純白の草原の約束
「次、一緒にここにきたときは、もっとすげーの、作ってやるんだからな!」
きっかけはお気に入りの髪飾りが壊れてしまったことだった。昼休み、それぞれが好きに遊ぶ校庭の隅にある花壇の世話をしていた。そこに運悪く、ロングシュートを決めようと彼が思い切り蹴ったサッカーボールがぶつかり、桜を模った髪飾りの葉の部分が折れてしまったのだ。
あまりのショックに目に涙をいっぱいに溜めて俯く私と、やばいと焦る彼。ポツリと乾いた地面に水玉ができ始めたとき、彼が言ったのだ。
「俺が、代わりのやつ、作ってやるよ。学校、終わったら荷物置いてお前のマンションの下集合な。」
なぜだろう。まだ誰にも家がどこなのか話したこともないし、誰かと一緒に登下校もしたことなかったのに。どうして彼は私の家を知っていたのだろう。だから、待ち合わせの時に聞くと、答えてくれた。
「一緒に帰ってなくても同じ団地のマンションなら、棟違っても知ってるだろ。」
少しばかり恥ずかしかったのか、目を逸らしがちに言う彼が少し可愛かった。
「んだよ。ニヤニヤすんな。事実言っただけだろうが。早く行くぞ!あんまり遅いと、母さんに怒られる!!」
照れ隠しに少し大きな声でぶっきらぼうに話しているのに、彼は私の手を取って走り出した。
こっちの方が恥ずかしいのでは…?
知らなかった。マンションの裏、少し土手を登った先にこんなにも綺麗な場所があるなんて。一面が白で埋め尽くされていて、絨毯がどこまでも敷かれているみたいだった。それでも、風が吹くたびに草の匂いと甘い蜜の香りが体を包み込む。真っ青の空と真っ白の原っぱ。圧巻の景色と心地よい風に酔いしれていると頭の上にかさりと音を立てて何かが乗った。
「下手だけど、壊しちゃったから。ごめん。」
どこか決まり悪そうに目を逸らして謝る彼。落ち込んでいた私を慰めようと一生懸命に作ってくれた花冠。でもそれはほぐれて目の前に落ちてきた。
「「あ。」」2人の声が重なる。
「…っ。ふふっ。あはっ、また壊れちゃった。」
「〜っ!!!次はもっとすごいの作ってやる!!覚悟しとけよ!」
きっとこの約束はもう果たされることはない。だって、絶対に会えない人との約束だから。でも、ここに来て、この景色を見た時、私はきっとこの出来事を思い出す。
「うん。約束だよ。」
誰もいない真っ白の草原に、私はいつも同じ返事をする。