森で暮らす年老いた魔女、「和菓子の家」を作る
森の中に魔女が住んでいた。
黒いローブを着て、もう老婆といっていい魔女だ。
彼女は言った。
「和菓子の家を作ろうかねえ」
腰は曲がっているが、腰を上げるのは早い。
魔女とて薬品作りなどでたっぷりと貯金はあった。
箒で飛び回り、あちこちで和菓子の材料を買いあさった。
家に戻るとさっそく調理を始める。
魔法で一気に作ってしまうなんていうズルはしない。
米を炊いて、小豆を煮て、きちんと自分の手で作っていく。
大仕事となったが、「和菓子の家」はついに形となった。
屋根は煎餅でできており、家の壁は羊羹やきんつばをレンガのように組み立て、窓は寒天でできている。
他にも饅頭やすあま、桜餅、団子、さまざまな和菓子を並べて飾りつけする。
出来上がった家には腐らないよう、汚れないよう、魔法をかける。
これで完成である。
魔女は森を出て、人々に宣伝する。
「和菓子の家を作ったよ。ぜひ遊びに来ておくれ」
日頃から魔女の世話になっている人々は、みんな和菓子の家に立ち寄り、その家の美しさ、美味しさを褒め称えた。
「綺麗な家だわ……」
「へぇ~、こんな菓子見たことないや!」
「どれも美味しい!」
和菓子の家は好評で、魔女は喜んだ。
「みんな、ありがとうねえ」
森で迷子になった子供が歩き回った末に和菓子の家を発見し、魔女に助けられたということもあった。
子供は和菓子をたらふく平らげお腹を満たし、無事故郷に帰っていった。
「美味しかったよ、おばあちゃん」
「また遊びにおいで」
なぜ魔女が和菓子の家を作ったのか。
それにはわけがあった。
魔女がまだ若い頃、彼女は恋をしていた。
相手は遠い異国の和菓子職人の若者だった。
色んな国の菓子を知るために旅をしている最中、森に迷い込んでしまったという。
二人は幸せな日々を過ごした。
しかし、若者は旅の中で病を患っていた。
魔女でもどうすることもできない病だった。
若者は残された時間で魔女に和菓子作りを教えた。
そして、魔女にこう言い残す。
「この国に和菓子を広められなかったことが心残りだ……」
魔女はそんな若者の手を握る。
「私が広める! 和菓子の修行をして、あなたの味を再現できるようになったら、きっと……みんなが驚く方法で……」
「ありがとう……」
若者はこの世を去った。
そして長い時間が経ち、魔女はようやく和菓子の家という形で、皆に和菓子を広めることができた。
皆が家を味わっているのを見て、魔女は微笑む。
「ようやくあなたとの約束を果たせたわ」
完
ラジオ大賞参加作品となります。
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