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8/14

今日はゴロゴロすると決めたので

 明日はオフなので、久しぶりに目覚ましをかけなかった。今までの疲れが溜まっていたからか、目を覚ますともう十時半で慌てて飛び起きた。あんまり寝過ぎたらマネージャーとのゆったり時間が減ってしまう。

「おはよー」

 マネージャーは、コーヒーカップを片手にスマホを弄っていた。

「やっと起きたか、疲れてたんだな」

「めっちゃスッキリ、頭のモヤが晴れたみたいな感じする」

「予定だと、今日はゴロゴロすんだろ? もうちょっと寝てたらどうだ?」

「ゴロゴロじゃないよ、彼女とイチャイチャすんだよ。マネージャーも台本読んだでしょ? れ、ん、しゅ、う、だよ練習」

 私から目を外してコーヒを啜るマネージャーは面白いくらい動揺していて、見ていて飽きない。叩けば音が出るおもちゃとはよく言ったものだ。

「ねぇ、今日何しよっか」

 台本に書いてあったセリフだ。初めてお泊まりに来た彼女へ向けてのもの。

「あー、えーっと」

 マネージャーは、バックの中から台本を取り出す。

「ナニシヨウカ、デモ、ナニモナイヒビデモワタシハアナタガイレバソレデシアワセダカラ」

 私は知っている、マネージャーの演技センスは絶望的であることを。いつも台本の読み合わせに付き合ってもらっているのだが、一向に成長しない。もう棒読みというか片言だ。このおかげで、相手の演技がどんなに下手でもなんとなく動揺しなくなった。マネージャーより演技が下手な人間を見たことがない。CMで演技をやらされているスポーツ選手の方がまだマシ。

スポーツ選手はやらされているのであって、やってない。しかし、ことマネージャーにおいては、ドラマの仕事があると付いてこなくてもい時でも付いてくるし、趣味で映画や舞台にまで足を伸ばすほどには演技が好きなのだ。どうしたんだマネージャー、いつもの仕事できる感はどこにやったんだよ。要領良く、情熱的な時は情熱的な君はどこへ?

「えー、成美はやりたいことないの?」

 成美とは、ドラマに出てくる私の恋人役の名前、マイペースで何処か掴みどころのない性格をしている。

「ナイカナ」

「じゃあ、ゲームしよ、ゲーム」

 これは台本でもなんでもないセリフ、藍澤詩織のセリフである。

「ゲーム?」

 アドリブと勘違いしたマネージャーが、口をパクパクさせだした。ボーイッシュな、クール系美女があからさまに混乱していて、そのギャップが可愛い。

「ドラマの練習じゃなくて、普通に」

「焦った〜、凄いな、プロはこんなのも即興でやるんだもんな。しかもカメラの前で、俺絶対無理だわこんなの」

 自分に無いものを、人は嫉妬したり欲しくなったり、憧れる。マネージャーはもしかしたら演技に憧れているのかもしれない。マネージャーは性格が前向きなので、マイナスベクトルに気持ちがいかないが、方向が反対になれば簡単に汚い気持ちになっていく。そういう人間を多く見てきた。特に芸能界は常に人前に立つ、人前に立つということは比べられるということなのだ。比べられると人間の感情は動く、勿論、前向きでも後ろ向きな気持ちでも結果を出した者が勝ちだ。どんな心も自分の成長に変えられる。私はそこまで出来た人間じゃないから、直ぐにマイナスベクトルに走ってしまう。プラスの方向に走りたいのだが、どうも無理だ。どう見られるかが気になってしょうがないし、時にはドロっとした感情が溢れることもある。だから私はマネージャーに憧れている。そしてその気持ちが少しずつ好意に変わっていったのだ。

「ゲームってもう全然やらないな、大学生の頃は結構やったのに」

 私はゲームをあんまりやらないが、お母さんがゲームをやりながら運動ができるの始めたり辞めたりしているので、ゲーム機のセットは万全だ。

「マネージャーの時代のゲームって何なの?」

「今とあんまり変わらないかも。今出てるやつも意外と昔あったものを進化させたり、シリーズになってるし」

「名作ってやつね」

「そうそう」

「じゃあ何やる?」

「じゃあ、このレースゲームやろうか。コイツも大変だよな、テニスやらされたりサッカーやらされたり、挙句の果てには医者もやらされて」

「私もそんな感じですけどね。バレーやらされたり、恋愛させられたり、挙げ句の果てには天才医師やらされてますよ。まだ未成年だったのに」

「詩織が大変なのはわかってる」

 見た目が変わっても、マネージャーが私に向ける笑みは変わらない。母親が小さな子に向けるような優しい笑みを浮かべる。天然たらし特有の雰囲気が溢れんばかりに漏れ出ている。マネージャーを慕っている人は多い、そいつらは私のライバルだ。私に勝てると思うなよ。

「お、このコース知ってるぞ、昔にもあったやつだ。ここ通ると弾き飛ばされるるんだよな」

「ほら、マネージャー爆弾あげる」

「うわぁぁ!」

 マネージャーは何も考えずに先頭に立つ。私は後ろの方にいる程アイテムが強くなる性質を利用して、順位を調整しながら一位を目指す。昔は私も愚直に一位を取ることを目指して走っていた。ただ、戦略を立てて、欲しいもの、望むものを与えることが最良だとわかってしまうと、その愚直さは邪魔になる。


「は〜遊んだね」

 一時間程ゲームをやったところで、ゲームを切り上げた。久しぶりにやると矢張り楽しいのだが、お腹が空いてしまった。いつもであればこれくらいの空腹は体型維持のために水を飲んで誤魔化すのだが、今日の私はいつもとは一味も二味も違う。わがままガールなのだ。

 チャイムが鳴る。

「待ってました」

 お腹が空いたが何もしたくない。こういう時は誰かに作ってもらうに限る。

「お邪魔します。冬神です」

「おー、ルナちゃーん」

「詩織、社長夫人をそんな風に扱って……」

 そう、私が召喚したのは冬神ルナ、本名 冬神傑である。

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