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鉄と鋼のディグマイツェン  作者: 三上 渉
第三幕:遠い昔の約束
13/17

猫を噛むネズミ達

逃走した整備科チームを追う為、森林エリアへと踏み込む騎士科の機体ヴィーアシュラウトとドラッドリオン。

機体の腰まで覆い隠す木々の合間を縫い、時になぎ倒しながら慎重に進む。


「チッ……うっとおしい!」


不快そうに声を荒げるマーベリック。

だが悪態を付きながらも、その足取りは慎重だ。何故ならば……


「ジエド教官。騎士科チームの2機、慎重に辺りを警戒しながら進んでいますね?」

「そうですね、それもそのはずです。この森林エリアは小型機である整備科チームに圧倒的に有利な場所です。森林エリアの木々は騎士機を覆い隠す程の高さはありません、ですが小型機であるディグは完全に森林に身を隠したまま行動が可能です」

「相手が何処に居るのか分からない上に、その相手からはこちらの姿は丸見えになっている状態という訳ですね?」


そう、彼らの言う通り。

この地形はマーベリック達にとって圧倒的に不利だからだ。


「……狙いは分かっている。この森に隠れ、何処かから奇襲を仕掛けてくるつもりだろう」


クレイモアを構えたまま慎重に歩を進めるヴィーアシュラウトと、レナート・オースティンの駆るドラッドリオン。


「だが所詮は平民! 恐れる事はない、ネズミ共をあぶり出してやる!!! 散開しろレナート!!!」

「了解!」


そうレナートが答えると二手に分かれる2機。


騎士機ドラッドリオン。

左手に機体の全身を覆える程の大きさのタワーシールドと、右手に大型のランスを装備した重装型の騎士機。

その騎士機を操縦しながら、装騎士であるレナートは不敵な笑みを浮かべる。


(フン。何処から奇襲を仕掛けてこようが、あんな小型機の攻撃でこのドラッドリオンの装甲を抜く事など不可能。それに……)


そう考えながらレナートはドラッドリオンの足を止める……。


(いくら姿は隠せても、「音」までは隠しきれまい……! さっきからエンジン音が鳴り響いてるぜ……!?)


……ブゥンッ、……ブゥンッ。


(遠くに2機……、そして……!!!)


ダンッ!!!


「後ろから一機!!!」


その時!!!

突然森から姿を現したディグ1号機が、ドラッドリオンに飛び掛かり槍を突き刺す!!! だが!!!


ギィンッ!!!


「ッ! 固ぇ!!!」


その一撃はドラッドリオンのシールドによって防がれ弾かれる!


「そこかっ!!!」


ヒュンッ!!!


すかさず右手の槍で反撃を行うドラッドリオンだが、ディグはすぐさま森の中に姿を隠し反撃を逃れる!


「チッ! ちょこまかと! だがやはり大した事のない攻撃! このドラッドリオンのシールドを貫くにはパワーが足りていないんだよ!」


無敵の盾と鎧を身に纏う重騎士に対し、余りにも非力なディグの攻撃!


「クソッ! 固ぇし隙もねえ!」


防御能力だけならば他の2機よりも上を行く騎士機ドラッドリオン!


ガンッ!! ギィン!! ガァンッ!!!


何度も奇襲を繰り返すディグだったが、その牙城を崩す事が出来ず間合いを離す!


「やっぱ抜けないか……! 一旦下がるぞ!」


通信機に向かってそう叫ぶと、ラディウスは森に姿を隠したままその場から後退する! だが!!!


「だから! 聞こえてるんだよ!!! 逃がしはしねえ!!!」


バキバキと周辺の木をなぎ倒しながら、ディグの駆動音を頼りに追いかけるドラッドリオン!


「おいレナート! 迂闊に……!」


ディグを追うレナートに対し、マーベリックが声を上げる。

それに対し……


「こっちは任せてください! マーベリックさんは他の奴を……!」


そうレナートが答えようとした、その時……!


ヒュンッ!


「何ッ!?」


ドラッドリオンに向かって一本の矢が飛来する! しかし!


カンッ!


その矢はあまりにも小さく弱く、容易くドラッドリオンの装甲に弾かれる!


「あわわ……!」

「何? 他の敵か?」


それはリトナの操縦する2号機のボウガンの矢だった!

しかしそれは、重装甲を誇るドラッドリオンに対し何の効果ももたない攻撃!


