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鉄と鋼のディグマイツェン  作者: 三上 渉
第三幕:遠い昔の約束
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その視線の先に

「に……! 逃げたぁぁぁぁぁっ!!!???」


決闘開始直後、実況の驚く声が響き渡る!

俺達が操る3機の鉄鋼機は脚部に取り付けられたタイヤを回すと、敵に背を向け全力で走り出したのだ!


「ぜ! 前代未聞です!!! 開始直後! 掟破りの敵前逃亡だーーー!!!」


突然の展開に、誰もが驚きの声を上げる! そして……!


「に、逃げ出しただと!?」


脱兎の如く逃げ出した俺達に対し、騎士機ヴィーアシュラウトを走らせながらマーベリックが叫んだ!


「栄誉ある決闘で敵に背を向けるなど!!! 決闘を汚す恥知らず共が!!!」


激昂するマーベリックに対し、オレは嘲笑う様に答える。


「知った事かアホ! それはお前ら貴族の流儀だろうが! 平民には平民のやり方があんだよ!」

「おのれっ!!!」


地響きを上げながらディグ達を追う3機の騎士機。

しかし……!


「あーっと! 追えない! 整備科チームと騎士科チームの距離がどんどん離れていく!」


どんどん遠くなっていくディグの背を睨みつけながら、マーベリックが悪態をつく。


「くそっ!!! 誇り高き騎士の両足に車輪を取り付けるなど……!」


彼らを追う偵察用小型飛行機械から送られてくる映像が、観客席中央に備え付けられた大型ビジョンに映し出された。

その映像を見つめながら、解説のジエド教官が口を開く。


「これは……、騎士機の弱点を突かれましたね」

「弱点ですか?」

「ええ。先程も言った通り、騎士機が戦闘行動を行う為には魔力循環機構による機体強度の補助が必要不可欠となる訳ですが。その際に最も負担がかかる箇所が「脚部」です。機体の自重を支える脚部に一番多くの魔力を集中させ、脚を潰さない様にしながら戦闘を行うのが騎士決闘の基本、ですが……。それはあくまで、剣を打つ際や受ける際にかかる一瞬の強化を想定した物です。今の様に「走り続ける」事は想定されていません」


ジエドの言葉を裏付けるように、最初は勢いよく走っていた騎士機達のスピードが徐々に落ちていく!

想定以上の魔力放出に、装騎士の体力が追い付かないのだ!


「それに対し、整備科の機体脚部に取り付けられた車輪……ローラー機構でしょうか。あれなら脚部に負担をかける事なく長距離の移動が可能となります。通常の騎士機で追いつくのは難しいでしょう」


脚部の負担と魔力の消耗。

徐々にその走るペースを下げていく騎士科の機体。だがその時……!


「マーベリック先輩……」


他の2機と並走していた白銀の騎士機、ソードレイシュラッドを操るアルテが告げた。


「先行させてもらいます」






遠ざかっていく騎士科の機体を確認しながら、オレはニヤリと笑みを浮かべる。


「おし! まずは作戦第一段階成功だな!」

「予定通りだね!」

「ああ! このまま山岳エリアまで誘い込むぞ!」


遠くに見える双子山に向かって快調に走り続けるディグ。だがその時……!


ズンッ! ズンッ! ズンッ! ズンッ!


後方から聞こえる地面の鳴り響く音……!


「何だ……?」


徐々に近づいてくるその音の出どころを探る為、後方を確認するオレが見た物は……!!!


「ッ!!! ソード!!! レイシュラッド!!!!!」


こちらを猛追してくる白騎士の姿だった!!!


「な!!! なんだアレはーーー!!!??? 走っています!!! 全身を鎧に覆われた重騎士が全速力で走っているーーー!!!!!」


大声を上げる実況の声に、隣に座っていたジエドも驚愕の声を上げる!


「し! 信じられない!!! 騎士機を走らせるというのは、常に魔力を全開で放出し続ける事と同義です!!! 並の装騎士であれば1分ももたない程の魔力消費!!! にもかかわらず、騎士機の脚を潰さずあの速度を維持出来る……!!! いくらソード=レイシュラッドの性能が高いとは言えそれだけで出来る事ではありません!!! 凄まじい装騎士です!!! アルテ・レイシュラッド!!!」


その言葉に観客席に座っていた生徒達からも大きな歓声が上がった!


