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水着コンテスト①

「さぁ、始まりました。第二回水着コンテスト! みなさん盛り上がっていきましょう」


 舞台袖で待機していると、司会のお姉さんが声を張り上げた。いつもは送り出す側だが、今日は送り出される側だ。人数はそこそこ、取り敢えず海に並べられた椅子は埋まっている。とはいえ、先日まで詩織が立っていたステージに比べれば、人数は少ない。というかこれ第二回なんだ……。


 「緊張するー」詩織はどんなステージでもそう言っていた。ドームでも、地方の公民館のステージでも、常に。それはプロ意識の高さからくるのだろう。どの場所でも万全の準備をした人間の積み重ねてきたものに対する自信から来るものだろう。


 対して俺、緊張するしないの次元じゃない。自信が無い。人前に出るくらいならもう緊張しない。芸能界では殆どの人が初対面だ。そう言った人達に会う度に緊張していたらマネージャーなんて勤まらない。無い無い無い無い言い過ぎてるか……。このね、雑多な思考はね、間違いなく準備不足から来てるやつ。


「では、エントリーナンバー1 春川 美穂さん」


 降谷さんが前説として会場をあっためてくれたおかげで、歓声があがる。あの人本当に出場するの? 絶対優勝じゃん。なんなら前説してんじゃん。えっ、今思ったけどズルくない? ってなんで結構前向きになってんだ俺は!


 事前の説明によると、特技の発表とかポーズ審査なるものがあって、それを観客と審査員の皆々様方がポイントをつけてくれる。俺たちはそれに一喜一憂をすれば良いのだ。


 春川さんは、鍛え上げられた体でヨガの難しいポーズをやっている。聖者なんたっあらのポーズ! (聞き取れなかった)と大きな声を出したと思ったら、足を反対側の手で持ち上げそのまま倒れ、一本の手と足で体を支え出した。


 凄い。俺だったら何か身体の機能を三ヶ月くらい犠牲にしなければ出来なさそう……。

 

 ただまぁ、ヨガというのは盛り上がるとかじゃなくて、おぉ、スゴい! とか俺くらいの心の中ではスゴいと思っていても。リアクションをでっかく取る感じでも無いというか。例えるならば、ルーヴル美術館のモナ・リザを見て急に「スッゲー!」と大声を出して、「隣の人にほんとすごいですよね」と言われて、モナ・リザのイメージカラーペンライト(自分で考えてみても色の見当がつかない)を二人して振り回して、「LINE交換しましょうよ!」とかなるものではなくて、後方で腕を組んで観ている人が正解なような、なんかそんな感じ。


「6点、7点、6点、8点、観客の皆様の得点平均が7点! 合計は!」


 お姉さんが暗算する時間が少し経つ。


「……え〜、32点です!」


 厳しいな。アマチュア大会でこんなに厳しいことあるかマジか、そうか……。どんな鬼審査員たちがいるのか、さぞ鬼のような奴らがいるんだろうと思ったのだが……。

 

「詩織? 冬神社長?」


 簡易的に建てられた四つ脚のテントの中には見知った顔が四つ。二人は勿論見覚えどころか網膜にまで焼き付いている。もう二人も見覚えがある。どちらも芸能プロダクションの社長だ。


「では、審査員の皆様から講評をいただきます」


 割と真面目な、この大会こんだけすごい人達が出てるんだったらさ、結構大きな大会なんじゃないの? というか詩織はなんで俺に隠れて仕事受けてんの? オフはいいの? 


審査員の四人のうち二人が身内なんですけど……身内だなぁ……。これはあれか? 俺も初めて見る芸能界の裏取引か? 俺を優勝させようと?


 そう思っていた時代が私にもありました。古谷さんが、「私は優勝できません」とか言うもんだから、その理由って俺のこと? とか思ってた時代が。


「エントリーナンバー2番、西沢 涼さん!」


 自分の名前を呼ばれたので、勢いよく飛び出してみた。いつも元気に舞台へと駆け出していく詩織を見習った。いつもは舞台袖で腕を組んでいるだけなのだが、今回は自分が出る側。


「呼ばれて飛び出て西沢です!」


 本当に静か。オーケー、一スベリと。真夏のビーチに似合わない、冷たい風が吹く。というか、伝わってないな。あっ、冬神社長だけ笑ってる。さすが同世代!


「えーと、特技、特技やります!」


 学生時代、これで一世を風靡した特技!


「肩、自分で外せます」


 柔道をやっていた時に、うまく受け身を取れずに脱臼をしたことがあった。それ以来、自分で右肩を外せるようになった。肘を後ろに、肩を前に出すようにすると、ガコッと音が鳴り、腕に力が入らなくなる。


 あり得ないくらいスベってる。おかしいぞ。なんなら「きゃっ」って誰か言った。引いてんじゃみんな。結構面白いというか、結構笑ってくれる人もいたのに……。あー、なんか、痛々しいか……。女の人が、急に「肩外れるんです! すごいでしょ!」って言ってきたらどう思うだろう。逆に、ガタイの良い男が、なんか急に腕外したらちょっと面白いというか、安心感みたいなのがあるから笑えるけど……。


「さぁ……ありがとうございました! 得点審査に参りましょう!」


 しばらくの時間……。俺は外した肩を治しながら待つ。


「2点、3点、2点、2点、観客平均が3点。合計が12点! です!」


 今度はお姉さんが瞬時に暗算が終わる程の低い点数が出た。


 あの人達身内に容赦ない点数つけて! 詩織、笑うな! めっちゃ笑うな! 


 でも、意外と楽しかったし、少なくとも詩織を笑わせられたのならよしとしよう。


 次にポーズ審査がある。うん、そこでなんとか挽回しよう。

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