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鉄と鋼のディグマイツェン  作者: 三上 渉
第三幕:遠い昔の約束
15/17

奇跡を起こす雷鳴

「ソード……!!! レイシュラッド……!!!」


試合時間残り15秒前!

激しい衝撃と共に、ラディウスの前に白騎士が降り立つ!!!


(一体何処から……!!!???)


その時、ラディウスの視界の隅にある物が映る。それは……!!!


(あれは……ワイヤー!!! 俺達が崖を超える為に使った時の……!!!)






同じ頃、遠くから決闘を見ていた男はその理由を理解していた。


(小僧達が崖越えに成功したあの時、アルテに残されていた選択肢は一つしかなかった……。すぐさま下山し、小僧達を追う事だけ……)


たった一つの選択肢。

だが、それは正解ではない。


(しかし、もしあの場でアルテが下山を開始していれば、その時点で小僧達の勝利は確定していた……。あの位置から山を下り、戦闘に加わる為にはかなりの長距離を移動する事になる。仮に魔力を温存しながら移動していれば試合終了に間に合わず、全速力で移動を行えばただでさえ全力で小僧達を追った直後、今度こそ途中で魔力が尽きる……)


そう、それこそがアルテを山岳エリアに誘い込んだラディウス達の真の狙い。

「追う」という選択肢は、ラディウス達があえて残して行った罠だったのだ。


(だが……アルテはそれを選ばなかった。そして……)


全ての道の先が塞がっている事を理解したアルテが選んだ行動。

それは……。


(アイツが選んだのは、「動かない」事)


あえてその場から動かず、試合時間ギリギリまで魔力の回復に努める事だった。


(他の騎士科連中の動きから、小僧達が最終的に移動してくるポイントを予想。そして試合時間ギリギリまで魔力の回復に努め、そこからとんでもない移動手段で小僧達の目の前に現れた……!)






その時、ラディウスは思い出す。


自分が崖を超える際に放たれたヴィーアシュラウトの投擲。

それによって崖の向こう側のアンカーが外れ、残されたワイヤーはアルテの居た側から崖の下に向かって垂れ下がっていた。


(アルテは……! あのワイヤーを使って崖を滑り降りてきたのか!!!???)


もちろん、あのワイヤーの長さでは崖下までは届かないし、ソード=レイシュラッドの重量を支えられる物ではない。

だが、途中まで落下速度を抑える程度には利用できる……!


(崖の途中までワイヤーを使いながら滑り降り! そこから崖を三角飛びするみたいに蹴ってオレの目の前まで降りて……! いや! 落下してきたのか!!!)






その時、男の頬から冷や汗が一筋流れた。


(ハッキリ言って正気の沙汰ではない。いくらワイヤーが残されていたとは言え、途中でバランスを崩せばそれで終わり。崖の下まで真っ逆さまだ……)


例え勝利への道がそれしか残されていない事に気付いたとしても、実際にそれを実行する者がどれだけ居るだろうか?


(言ってしまえば、たかが学生同士の決闘だ……命を賭ける様な物じゃない。だがアイツはやってのけた)


そこまでする程の何かが、この決闘にはあるのだろうか?


(そこまでして……あの小僧と……)






(そこまでして……オレと決着を付けにきたのか……!?)


その時、白騎士がその顔を上げ、視線がこちらに向けられた……!


(ッ!!!)


尋常ではない勝利への執念……!

白銀の騎士機を通して伝わってくるアルテの執念……!


それに気圧される様に、オレの腕が操縦桿に触れる……!


(どうする……!? だが残り時間はあと10秒程……! 間合いを取って防御に徹すれば……!!!)


だがその時、ディグを後退させようとしたオレの手がピタリと止まった……!


(だ……! ダメだ……!!! 飲み込まれる……!!!)


本能的にオレは理解したのだ。

自分の立っている場所が、断崖絶壁の端だという事を……!!!


(ほんの僅かでも下がれば飲み込まれる……!!! ここで飲まれれば、アイツがディグの首を落とすのに1秒とかからない……!)


下がれば負ける。

ならば行く方向は一つしかない……!!!


(前に……!!! 出ろ……!!! 上等じゃねえか……!!! ここでアイツを倒して本当の決着を付ける!!!!!)


ダンッ!!!!!


巨人が地面を蹴る音が響き!!! そして……!!!


「アルテーーーーーッ!!!!!」

「ラディウスーーーーーッ!!!!!」


2体の騎兵が!!!

同時に突撃を開始した!!!






10


「ッ……!!!」


突然の出来事に解説も他の生徒達も言葉を失い、ただその一瞬の攻防を見守る!






9


同時に踏み込んだディグとソード=レイシュラッドが剣を振る!!!

上から振り下ろすディグに対し、ソード=レイシュラッドは下から振り上げた!

そして剣と剣がぶつかり……!!!






8


ギィンッ!!!


「ぐっ!!!」


ディグの一撃がソードレイシュラッドの剣により一方的に弾き返された!!!


(この力……!!! 崖の上でやった時とは段違い!!!)


同時に! ソード=レイシュラッドの各部から眩いまでの魔力光が漏れだす!!!


(魔力放出を全開にしてやがる……!!! もう温存する必要はないって事か……!!!)






7


そしてディグの一撃を弾き返したソード=レイシュラッドは剣を横に寝かせると!

ディグの頭部に向かって横薙ぎを放つ!!!


「ッ!!! ぐううっ!!!」


鉄が砕ける音が響き! ソード=レイシュラッドの剣がディグの頭部を薙ぎ払う! だが!!!


「やられた!!!」

「やられてねえ!!! バイザーが飛んだだけだ!!!」


すんでの所でオレはディグをのけ反らせ回避に成功!