(こっちに集中攻撃を仕掛けてきた? だがあんな小さなボウガンじゃ装甲に傷もつかねえ!)


状況は何も変わっていない、レナートは冷静に2機の獲物を見定め……!


「まずは!!! 弱い方から叩く!!!」


リトナの方に狙いを定め走り出した!


「う! うわああああ!!! やっぱりこっち来たぁぁぁっ!!!」


叫び声を上げながらすかさず逃げ出すリトナ!

しかし森林地帯ではローラーによる移動も出来ず、騎士機の瞬発力の前から逃れる術は無い!


「一機目!!!」


ドラッドリオンが踏み込みながら大きく槍を構えた……その瞬間!!!


ズルッ!!!


「ッ!!! な、何だっ!!!???」


ドラッドリオンが大きくバランスを崩し右膝を突く!!!

その時、足元に広がっていたのは……!!!


「沼地!? 何でこんな所に!?」


演習場の森林地帯に沼地があると言う話など聞いた事がない!

だがレナートはすぐにその理由を理解する!


「これもあいつらが用意してた罠って事か!」


確か森林エリアの近くには湖畔エリアがあったはず!

その湖畔エリアから運んできた水で即席の沼地を作り、そこに誘い込む!

森林エリアの木々はディグの姿を覆い隠し奇襲する為の物ではなく、足元に設置された沼地を視認させ辛くする為!


(くそっ!!! 奴らが派手にエンジン音を鳴らしてたのも、俺の意識を視覚から聴覚に集中させる為だったってのか!?)


その場に片膝を突くドラッドリオン! その時……!!!


「今だ!!! フラット!!!」

「う、うん!!!」


すかさずリトナとフラットの2号機と3号機がボウガンを放つ!


「舐めるな!!! そんな攻撃!!!」


それに対しすかさずシールドを構え防御態勢に入るドラッドリオン! だがしかし!!!


ガチッ!


「なっ!? これは!?」


ボウガンから放たれたのは矢ではない!

崖を飛び越えた際に使われた物と同じワイヤーとそれを繋ぐアンカー!


「かかった! 引っ張れーーー!!!!!」


同時に! ドラッドリオンのシールドに固定されたワイヤーをリトナとフラットのディグが全力で引く!


「うおおおおっ!!! バランスが!!!」


普段であれば小型機2機になど遅れを取るドラッドリオンではない!

タワーシールドを構える左腕が魔力光に包まれ全力で稼働する!


だが! 沼地に誘い込まれ足の踏ん張りが効かない状態では十分な力を出す事が出来ない! そして!!!


ズンッ!!!


ドラッドリオンが手に持っていたシールドとランスごと地面に手をつく!

両膝を突き四つん這いになっている状態! その瞬間!!!


「貰ったぜ!!!」

「なんだと!!!」


正面から姿を現したのはディグ1号機!!!

ラディウスは操縦桿のトリガーを引きブーストランスを起動させる!!!


「今度はテメーがハイハイの練習をしやがれ!!!」


放たれるディグの一撃!!!

両手両足を地面についた状態ではその一撃を防ぐ事が出来ず……!!!


ゴガァッ!!!!!


その一撃はドラッドリオンの頭部を貫き! その頭を吹っ飛ばした!!!






「頭部損壊を確認!!! 騎士決闘法第一条に則り! 騎士科チーム、ドラッドリオンの戦闘不能を認める!!!」


試合の行方を見守っていた審判員が高らかに宣言を上げる! そしてそれと同時に……!!!


ワァァァァァッッッッッ!!!!!


それを見守っていた会場席から大きな歓声が上がった!!!


「せ、戦闘不能ーーー!!! なんと!!! 騎士科チーム、レナート・オースティンの駆る騎士機ドラッドリオンがまさかの戦闘不能ーーー!!!」


興奮した様に叫び声を上げる実況と同じ様に、試合を見守っていた整備科生徒達も大きく叫び声を上げた!!!


「やったーーー!!! すげーぞラディウスーーー!!!」

「ホントに騎士科連中をあのディグで撃破しちまいやがったーーー!!!」


そして同時に、騎士科生徒達の間には動揺の声が上がり始める。


「冗談だろ……? 整備科に騎士科がやられた?」

「油断してただけだろ! それにまだ一機やられただけだって!」


それぞれが声を上げる中、実況のカリンはさらに熱を上げ叫び声を上げる!


