ様。本日はお誘い頂き、ありがとうございます」
アナスタシアは、にっこりと微笑んだ。
「ああ、こちらこそ、来てくれてありがとう」
僕は、ぎこちない笑顔で返した。
(よし、今日は頑張るぞ!)
そう心に誓ったものの、いざアナスタシアを目の前にすると、何を話せば良いのかわからなくなってしまう。
「さあ、席はこっちだ」
「今日は、どんな料理を頂けるのかしら? わたくし、お肉は大好物なのです」
アナスタシアは、さっそくメニューを手に取り、目を輝かせた。
「ああ、そうだね。えっと、ここは色々な種類の肉料理が楽しめるみたいだよ」
僕は、メニューを覗き込みながら、ぎこちなく答えた。
「ふふっ、リプライ様ったら、わたくしを楽しませるのではなかったのですか? メニューを読んでいるだけでは、何も伝わりませんわ」
アナスタシアは、いたずらっぽく笑った。
「あ⋯⋯」
(ま、まずい。また、何も話せなくなってる)
「あ、あの、何か飲み物はどうかな? お勧めのワインがあるみたいだけど⋯⋯」
僕は、焦ってメニューを指差した。
「あらあら、まるで、お見合いみたいですわね?」
アナスタシアは、クスクスと笑った。
「お、お見合い?」
僕は、ドキッとした。
(そっか、他人から見たら、そう見えるのかも)
「えっと、その、お見合いとかじゃなくて⋯⋯。ただ、君の事を知りたいんだけど、何を話して良いのかわからなくて⋯⋯」
僕は、正直に伝えた。
「ふふふっ、リプライ様ったら、正直な方ですわね。冗談ですわ、そんなに緊張なさらないでください」
アナスタシアは、優しく笑った。その笑顔を見た瞬間、僕は、気が付いた。
(そっか、僕は、アナスタシアの事が好きなんだ⋯⋯)
今まで、知り合いとしてしか見ていなかったアナスタシアの、優しさや美しさに、心を奪われていたのだ。
(でも、僕は、王弟だし、彼女は男爵家の令嬢だ。身分違いの恋なんて、叶うはずがない⋯⋯)
そう思った瞬間、胸が締め付けられるような痛みに襲われた。
アナスタシアは、僕の様子を心配そうに見つめていた。
「リプライ様、どうかされましたか? 顔色が優れないようですが⋯⋯」
「あ、ああ、大丈夫だよ。少し、考え事をしていただけだ」
僕は、慌てて取り繕った。
(どうしよう、アナスタシアが好きだ。でも、どうすれば良いのかわからない⋯⋯)
僕は、同時に、懺悔室での初日、自分がアドバイスした事を思い返した。
(『天は人の上に人をつくらず?』『出会いに感謝しろ?』そんな余裕ない。経験がないからって、ひどいアドバイスだったな)