ソード=レイシュラッドの剣はディグの頭部を掠めただけ!!!

頭部のバイザーが吹っ飛んだがカメラアイは生きている!!!

審判員も頭部損壊の判定を出さない!!!






6


(いくらアルテでも連続で3撃放つのは不可能! 次まで一瞬間が出来るはず……!!! ここで……!!!)


そして剣を回避したオレはすかさず反撃の為に前に出ようとする!!! だがその瞬間……!!!


ゴガァッ!!!


「何ッ!?」


衝撃がディグを襲う!!!

剣ではない! それは逆側からの衝撃!!! それは……!!!






5


「蹴り……!!! だとッ!!!???」


ディグの右腕に叩きつけられていたのは、ソード=レイシュラッドの左足!!!


(ふざけんな……!!! そんな事したら蹴った足のフレームか、軸足のフレームのどちらかがへし折れるだろ……!!!)


叩きつけられた衝撃でディグの右腕がねじ曲がり!

同時にソード=レイシュラッドの脚部装甲が砕ける!!!






4


しかし! 尋常でない魔力放出により強化されたソード=レイシュラッドのフレームはその衝撃に耐え!

そのまま! 足を下ろすと同時にもう一回転……!!!


ゴシャッ!!!


同じ箇所めがけ! 自分の装甲が砕けるのも構わず!

今度は右足で後ろ回し蹴りを叩き込む!!!


「右腕のフレームがひしゃげたァッ!!!!!」


機体ダメージを管理していたリトナが叫び声を上げた!

凄まじい連続攻撃によりディグの右腕は使い物にならなくなる!!! だが……!!!






3


(これで終わりじゃねぇ……!!! 来る!!!!!)


アルテの攻撃はそれで終わりではなかった!!!

叩きつけた右足を下ろすと同時に、ソード=レイシュラッドが腰に剣を構える!!!


それは居合の様に放たれるアルテの最強にして最速の技の構え!!! だが!!!


「ッ!!!」


その時!!! アルテが目の前に迫ってくる剣を視界に捉えた!!!


先程の一撃!

ソード=レイシュラッドが二発目の蹴りを放った時、ラディウスはあえて回避行動を取らなかった!!!

そして! 右腕を犠牲にしながら、左腕で剣を振りカウンターを仕掛けていたのだ!!!






2


同時に攻撃態勢に入った2機!!!

しかし!!! その一瞬……!!!


(届く……!!! オレの方が一瞬速い……!!!)


幼い頃、何度も剣を交えたライバル。

その剣は、ラディウスの脳裏に何度も繰り返し刻まれていた物。


(アイツの剣はオレが誰より知っている……!!! だから分かる……!!! オレの方が一瞬速い……!!!)


その瞬間! オレは勝利を確信した!

そして……!!!






いかづちが落ちた──!!!






それは──

青天の霹靂などではなかった……!!!


その音は──

騎士機から放たれた膨大な魔力が爆発して爆ぜる音……!!!


(ソード=レイシュラッドが……!!! 金色に輝いて……!!!)


そして黄金色の輝きを纏い!!! ソード=レイシュラッドが剣を振る!!!


それは、かつてとある男が編み出した究極の一撃……!!!

黄金の軌跡を纏いながら放たれる神速の剣……!!!






1


「雷鳴の一閃」が放たれた……!!!!!






ザンッ……!!!


次の瞬間……

ディグの頭部が斬り飛ばされ宙を舞った……。


「なっ……」


頭部を失ったディグがゆっくりと後ろに倒れていく……。

その時……オレはオッサンが言っていた言葉を思い出していた。


(いいか小僧、奇跡を天に願うな。奇跡って言うのはな……)


オレは勝利を確信していた……。

だが、それは逆だった……。


(考えうるだけの知恵と努力、それらを全て出し切り。それでも……あと「一歩」届かない。そんな時に……)


オレが勝利を確信したと同時に、アルテは自らの剣が間に合わない事を理解していた。

あと「一歩」、届かない事を理解していたんだ……。そして……。


(自分の「ここ」から、自然と湧き上がってくる物だ。決して忘れるな)


アイツは届かない「一歩」を届かせる為の奇跡を起こしてみせた。

自分の限界を超えた一撃、「雷鳴」の剣を……。






0(ゼロ)


ズゥン……!


「それまで!!! 決闘終了!!!!!」


そして……。

審判員が決闘の終了を告げたのだった……!






決着は付き、その場に静寂が訪れる。だが……。


「……これって、どっちが勝ったんだ……?」


観客席の生徒達が困惑の声を上げ始めた。


「頭部が破壊されたんだから、整備科の戦闘不能じゃないのか?」

「でも頭部が破壊されたのは1機分だけだろ? 残りの2機が残ってるわけだから……」

「2対1で整備科の勝ちか……? でも……」


ざわめく生徒達に対し、複数の審判員が集まり話し合う。そして……


「……現在、決闘の勝敗を審議しています!」


そして審判員達がディグの状態を調べる為、車両で渓谷エリアまで移動する。


しばらくして、到着した審判員達による協議が行われ……。


「……審議の結果を発表します! 試合時間29分59秒! 騎士機ソード=レイシュラッドの攻撃によりディグ1号機の戦闘不能を認めました!!! そして! この攻撃と同時に、ディグ2号機とディグ3号機も戦闘不能に陥っていた事を確認!!! よって! 試合時間29分59秒! ソード=レイシュラッドの攻撃により! 整備科チーム3機全ての戦闘不能を認める物とする!!!」


固唾を飲んで見守る観衆に対し、審判員は勝敗の結果を高らかに叫んだ。


「よって!!! この騎士決闘の勝者は!!! 騎士科チーム!!!!!」

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