「さあーーー!!! 予想外の展開になって参りましたーーー!!! 勝利を掴むのは一体どちらのチームなのか!!!??? 目が離せません!!!!!」


その時、ヴィーアシュラウトを駆るマーベリックはギリリと歯を噛み締め声を上げた。


「馬鹿が!!! 平民如きにしてやられるとは!!!」


そう不機嫌そうに仲間を罵倒すると、クレイモアを構え目の前の森林地帯に目を向ける。


(また姿を隠したか!!! だが迂闊に追えばレナートの二の舞!!! 問題はこの視界を遮る森林!!!)


一瞬だけ思案した後、マーベリックはヴィーアシュラウトのクレイモアを振り上げ……!


「ならば!!! 全てなぎ倒すまでだ!!!」


ドガァンッ!!!


周囲の木々を大剣で薙ぎ払った!!!


ブンッ!!! ザンッ!!! ガァンッ!!!


目の前を遮る木々を全て薙ぎ払いながら歩を進めるヴィーアシュラウト!

その様子をやや離れた位置に身を隠していたラディウスが叫ぶ!


「あの野郎! 無茶苦茶しやがって!!! 森林地帯の木を全部切り倒す気か!?」

「でもあれじゃ近づけないよ!!!」

「さっきみたいに……罠のある位置に誘導するのも無理……!」


余りにも無茶苦茶なマーベリックの行動!

しかしある意味合理的とも取れるその行動により、ラディウス達は打つ手なく間合いを離した!


「さあ!!! 今度こそあぶりだしてやるぞ!!!」


全力で大剣を振り回しながらも、確実にラディウス達の居る方向へ進んでくるヴィーアシュラウト!


ラディウス達は森林の中を移動しながら、双子山の間にある渓谷に向かって後退していく! そして……!


「ッ! 森林地帯を抜けるよ!」


森林地帯を抜け、渓谷地帯に後退する3機のディグの姿をマーベリックが捉えた!


「そこか!!! もう逃がさんぞ!!!」


そう叫びつつも油断する事なく、足元に警戒しながらゆっくりと歩を進めるマーベリック!

それに対しリトナが焦った様に声を上げる!


「く! 来るよ! どうするのラディ!?」


その言葉に、ラディウスは静かに問いかけた……!


「リトナ……、残り時間は……?」

「えっ!?」


そのラディウスの言葉に、リトナは試合の残り時間を確認する。


「残り……5分!」

「チッ! 少し長い……! だが、もう行くしかねえ!!!」


もうこの先に道はない、逃げるのもここまで!

そしてラディウスはリトナとフラットに対して告げた!


「作戦Cだ!!! ここで決めるぞ!!!」

「ッ!? やるの!? ラディ!?」

「ああ! 行くぜ!!!」


その言葉と同時にリトナとフラットの2号機と3号機が全力で後退する!


「ッ!!! また逃げる気か!?」


そう叫び声を上げるマーベリックに対し……!!!」


「逃げねーよ!!!」


そう声を上げ、ラディウスはヴィーアシュラウトに向かってディグの槍を投擲する! その時!


バンッ!!!


槍の穂先が破裂し! 中からネットが射出されヴィーアシュラウトを絡めとる!

そしてそれと同時に煙幕が張られ、視界が遮られた!


「くっ! 小細工を!!!」


すぐさまネットを振りほどこうとするマーベリック!

だがそれと同時にラディウスのディグ1号機は他の二機の元へ駆け出し! そして……!


「……音? 何の音だ?」


それは鉄と鉄がぶつかり合う様な音。


視界が遮られている為、何をしているのかは定かではないがその場から走り去る様な音ではない。

やがて……煙幕が徐々に薄れていき……。その時……!!!


ブゥンッ!


鈍い音を立て、煙の中から何かが光を放った!

そしてそれはヴィーアシュラウトの方へ真っすぐ突っ込んでくる!!!


「何!!!」


突っ込んできたそれはその手に持っていた剣を振り下ろし!

ヴィーアシュラウトはその攻撃を咄嗟にクレイモアで受け止めた!!!


ガギィンッ!!!


「こ! こいつは!!!」


現れたのは騎士機に匹敵する程巨大で、無骨な鉄の塊。

鉄と鋼を身に纏った単眼巨人サイクロプス


新たな姿を見せた鉄鋼機だった!!!

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