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鉄と鋼のディグマイツェン  作者: 三上 渉
第三幕:遠い昔の約束
10/17

白騎士

グランネシア騎士養成学園演習場。

その平地エリアを見渡せる場所に、生徒全員を収容できる大型の観客席があった。


騎士機が現れる二つのゲートに、円形をした観客席。

一部の行事でしか使われず、普段は空き席だけが並ぶガランとした空間に、今は全ての席を埋め尽くす程の生徒達が集まっていた。


その時、観客席に備え付けられていたスピーカーから声が響く。


「さあ! 観客席にお集まりの生徒、関係者の皆さま! まもなく! 騎士科対整備科の騎士決闘が始まります! 実況を務めさせていただくのは私、整備科1年カリン・シャポア! 解説には整備科担当教官であるジエド・ニール教官にお越し頂きました! ジエド教官、よろしくお願いします!」

「こちらこそよろしく」

「さて、早速ですが今回の決闘についての説明をさせていただきます! 今回の決闘の発端は、騎士科3年であり主席でもあるマーベリック・ハイデンクルト先輩に、整備科2年のラディウス・ロッド先輩が決闘を申し込んだ事です! そしてマーベリック先輩はその挑戦を受諾! 前代未聞となる騎士科生徒対整備科生徒の決闘となりました!」


その時、解説を聞いていた生徒達からどよめきが起こる。


「整備科? 整備科が騎士機を動かせるのか?」

「さあ? どっちにしても相手はあのマーベリックさんだぜ? 仮に動かせたとしても相手にならねーよ」


騎士科対整備科の決闘に対し、誰もが「試合にすらならない」と言った感想を口に出す。


「決闘は公式戦と同様の3対3! その他のルールも、騎士決闘公式戦ルールに基づき、審判団による厳正なジャッジの元行われます! それでは早速! 決闘を行う装騎士と騎士機の入場です!」


実況のカリンの宣言と同時に、観客席中央のゲートが開き鎧を身に纏った巨人が姿を現した!


「さあ! 最初に現れたのは! 騎士科3年マーベリック・ハイデンクルト! 騎士機はヴィーアシュラウト!!!」


華美な装飾の施された黒く輝く鎧騎士が生徒達の目の前に現れると、ワアアッ! と一斉に歓声が沸き起こった!


「フッ」


沸き起こる大歓声の中、余裕の笑みを浮かべながら悠々と足を進めるマーベリックと、その乗騎ヴィーアシュラウト。

そんな中、スピーカーからジエド教官の声が会場に響く。


「ヴィーアシュラウトは重量パワースピード、どれも平均的なオーソドックスな機体。とは言え、各部にかなりのチューンが施されており、全ての性能が高水準でまとまっている名機です。今回の武装は両手持ちのクレイモア、こちらもオーソドックスな物を選んできたようです」

「解説ありがとうございます! それでは続いて! 二機目の入場です!」


その声と同時にまたもや歓声が沸き起こると、同じく騎士科代表の機体が姿を現す。


「二機目は! 騎士科3年レナート・オースティンと騎士機ドラッドリオン!!!」

「出力を強化し、重武装を可能としたパワー型の騎士機です。左手の大型タワーシールドに加え全身が強化装甲で覆われており、中途半端な攻撃では傷一つ付ける事は出来ないでしょう。ただ、重量スピード共に難があり、細かい機動は苦手としている機体でもあります」


更に会場が湧きたつ中、続けて実況のカリンが声を上げた。


「では続けて! 三機目の入場です!」


そして生徒達の盛り上がりも最高潮を迎えた頃、三機目の騎士機が姿を現し……


「……え?」


同時に、シンと静まり返った。






姿を現したのは白銀の鎧を纏った美しい騎士。


古の騎士の鎧を模した伝統性を残した優雅な装飾に、流線形を強調した腕、足、駆動部の全てに至るまで一繋ぎの様に作られた一切の無駄がない構造。


古代の騎士の様な目を見張る美しいフォルムと、完璧に計算され尽くした機能美を備えた機体。


それは完璧な芸術品であり。

同時に完璧な強さを誇る「剣」でもあった。






その時、生徒の一人がぽつりと呟いた。


「……白騎士だ」


次の瞬間! 会場が割れんばかりの歓声に包まれた!!!


