両親
自分の部屋が予定より早く終わったので、次の週末に予定していた両親の部屋を少しだけ手を付けておくことにする。
両親の部屋は姉が死んでから荒れ始め、どんどん酷くなり父が死んだ頃には床が見えない状態になっていた。
その状態のまま父の一周忌を終えた後母は家を出てしまった。今ならわかる。思い出のたくさんあるこの家にいるのが辛かったんだろう。
そしてわたしも放置したまま、母の葬儀の打ち合わせに葬儀社の担当者が来ることになったので、慌ててリビングにあるものをここに放り込んだ為に必要なのかどうかわからないものが積みあげられていた。
(これを全部仕分けするのか……)
やる前から疲労感が出てくる。しかし、とにかくやらなければいけない。
これを逃すと永遠に片付かないだろうな、というのはわかるのでこのまま推し進める。
先ずは床が見えるようにするのが目標だ。
明らかなゴミは捨てつつ、必要なものを分けていく。が、これは本格的な遺品整理だ。靴は傷みが酷かった為に躊躇なく捨てられたが、両親のものはわたしが着ることはないのはわかっていてもなかなかしんどい。
最初のうちはリビングから移動させた家族共用のものと一人になってから使っている自分のものなので進みが良かったが、両親のものになってペースがガクンと落ちた。
床の上の埃まみれの衣類や布系は全部ゴミ袋へ投入し紙類は確認しつつ選別する。
黙々と作業しているうちに段々と腹が立ってきた。
(なんでわたしがこんなことしなきゃならないの?自分のことは自分でしろってわたしには散々言ってたじゃない!)
皮肉なことに怒りで片付けがどんどん進み床の部分が増えていく。夢中になって気が付けばすっかり日が暮れていた。
もう少しやりたかったがこれ以上は明日の仕事に響くのここで終わり。
夕食を終え、ぼーっとバスタブに浸かりながら本当は両親に対して怒りの感情があったんだなと人ごとのように思う。怒りをぶつける相手はもういないが。
こんな大変な後始末をさせられる程の愛情を掛けられた覚えはない。それゆえの怒り。
(考えたところでどうしようもないわ。寝よ)
週明け出社すると
「どうした?なんか疲れてるね」
最近調子が良い状態だったので驚いたのだろう森本さんが声をかけてきた。
「実は、両親の遺品整理をしていて」
事情を知っている人なので正直に説明する。すぐに納得の表情を浮かべて
「無理しないようにな」
それだけ言うと仕事に戻った。色々聞かれずに済むのでとても助かる。
定時で自宅に帰るとまた怒りが沸々と湧いてくる。その怒りを何とかしたくて夕食もそこそこに昨日の続きに戻った。
床が大体見えてきたところで切り上げる。時刻も十時を回った。入浴を済ませても気持ちがおさまらず、
(えーい、食べちゃえ!)
買っておいたご褒美アイスに手を付けた。いつもよりちょっとお高めのカップアイスはやはり美味しい。
(明日は別のフレーバー買ってこよう)
食べずにはやっていられない。
怒りを抱えたまま週末を迎える。感情にまかせた結果、平日の片付けは大いにはかどった。
床が綺麗になった分、ベッドの上とクローゼット、収納の酷さが際立つ。
窓を開け、今日一日で終わらせてやると決意した。正直ここに時間を取られたくない。
下着やインナー系は新聞紙に包んで見えないようにしてからゴミ袋に入れるが、二人分なのでちょっと面倒。
(お母さん、お父さんの分だけでも何とかして欲しかった)
ハサミでワイヤー部分を切りながら、あの世の母に愚痴る。
今まで何年も窓を開けることすらしてこなかったので、ここにあるものはほぼ処分しかない。カビが生えてしまっていたり、見た目が綺麗でも匂いが酷くて取っておくことはおろか資源物回収に出すことすら無理だ。
衣類をざっとチェックした結果、フォーマル各一着と比較的綺麗なスーツ各一着とそれに合わせたワイシャツ、ブラウス、ネクタイを取って置き、残りは全部処分することにした。
母のアクセサリー、父のカフスボタンとネクタイピンも一緒に掃除したクローゼットにしまう。衣装ケースは空っぽだ。
もう夜だけど本当に一日で終わってしまった。心地よい疲労感と共に明日の難関を思う。
明日はいよいよ姉の部屋だ。