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  作者: 麻生 紡
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一番の難関である姉の部屋。残るのはここだけになってしまった。

 姉が亡くなっても両親がいる間はここは綺麗なままだった。

 母の死後、わたしの自室に物が溢れてどうにもならなくなり、隣にある姉の部屋に押し込んだのが最初。両親の部屋は、姉が亡くなってからあっという間に汚部屋になっていたので詰め込みようがなかった。

 物を置くとすぐに部屋を出てしまっていたので、室内をじっくり見ることもなかった。

 今ならわかる。わたしは怖かったのだ。姉の死は事故か自殺かわからないままで処理された。事故なら仕方ないが、もし自殺だったら。それを知るのがとても恐ろしかった。

 よく見ると、驚くほど姉の物は少ない。大部分がわたしのものだ。

 そうだ、大学の卒業式の翌日に大掃除をしていたんだ。

 「社会人になるんだし、模様替えしようと思って」

 そう言って、ごっそり捨てていた。今となっては気分を一新するためなのか身辺整理なのかわからない。

 答えの出ない問いにため息を吐いて自分のものから片付け始めた。

 この部屋に運んだものはみんないらないものと化していた。今までなくても支障なく生活できていたんだから当然だ。結局無駄にものを移動させていただけだった。

 (一体なにをやっているんだ、わたしは)

 過去の自分にツッコミを入れつつゴミ袋の口を縛る。何故かダンボールもいくつかあったので畳んで紐でまとめた。

 わたしのものさえなくなれば元々は綺麗だった部屋だ。あっという間に元の姉に部屋になった。

 この部屋で姉は何を考えていたのだろう。

 掃除しながら今はいない人を想う。

 両親の部屋に遺品を移そうとして机の引き出しを開けると日記がぽつんと入っていた。

 (お姉ちゃんの日記……)

 これを読めばもしかしたら姉の死について何かわかるかもしれない。でも……迷った結果元に戻した。


 一晩考えて外出する。行先はよく利用する雑貨店で、鍵付きの小物入れを購入した。

 それに日記帖を入れて鍵を閉める。そして鍵を捨てた。

 わたしは日記をつけていないが、自分だったら読まれるのは嫌だ。そして姉の性格上、確実に読んで欲しいのなら遺書を書くと思う。

 本当は処分するのが良いと思うが、でもお守りとしてもう少しこの家にあって欲しいというわたしの我儘だ。

 日記と愛読書、お気に入りのワンピースを元両親の部屋に運ぶ。

 残ったものは処分した。


 最後にリビングに面したベランダを掃除しながら、空っぽになった衣装ケースや使う人間のいないベッドをどうするか改めて考える。

 このまま家族が生きていた時のままにしておくのか、このマンション全体をわたしの家として模様替えするのか。

 これから勉強しなければならないことが沢山ある。自分の部屋で寝ることも勉強もする?他に空いている部屋があるのに?

 パソコンを開き、何気なくゴミの分別や不用品の処分についての情報を眺めていると恐ろしい事に気付く。

 将来今まで以上に分別が細かくなる可能性、処分料が高くなる可能性だ。現在の料金でも総額にすると

「うわぁ」

 となるのにこれから先のことを考えると今が1番良いのでは?

 安くなる確率は限りなく低そうだし。

 それに万が一自治体での回収不可になったら、三人分のベッドなんて大変困る。分解しろと言われても困るけれど。

 色々調べた結果、粗大ゴミ回収はわたしには無理なことがわかった。ベッドの枠は分解して運べるだろうがマットを一人で運ぶのはハードルが高すぎる。

 早速、検索を掛けてレビューをチェックし、候補の不用品回収業者を絞り込む。良くない業者のトラブルもよく聞くので慎重に。

 最終的に三社に見積もりをお願いした。

 出すものは決まっているので、内容を全て書き出してメールする。

 昼に出したメールの返事が夕方には届いていた。仕事が早い。これが普通なのかたまたまなのか、初めての利用なのでわからないが。

 三社比べると値段の差が結構あるが、それより気になったのはその内容だ。

 ざっくりした見積もりと、一つ一つ丁寧に説明された見積もり。

 追加料金の可能性を考えるとざっくりは怖い。

 丁寧な見積もりを出してくれたところに電話して、さらに詳しい話を聞き今度の週末にお願いすることにした。

 ここは女性社長が自分の実家をしまうという経験から起業した客もスタッフも女性という珍しい会社だ。

 確かに女性の一人暮らしにはとても安心できるサービスだ。同性の為かこちらが何を不安に思っているのかもよくわかっている。

 予定外の出費は痛いが、そうと決まれば。

 早速出かけて、菓子折りを買う。マンションの隣と上下階のひとに挨拶しておくためだ。

 週末に家具類を運び出すのだから一言言っておいたほうが良い。

 そんなのいらないと思う人もいるだろうが、わたしはここで暮らしていくのに不要なトラブルを作りたくない。

 今回騒がしくしてしまうのはこちらだし。

 買ってきて直ぐ挨拶に回った後、運びやすいように動線を作っておく。

 今回処分するのは

  ベッド×3

  ベッドマット×3

  羽毛布団×3

  毛布×3

  タオルケット×6

  シーツ×6

  枕×3

  収納家具

  引き出しタイプのクローゼット用衣装ケース×6

  机と椅子×2

  ドレッサーと椅子

  クッション×4

  電気スタンド×2

  カーテン×4

 本当は自分の寝具類も処分したいが今回の臨時出費が痛いのでお金が貯まってから少しずつ買換えることにした。

 好みのものを探す楽しみができたと思えば良い。

 

 翌日は祝日で休みだったので、リビングのカーテンを買いに行く。ネットで候補は絞り込んであるがやはり現物を見るのは楽しい。

 今迄は母が選んだベージュで無地のものが掛かっていたが、思い切って北欧柄のカーテンにしようと思ったのだ。

 決めてあった筈が、実際見ると目移りして迷いが出てしまう。

 中でも目を引いたのが南国の海を思わせる美しいエメラルドグリーンのカーテンだ。海底に写る波の模様が同系色の糸で刺繡が施されている。

 見た瞬間

 (これだ!)

 という気持ちになり、予算内だったこともあって即決した。せっかく来たので寝室の候補の下見もしてしまおう。

 ネイビーブルーにシルバーのビーズが所々縫い付けられている星空のようなカーテンが気に入ったので、値段を確認すると思っていたより安かったのでこれも購入する。

 早速帰って交換しよう。

 

 

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