「ソ……!!! ソード=レイシュラッドだーーー!!!!! 世界大会3連覇!!! 無敗のまま現役を引退した騎士決闘史上最強の騎士! あのアルス・レイシュラッド卿の乗機!!! 白騎士ソード=レイシュラッドだーーー!!!!!」


会場が熱狂に包まれる中、実況のカリンが続けて叫ぶ!


「搭乗するのはもちろんこの人!!! アルス・レイシュラッド卿のご息女にして、騎士科2年のエース! アルテ・レイシュラッドーーー!!!」


それと同時に、またもや大きな歓声が沸き起こる。

だがその歓声も止み終わらぬ中、実況のカリンは首を傾げながら隣のジエド教官に質問する。


「……ですがジエド教官。ソード=レイシュラッドと言えば、10年以上も前に設計された騎士機ですよね? 最新型の騎士機と比べて性能は劣るのでは?」


そう尋ねる実況のカリンに対し、ジエド教官は興奮した様に声を上げる!


「とんでもない!!! あの騎士機はその名の通り、装騎士アルス・レイシュラッドの為だけに、かの名工ウェラン・ジービスが作り上げた一点物オーダーメイド!!! フレームも内部機構も一からウェランが設計を行い! ネジ一つに至るまで他の騎士機と同じパーツは存在しないとまで言われているんだ!!!  その設計思想は現行の騎士機と比べても何十年も先を行く芸術的な代物!!!」

「は……はぁ……」


興奮した様子のジエド教官に、実況のカリンは圧倒された様に言葉を詰まらせる。

しかしそんなカリンを意に介さず、ジエド教官は続けて言った。


「しかもそれにとどまらず! 第24回世界大会の決勝! 黒騎士シュバインガルムとの戦闘で中破して以来! 常に最新の技術と部材でアップデートが繰り返されており! その性能は今も世界最高!!! 正に!!! 「史上最強の騎士機」と呼ばれるに相応しい騎士機なんだ!!!!!」






そんなジエド教官の叫び声が会場中に響く中。

反対側の入場ゲートの裏で待機していたリトナがうっとりとした様子で声を上げる。


「す……凄い! 本物だ……! 本物の白騎士ソード=レイシュラッドだよ……!!!」


その言葉に、同じく待機していたフラットも大きく頷いた。


「う……うん! 凄い……!!!」


感動した様子で白騎士を眺めている二人に対し、オレは背後からツカツカと歩み寄ると……!


「アホか!!!」


その頭にゲンコツを落とした!


「なっ……! 何するのさラディ~……!」

「い……痛い……」


涙目で抗議するリトナとフラットに対し、オレは厳しい声で言った。


「お前ら分かってんのか!? 俺達は今から「アレ」と戦うんだぞ!?」


その言葉にハッとした様に表情を強張らせるリトナとフラット。


(ソード=レイシュラッド……! 最強の騎士機……! そんな物まで出してきやがるなんて……!)


オレはその白銀に輝く騎士機を睨みつけながら呟く。


「上等じゃねえか……!!!」






その時、実況を勤めていた女子生徒が大きく声を上げた。


「さて! それでは次に整備科の、騎士機入場です!」


その声にオレはリトナとフラットに合図を送る。


「よし! 行くぜお前ら!!!」

「う、うん! ここまで来たらもうやるしかないよね!」

「大丈夫……! 頑張る……!」


そしてディグに搭乗すると、入場ゲートをくぐる……!


ワアアアアアッッッッッ!!!!!


