【ストームの章・その7】ご近所付き合いと、のじゃロリ王女。
クリスティナを見送った後、ストームは再び鍛冶場へと戻った。
時間帯はちょうど夕方。
ストームの、『Bランク鍛冶師』としての仕事は、夕方まで。
そして夕方からの時間は、『鍛冶屋のストームさん』のところに、近所の主婦たちが包丁やら鍋やらを持ってくる時間である。
つまり、ここからは、近所付き合いのサービスタイム。
――ゴイーン、ゴイーン
ちょうどセルジオ教会から、夕方6つの鐘が鳴り始めた。
このサムソンでは、教会の鐘が時報の代わり。
朝6つ、朝9つ、昼、昼3つ、夕方6つと、一日に5回、教会の鐘がなる。
朝6つは仕事の始まり、昼は休憩時間、夕方6つは仕事の終わり。
この途中途中で休憩を挟み、無理なく働くのがサムソンスタイル。
もっとも、鍛冶師が武具を打ち始めるのは昼からが多く、その変わり夜9つの小さな鐘で仕事を終えるものもいる。
「ちょいとストームさん、これなんだけれど、先っぽが欠けちゃってね。どうにかできるかい?」
「ああ、ちょいとまってな」
――シュッシュッシュッシュッ
刃先の掛けた包丁を受け取ると、さっと軽く手直しして戻す。
ちなみに研ぎだけの代金は銅貨5枚でいいと、近所の人には説明してある。
これも良き近所付き合いのためである。
「見てよこれ、うちの鍋なんだけれど……穴があいちゃってねぇ」
「あー、ちょっと待ってな……材料は……と、これで治すか」
試し切りで切断したインゴットの角を、火炉にくべて柔らかくする。
それをヤットコで取り出し槌で叩いて薄く延ばすと、それで穴を塞いたのち、さらに叩いて圧着する。
――キンキンカンカントンテンカン
(鍋底の一部が、ミスリル製……うぷぷ)
と楽しそうに笑いつつ次々と修理していく。
冒険者たちの仕事道具ではなく、気楽に修理できるのがじつにいい。
ちなみにミスリルの熱伝導率については、ストームはまだ調べていない。
この鍋は数日後、再び修理に持ってこられるのだが、それはまた別の話。
「すいませーん。明日にでも、うちの竈の修復をお願いしたいんですけれど。なんとかなりそうですか?」
鍋の修理を終えてすぐ。
今度は、ストームの鍛冶小屋のある広場裏に住んでいる、エルフの若奥さんが話しかけてくる。
ちなみに主人は、ここの巡回騎士。
(ああ、裏に住んでいる美人で巨乳のエルフの若奥さんか。確か新婚だとか巡回騎士のやつが惚気ていたなぁ……もう、爆ぜてくれ、そんな奴は……と、仕事仕事)
そんな気持ちを、グッと堪えて。
営業スマイルで接客を開始。
エルフの若奥さんには罪はない、惚気ていた巡回騎士が悪いのさと。
「まあなんとかしますよ。明日でいいですか?」
「ええ。それじゃあ宜しくお願いしますね。これよかったら食べて下さい」
蒸かしたジャガイモが淹れてあるカゴを、ストームに差し出してくる。
(よし、助かったな巡回騎士。お前に対する恨みは、このジャガイモでチャラにしてやる)
許さなかったとしてもね特に何もないのだがと苦笑しつつ、カゴを受け取って。
「それでは、これは代金ということで受け取りましょう。では、明日の午前中にでも伺いますね」
「午前中?」
「あ、朝9つの鐘が鳴るあたりということで」
「それじゃあ、お願いします」
エルフの若奥さんを見送ってから、ストームは一息入れる。
そしてもうひと働きしてから鍛冶道具を片付け、酒場へと向かう。
最近はこのような、平和な日常を満喫していた。
○ ○ ○ ○ ○
ストームがサムソン辺境都市にやって来て、かれこれ3ヶ月は経っただろう。
この短期間で、ストームはすっかり都市の住人として馴染んでしまった。
アーノルド伯爵からはミスリル製のハルバードとフルプレートの注文もあり、半月ほどはそちらの製作に時間を取られてしまったものの、その報酬として金貨1000枚、加えてアーノルド伯爵領内の通行許可証と鍛冶工房の使用許可証も発行して貰った。
本当ならば伯爵領に引っ越してきてもらいたいらしいが、いま暫くの拠点はこの街なのでとセバスを通じて丁寧にお断りをいれておいた。
そして予定外に大金が手に入ったので、ストームは『鋼の煉瓦亭』の主人であるウェッジスから、この空き地と鍛冶場を含む建物一式を、金貨600枚で買い取った。
そんなに大金はいらんとウェッジスは話していたのだが、これは気持ちだからと告げて無理やり受け取って貰った。
晴れて土地と建物、それにある程度の資金も出来たことだし、そろそろ【魂の修練】を考える必要があると考えたのだが。
しかし、何を持って【魂の修練】になるのか、さっぱりと見当がつかない。
とりあえず教会へと向かい、シスターに助力を仰ぐ必要があると思って家を出た時。
「貴方がストームね!!」
家の前にある街道あたりで、綺麗なドレスを着た女性がストームを指差し、叫んでいた。
「ああ、たしかに俺はストームだが、何か用事か?」
ストームの前に立っているのは、おおよそ15歳ほどの、まだあどけなさの残る少女。
その彼女の後ろには、黒を基調としたメイドドレスを着た、侍女らしき女性が静かに立っている。
「ええ。私の名前はシルヴィー・ラグナ・マリア・ベルナー。このラグナ・マリア王国、ベルナー王家の第2王女なの……よっ」
「はぁ、そうですか。それじゃあ失礼しますわ」
と手をひらひらと降って、まっすぐ教会へと向かおうとするストーム。
そもそも、まだこっちの世界に来て3か月なのに、王家の人間に顔を覚えられている謂れはない。
どこかで噂を聞いてやってきたところまでは想像がつくが、この手のパターンは面倒ごとに巻き込まれると相場は決まっている。
だから適当にあしらって、この場を離れようとしたのだが。
「ちょ、一寸待つのじ……待ちなさいっ。私は王女よ、王家の人間に対して、そのような無礼な振る舞いが許されると思って!!」
ぐいっ、と侍女に何かを指示するシルヴィー。
そのタイミングとほぼ同時に、侍女がスカートをたくし上げ、太腿にあるベルトからスローイングダガーを引き抜く。
それを素早く、ストームの足元に向かって投げてきたのだが。
――キィン!!
