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シノザキの失態



「青柳さんには本当に申し訳ないと思っています。」




天使を名乗る子供、シノザキは背中を向けたまま言った。


「三時間で俺が死ぬって、本当?」


「本当です。」


シノザキは即答する。


「確認はしたはずだったんです。でも、名簿を見て間違いに気付いて、慌てて近くを探したんですが見つからなかった。青柳さんの家にも行ったんですけどなくて、そうしたらタマシイだけの青柳さんが帰ってきて…」


青柳は深呼吸して、イライラする自分を冷静に、そして客観的に眺める。


似たようなことは以前、サラリーマン時代に何度もあった。


入社したての新人は、ミスに対する耐性がない。自分でなんとかしようとして、さらに泥沼にハマる。


先輩の方から助け舟を出すと、解決ではなくミスの出どころの方に意識が向かってしまう。


こういう時はまず、状況を整理して対応の優先順位をつけてあげなければならない。



「タマシイ運送のシノザキさん。」



「へ?あ、はい?」



「シノザキさんは人間の魂をどこかに運ぶことが仕事ですか?」



「え、はい、そうです。地上から天界に運ぶのが仕事です。」



「死んだ人間が名簿にされていて、名簿通りに魂を運んでいるんですね。」



「そうですよ、天使なんだから当たり前じゃないですか。」



そりゃあお前にとっては当たり前かもな!と怒鳴りたくなる気持ちをぐっとこらえ、状況整理を進める。



「俺の、青柳の名前があったんですか?」



「なんか尋問されてます?僕?」



「いいから答えて。」



「あ、いえ、青柳さんの名前はなかったです。」



「なるほど、シノザキさんは魂の運送中、他の人と間違えて俺の魂を運ぼうとしたわけか。」



「…そうです。」



話が見えてきた。このシノザキという天使は地上から天界に人間の魂を運ぶのが仕事で、地上で亡くなった人が名簿に載る。

亡くなった人の魂を運び出すつもりが、誤って俺の魂を運んでいることに気がついた。

あと少し、最後の一ピース、俺が三時間以内に死ぬ理由がわかれば、やるべき対応が見えてくる。



「今外に出たのは、俺の魂を探すため?」



青柳は着実に状況を理解しつつあったが、最後に奇妙な矛盾が発生していることに気が付く。


魂を間違って運んでしまったところまではいい。

ならここにいる自分は何なのか?自分は今どんな状態にあるのか?



「探すのはタマシイではなく肉体です。僕、河川敷で寝ていた青柳さんからタマシイを抜いてしまったんです。名簿を見て間違いに気付いて、肉体に戻そうとしました。でも肉体はすでに消えていて、おまけに青柳さんのタマシイも途中で落っことしてしまいました。生きている人の場合タマシイと肉体は分裂後も自我を持って活動することがあるので…」



「お前めちゃくちゃミスってるじゃないか!」



青柳は我慢できずに叫んだ。


生きている人間の魂を誤って引っこ抜いて、挙句肉体と魂両方なくしちゃいました、だと?


シノザキによると、行方不明になっていた肉体とタマシイのうち、タマシイだけが家に戻ってきたとのことだ。つまり、今ここでシノザキと話している俺は、タマシイだけの状態である。



「い、いきなり怒鳴らないでください!エンハラですか!エンジェルハラスメントですか!」



天界にもハラスメントの概念があるのかと思いつつ、あったとしてもハラスメントを盾にしてくるこの天使に思わず拳骨を喰らわせたくなる。



「お前、こんなミスしたらクビだろ。」



拳骨の代わりにたっぷり嫌味を込めて言ってみる。



「ええ、クビ!?ウソ…やっと入社できたのに…」



かなり効いたようで、シノザキは大きな瞳に涙を浮かべた。何だか小学生をいじめているみたいで、怒りで膨らんでいた感情の風船がゆっくりとしぼんでいく。



「お願いです、青柳さん!一緒に探してください。僕、クビになりたくないです!三時間以内なら肉体とタマシイはくっついて元通りになります!あと二時間くらいですが…肉体を見つけて、タマシイの青柳さんを入れます。お願いです、青柳さんしか頼れないんです!」



青柳はため息をつく。



効率よく状況把握できたから最悪の事態は避けられた。まだ時間はある。



「やることは決まったな。探すぞ、シノザキ!」




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