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三つの質問

 俺は自分の家でもないのに、椅子を出したりお茶を淹れようと、ぐーたら体勢、ソファーに横になっているのを止めようとしたのだが、ルナさちゃんに「お気遣いせずに」とにこやかに言われ、お言葉に甘えて継続をすることにした。元男であり、社長婦人であるということがわかってから初めて会うのだが、今更距離を元に戻すのもおかしな話なので何も変えないことにした。

「おー、ルナちゃん、よく来てくれた」

 家の主人は何もしない、カーペットにうつ伏せで寝ている体勢から一ミリも動いていない。

「はい、お邪魔してます。西沢マネージャーですよね、本当に僕と同じなんですね」

 詩織から事情を聞いているのか俺のことをまじまじと見つめてくるルナちゃん。

「君を呼んだのには理由がある。見て欲しい、この我が家を洗っていないお皿、怠惰な二人、しかもお腹が空いている」

「わかりました、僕に任せてください。買い出しはしてきたんですよ。ナポリタンにしようと思って」

「ごめんねルナちゃん、詩織が迷惑かけちゃって」

「いえいえ、とんでもないです。僕の方こそ本当に詩織ちゃんにお世話になってるので……刹那の方も詩織ちゃんには頭が上がらないはずです」

 ルナちゃんは小さく愛らしい見た目と、聖母のような体つきというか何というか、体が変わる時に絶対に大きくなるのだろうか。冬神社長の親戚だと思っていたのだが、まさか結婚相手だったとは思わなかった。確かにこの感じで結婚しているのは性癖の盛り合わせすぎるな、詩織が歪んでるというよりは、ルナちゃんがいろんな癖を持っているから、歪んで無くても何処かに引っかかるって感じ?

 ルナちゃんは落ち着いた色のエプロンを巻くと、食器洗いから始めてくれた。丁寧さとスピードを兼ね備えたプロの技だ、俺なんてまず食器を洗い始めるのに二十分はかかる。

「ルナちゃんって、家政婦さんだったりした?」

「あー、一応今も冬神家の執事なんですよ。なんで、今でも家事はやってますし、小さい頃から叩き込まれたので、いくら鈍臭い僕でもこれくらいはできますね」

「えー、マネージャーって本当にルナちゃんのことあんま知らないんだね。今、番組やってるんだよ? 家事の裏技紹介みたいなの」

「お前の仕事量が多すぎて、お前だけしか見られないんだよ」

「きゃっ、マネージャーそんなこと言って」

「そういう意味じゃない!」

「お二人とも仲が良さそうでいいですね」

 微笑ましいものを見た顔で、ナポリタンの具材を切りだしたルナちゃんはそんなことを言う。

「えーでもルナちゃんだっているじゃん、刹那社長がさ。気になるなー、家でどんな感じなのか」

 詩織はキッチンへと向かって、ルナちゃんにバックハグをかます。美少女同士の絡みは最高なんだ。そうなんだ。

「刹那ですか? 本当に普通の人ですよ。あんま言うと怒られそう……。じゃあ三個まで質問答えます」

「社長の趣味は?」

「ちょっとマネージャー、お見合いじゃないんだから」

 キッチンから詩織に睨まれる。

「趣味……改めて聞かれるとなんだろう。あっ、でも、うーん、恥ずかしいなこれ言うの」

「マネージャー、これいい質問だ!」

「多分……僕です」

「「うぉぉぉ」」

 俺と詩織の、雄叫びに似た歓声が家中に響き渡る。

「詩織ちゃんは知ってると思うんですけど、僕って完全に刹那のゴリ押しで事務所に入ったんですよ。別に歌も踊りも上手じゃないですし。なんなら刹那にアイドルやれって言われたんで、そもそもアイドルのことも知らなかったんです。刹那はちゃんと経営者だから入れるまではやっても強引にテレビに出すとか、過剰な宣伝とかはやらないんですよ。だから、最初の方は観客とかは一人、というか刹那だけとかありましたね。その時の刹那の格好って凄いんですよ。完全武装って感じで、ライト持ってハッピ着て、鉢巻きしてね」

 あの冬神社長が? 俺もちょっとしか会ったことないけど、とんでもないオーラを放っていて軽率にボケたりできなそうなのに。冬神社長のことを話すルナちゃんは、本当に幸せそうで、見ているこちらも幸せな気持ちになってくる。

「うぇー、ルナちゃんいいなぁ、私もそういう人欲しい」

「詩織ちゃんならいい人できますよ」

「これが余裕ってやつだよ、マネージャーにはないやつ、頑張って」

「頑張ります」

「えーとじゃあ二つ目はね、プロポーズはどっちから?」

 詩織って意外と恋愛脳なのか? あんま人の恋愛話とか聞きたがるような感じじゃなかった気がするけど……まさか、詩織にも想い人でもできたのか? あんなにちっちゃかった子がもうこんなに大きくなって。

「僕ですね」

「かー、いいねルナちゃん、そのちっちゃい体で積極的だね」

「付き合おうって刹那に言わせちゃったので、プロポーズぐらい僕からしようと思って」

「刹那社長どんな感じだった?」

「あの時の刹那は本当に可愛いかったですよ。十何年一緒にいて初めて泣いたの見ましたからね」

「泣くんだあの人」

 思わずポロっと本音が出た。

「最後の質問どうぞ」

「その……夜の生活とかって、どっちがどっちとか……」

「バカっお前」

 俺のツッコミで、詩織には聞こえなかっただろうが、ルナちゃんが恥ずかしそうに、『僕がタチです』と言ったのを俺は聞き逃さなかった。

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