「バケモノかアイツは!!!???」


こちらのディグとほぼ同等のスピードで追いかけてくる白騎士の姿を見ながら、オレは焦った様に叫ぶ!


「とにかく! このまま全速力で山岳エリアまで行くぞ!」

「うん!!!」

「分かった……!!!」






猛追してくる白騎士から逃げる様に、俺達は二つの山が並ぶ山岳エリアの麓にたどり着いた。

そしてそのまま、片方の山の頂上に向かって螺旋状に作られた山道を登っていく!


「おーっと! 整備科チーム! 山の頂上に向かって移動! 訓練用に作られた山道を駆け上がっていくーーー!!!」


騎士機の移動を想定して作られた山道を全力で駆け上がるディグ!

そして、白騎士も同様に山道を駆け上がり追ってくる!


「山頂に向かって逃げる整備科チーム! だがそこは一切逃げ場のない行き止まり!!! どうするんだーーー!!!???」


その時! リトナが焦った様に口を開いた!


「山岳エリア到着! ここまでは予定通りだよ! でも……!!!」


その声を聞きながら、オレは真後ろから追ってくる白騎士の姿を確認する!


「分かってる! このままじゃ作戦の実行は不可能だ!!!」


苦虫を噛み潰した様な表情でオレは叫ぶ!

そしてやや開けた場所まで登って来た所で、オレはリトナ達に向かって声を上げた!


「リトナ! フラット! 先に行け!!! オレが時間を稼ぐ!!!」

「えっ!? でも!!!」

「それしかねえ!!! 行け!!!」


そう叫ぶとオレはディグを反転させ! 白騎士を迎え撃つ様に山道に立ちはだかる!

動きを止めたオレに対し、白騎士も速度を緩め距離を取った状態で停止した……!


「おーっと! ここでディグ1号機が足を止めたーーー!!! 逃げるのを止め、白騎士に向かって立ちはだかるーーー!!!」


そんな実況の声が響く中、オレは目の前の相手に向かって集中力を高めていく……!


「アルテ……!」

「……ラディウス」


対峙するディグとソード=レイシュラッドの2機。

オレはゆっくりと背部に積載されていた「槍」を取り出し構える。

それに対し白騎士も、右手のロングソードと左腕部に取り付けられたヒーターシールドを構えた。


「行くぞ……!!!」

「っ!!!」


次の瞬間!!! 2機の機体は同時に前に踏み込んだ!!!






オレの操縦するディグに向かって、白騎士が剣を振るう!!!


「くっ!!!」


その剣をオレは間合いを取り回避!

だが続けて!!! 2撃、3撃と矢継ぎ早に放たれる斬撃!

オレはその全てをなんとか回避していく……!


(受けるのは無理だ! パワーの差がありすぎる! どうにか回避していくしかねえ!!!)


一撃でも受ければ、武器ごと機体が吹っ飛ばされる!

ディグとソード=レイシュラッドの性能差は明らかだ!


(だが時間を稼ぐと言っても、このまま逃げ回ってどうにかなる相手じゃねえ! こっちから仕掛けるタイミングを……!!!)


巧みに攻撃を回避するディグの姿に、観客席からもどよめきの声が上がる。


「こ! これは!!! 白騎士ソード=レイシュラッドによる怒涛の攻撃を! ディグ1号機は軽やかに回避しているーーー!!! 整備科とは思えない素晴らしい操縦技術です!!!」


あの白騎士をもってしても捉えられない回避技術。

誰もが驚嘆の眼差しでそれを見つめていた。だが……


(おかしい……、これは……!)


その剣筋に、オレは違和感を感じていた。


(遅い……。コイツの剣はこんなもんじゃないはず……!)