「ッ!!!」


それと同時に大歓声が俺達を迎えた! だが……


「あ? なんだあの機体?」

「騎士機か……? なんかやけにボロいし小さいぞ?」


その歓声はしばらくすると困惑のどよめきに変わる。


「えーっと……、入場してきたのは整備科チーム! 乗騎……登録名は「ディグ」! ディグ1号機を駆るのは整備科2年ラディウス・ロッド! ディグ2号機は同じく整備科2年、リトナ・リアス! そしてディグ3号機も同じく整備科2年、フラット・ボルドーが搭乗します!」


その時、観衆の一部が声を上げた。


「そんな機体で騎士科の機体に勝てるわけねーだろ!」

「とっとと降参しちまえ!」


それを合図に、他の騎士科生徒達からもラディウス達に対し次々とヤジが飛ぶ。


「うわわ! 皆さん静粛に! 静粛に願います!」


慌てて事態を収めようとする実況のカリンに対し、隣に座っていたジエドは真面目な口調で言った。


「これは……。もしかしたらこの試合、前評判通り騎士科の圧勝という訳にはいかないかもしれませんよ」

「え? それは一体どういう事でしょうか?」


そう聞き返すカリンに対し、ジエドは答える。


「あのディグという機体、騎士機が駆動する際に発する魔力光が観測出来ません。おそらくですが、全ての駆動方式に機械式を採用している機体ではないでしょうか」

「えっ!? そんな騎士機存在するんですか!?」

「いや、正直私も初めて見ます。ですが入場の動きを見るからに、平民である彼らでも問題なく動かせている様に見えます。魔力の少ない彼らでも扱える機体、その答えがあの機体なのではないでしょうか? それに特徴的なのはあのサイズです」

「あのサイズにも理由が?」

「ええ。一般的に騎士機程の巨大な機体を自重により自壊させずに行動させるには、魔力による補助が必要不可欠です。魔力循環式フレームの隅々に、装騎士が血液の様に魔力を流し込み機体強度を強化させる事によって、初めて騎士機はあの巨体を維持したまま戦闘が可能になるのです。ですが……」

「あのディグと言う機体は魔力を使っていない?」

「ええ、よって支えられる重量には限りがあります。一般的な騎士機の半分程の長高、それがあの機体で支えられる限界なのでしょう。パワーでは騎士科の機体に劣るでしょうが、スピードでかく乱すればあるいは……」

「なるほど……!」


感心した様に言うカリンの声に、生徒達のヤジも静かになっていった。

そして観衆がどよめく中、俺達は騎士科の機体の前に整列する。


「フッ……ククッ……! どんな機体を用意してくるかと思えば、なんだその出来損ないの騎士機は!? いや騎士と言うより歩兵か? 魔力を使えない平民にはお似合いの機体だな!」


嘲る様に笑い声を上げるマーベリック。

整列する互いの機体のサイズ差は、まるで大人と子供の様だった。


だがそれに対し、オレは余裕の笑みを浮かべたまま返す。


「精々侮ってろ三流貴族。その歩兵に倒され、地べたを這う屈辱を味あわせてやるからよ!」

「フン、平民が……!」


その時、実況が移動の合図を告げた。


「では各チーム! スタート地点への移動をお願いします!」


その合図と共に俺達は観客席から離れゲートをくぐり、演習場平地エリアで距離を取って向かい合う。


そして両陣営の準備が整うと、公式の審判員が現れ大きな声を上げた!


「それでは! これより! 騎士科代表チーム対整備科代表チームの騎士決闘を行う!!!」


その声に、オレは操縦桿を握りしめ神経を研ぎ澄ませていく……! そして……!!!


「決闘!!! 開始!!!!!」


開戦を告げる声が鳴り響いたのだった!!!






審判員の声と同時に! 騎士科の機体3機が猛然と突撃を仕掛けてくる!!!


「所詮前座、予定は後まで詰まってるんだ。一瞬で終わらせてやる……!」


ドンッ!!! ドンッ!!! と地響きを上げながら近づいてくる3機の巨人!!! ヴィーアシュラウト、ドラッドリオン、ソード=レイシュラッド!!!

それに対し……!!!


「よし! 行くぜ! リトナ!!! フラット!!! まずは作戦A!!!」

「うん!!!」

「わかった……!!!」


俺達はそう言うと……!!!


「180°回頭!!! ローラー機構起動!!! 全力……離脱!!!!!」


足に装備したタイヤを回し、一目散にその場から逃げ出した!!!

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