スローイングダガーが飛んで来たのと同時に、ストームも腰を少し下げてから抜刀する。
居合抜きの応用で、飛んでくるダガーを真っ二つに切断すると、クルッと日本刀を回転させて鞘へと戻す。実に滑らかで流麗な動きである。
「は、はぁ? ステラのスローイングダガーの実力は騎士団クラスなのぢゃ……わよっ。なんでそれを鍛冶師ごときが!!」
(あ、この子はあれか、なのじゃが口癖の、お姫様か。リアルのじゃロリ姫を見るのは初めてだな)
ストーム、ちょっとだけ感動。
丁寧に話そうとしているところは、まあ努力は認める。
「ふぅん、その程度の腕で、騎士団クラスねぇ。悪いけれど、冒険者の中にももっと強い人はいますよ。それに、突然人の家にやってきて、自己紹介もしないで人の名前を叫びつけられてもねぇ……」
嗜めるように、シルヴィーに呟く。
するとストームの言葉の意味が理解できたらしく、彼女も申し訳なさそうに頭を下げた。
「ううう。そ、そうぢゃ……ね。それについては非礼をお詫びするの…ぢゃ…わ」
最後の方は、ほっぺたをプッと膨らませて呟いている。
(わがままな子供が正論吐かれて膨れている感じにしか見えないが、まあ、謝ったので許してやるとするか……しっかし、泣きそうな子供には、俺は弱いんだよなぁ……)
そう心の中で呟いたのち、一呼吸おいてからストームは話を再開する。
「それじゃあ、謝罪は受けいれる。では改めて、サイドチェスト鍛冶工房のストームと申します。本日はどのようなご用命で? それと無理に丁寧な言葉遣いは無用です。素のままでどうぞ」
と営業スマイルで告げるストーム。
これにはシルヴィーもほっとしたらしく、先ほどよりも元気な声で話を始めた。
「東洋の鍛冶師どの、貴方に武具を作って欲しくてやって参りました。アーノルド伯爵の紹介状も御座います」
そのシルヴィーの言葉のあとで、侍女が封蝋を施してある手紙をストームに差し出した。
「あ、ああ、伯爵の紹介状ですか。それでは、中身を確認させていただきます」
一拍おいて、手紙の内容を確認する。
そこには先日納品した武具についての丁寧なお礼が記されていたことと、シルヴィー王女の願いを可能ならば引き受けてくれると助かるという頼みごとが記されていた。
「ははあ。確かにアーノルド伯爵の紹介状で間違いはありませんね。では、どのような武具をお求めでしょうか? 私の作る武具は完全受注性です、ご注文に合わせて仕上げてご覧にいれますけれど」
と問いかけると。
「実は、まもなく王都にて武術大会が開催されるのぢゃ。妾の騎士団からも、騎士団長が参加することになっておる。それで、ストーム殿には、その者の武具を作って欲しいのぢゃが」
おお、ファンタジー小説ではおなじみの武術大会キタ~というところであろう。
そう心躍らせるストーム。
「了解しました。それでは、武具を必要とする者をこちらに派遣して頂けますか? その方が到着次第、作らせて頂きます」
丁寧に返答するものの、今度はシルヴィー王女の表情が曇ってしまう。
「それが、武術大会が開催されるのは1ヶ月後、このサムソンまで騎士団長殿を派遣するのには時間が足りぬのぢゃ。ということで、ストーム殿、王都まで来て、騎士団長の武具を直接作っていただきたいのぢゃが」
予想外の申し入れに、ストームも頭を抱えたくなってしまう。
このサムソンは、シルヴィーの住むベルナーの隣の領地。
だが、ベルナーを挟んでちょうど南側に王都があるという。
ここまで騎士団長が来た場合、武具を仕上げてから王都に向かうには時間が足りないらしい。
「ち、ちょいと待ってくれ。突然王都に来て、武具を作ってくれと言われてもなぁ……」
そう呟いた時、シルヴィー王女の肩が震えていたのに気がついた。
「無理を承知で頼みたい……報酬ならなんでも用意する。どうしても……今回の大会では、妾の騎士団長が優勝しなくてはならぬのぢゃ……そうでなければ……」
そう呟くと、王女はドレスの裾をギュッと掴んだまま俯いてしまう。
街道の石畳に、王女の涙が落ちていくのを見た時、ストームは何か事情があると察した。
そして頭をボリボリと掻きながら踵を返すと。
「ふぅ。あまり綺麗な所ではありませんが、取り敢えずお話だけでも伺いましょう」
そう告げて、王女を自宅へと案内する。
そしてしばし王女の話に耳を傾けたのち、ストームは意を決して外出の準備を開始した。
翌日早朝、王女の乗ってきた馬車に便乗する形で、ストームは王都へと向かっていった。
一体何が起こったのか。
それはまた後ほど……。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。