その時、同じくその違和感に気付いたジエド教官が呟く。


「これは……。白騎士の攻撃はやや勢いを欠いている様に見えます」

「勢い……ですか?」

「ええ。剣速も遅く、攻撃もディグの胴体からやや遠い場所、手足を狙って攻撃している様ですね」

「何故そんな事を?」


原因を問いかける実況に対し、ジエド教官は淡々と答えた。


「おそらくアルテくんは手加減をしているのです」

「手加減?」

「ええ、原因はあのディグという機体とのサイズ差でしょう。本来の騎士機と異なり、あの小さく脆い機体では騎士機の剣には耐えられない。胴体に直撃させれば一撃で大破……。最悪、中の操縦士も殺してしまいかねません。よってアルテくんはディグの手足を狙い、行動不能にさせようとしているのです」

「アルテ先輩は相手を殺さない様にしながら戦っていると言う事なんですね」


その推察は正しく、アルテは目の前を素早く動きまわるディグを視界に捉えながら呟く。


「動くなラディウス……! 直撃させてしまう……!!!」


騎士決闘に於いて、相手の装騎士を死亡させてしまうというのは過去に例が無いわけではない。

だがそれはあくまで決闘中の事故として処理され、装騎士に対しなんらかの責任を負わせる物とはならないのだ。しかし……


(手か足……! コクピットのある胴体は狙わずなんとか……!)


例え事故であっても、それはアルテにとって容認出来る事ではない。

あくまで命を奪わず、目の前の機体を制圧すべく剣を振るう。

だが、その時……


「……気に入らねえ」

「ッ!!!」


白騎士の剣の軌道の先!

先程まで飛び回る様に回避していたはずのディグが足を止めていた!!!


(マズイッ!!!)


直撃する!

しかしもはや攻撃を止める事は出来ず、無常にも剣は振り下ろされる!!! だが!!!!!


「おおおおおっっっっっ!!!!!」


ガギィンッ!!!!!


正面から振り下ろされた白騎士の剣を! ディグはその手の槍で思いきり、渾身の力を込め弾き返した!!!


「なっ!?」


予想外の展開に、アルテは一旦距離を取る。


(剣速を抑えていたとは言え、ソード=レイシュラッドの剣を弾き返すとは……)


仕切り直し、距離を取って向かいあう2機。その時……


「……気に入らねえ」


オレはポツリと呟くと、そのまま目の前の相手に向かって激昂し叫び声を上げた!


「……気に入らねえ! 気に入らねえ! 気に入らねえ!!! いつもいつも!!! 気に入らねえんだよ!!! オマエは!!!!!」


それに対し、アルテは抑揚のない声で静かに問いかける。


「何か気に障った事をしたのなら謝罪する。だが私は騎士として……」

「それが気に食わねえって言ってんだよ!!!」






そうだ。

ずっとずっと気に食わなかったんだ。


理想の騎士としてふるまおうとしているコイツが?


いや違う。

一番気に食わないのは……。






「……そうやって! オレを無視してるオマエが一番気に食わないんだよ!!! オレを無視して何処か遠くを見てるオマエが!!! 理想を追い続けてオレの事なんて眼中にもないってその態度が!!! ずっとずっと気に食わなかったんだ!!!」


それは今まで口にする事がなかった本気の言葉。

一人でどんどん理想の先へと向かって離れて行く背中に対し、それでも諦められなかった物。


そうだオレは認めさせたかったんだ……!

オマエにオレを……!


「オレを見ろ!!! オレはこの決闘に勝つ為に全てを賭けてここに立ってんだ!!! オマエの理想なんて関係ねえ!!! オマエの目の前に立っている敵を!!! オレだけを見ろ!!! アルテ・レイシュラッド!!!」





オレはオマエにとって──

全身全霊を賭けて、倒すべきライバルであると!!!






その言葉に対し、アルテは静かに息を吐き出し答える。


「……お前の言う通りだ、ラディウス。今この場に於いては、騎士の誓いも遠い昔の約束も、全て必要のない事だった」


そしてゆっくりと、ソード=レイシュラッドの剣を腰に構えた。


「お前の闘志に、ただ全霊の一撃を以って応えよう……!」

「上等だぜ……!」


静かに、その場の空気が張りつめていく……!!! そして……!!!


「……躱せよ、ラディウス!!!」


白騎士ソード=レイシュラッドと装騎士アルテ・レイシュラッド!

その全霊を込めた! 神速の斬撃が放たれた!!!

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