ナンバーワンって難しい
「ねぇマネージャー、あれ何かな?」
心の中ではニタリと、籠の中の鼠を見る科学者がいる。
「人だかりあるな、ええと……いや、読まない、あー、もうわかったわ」
「そうです。マネージャーをこの海に連れてきたのはこれが理由です。はい、じゃあ読んでください」
「水着グランプリ」
「そうだねー、水着グランプリだねー。どうなると思う?」
「参加させられます」
私は水着に付ける、エントリーナンバーが書かれたシールをマネージャーに渡した。
「とってよー、ナンバーワンを!」
戦いに迎うマネージャーの後ろ姿は、なんだか何かをやってくれそうな気がした。
エントリーナンバーが書かれたシールを受付に渡すと、更衣室へと案内された。
更衣室と言っても控室も兼ねたもので、何か楽屋を思い出す。中には六人くらいの人が居て……
ん?
あれって……
そりゃ、こんな大会に出るわけだからみんな綺麗だし、俺なんかとは釣り合わないレベルの人ばっかなんだけど、その中でも一際は目を惹く。澄んだブロンドと、日本人離れしたプロポーション、降谷マリアだ。売れっ子のグラビアモデルで、彼女が自撮り写真をSNSにあげていたころはうちの事務所もスカウトをしようとしていた。初動が遅れてダメだったけども……。
俺がジッと見ていると、降谷さんは寄ってきて俺の前に立ち俺の体を隅から隅まで触った後、俺にキスをしてきた。
あんまりにも滑らかに行われたもんだから、俺は何の抵抗もできなかった。ってのは嘘で、ちょっと役得かなって思いました!
ただ、この降谷さんの行動は業界では有名である。降谷さんはモデル業を本職とし、呼ばれればタレントとしてもテレビやイベントごとにも出る。
彼女は自分が認めた相手にはキスをするのだ。何か自分が純粋にいいと思ったものに対する敬意だそうだが、男女関係なくブチュブチュ行くので中々に危険な子だ。この前はメンズアイドルにキスをしかけてマネージャーに羽交締めされて止められていた。彼女の審美眼は誰もが認めていて、キスをした相手は必ず何らかの分野で成功を収めている。
「あっ、ごっ、ごめんなさい」
我に返ったように首をブンブンと揺らす降谷さんはチワワみたいで可愛い。
「あー、いえいえ、お気になさらないで」
「本当にごめんなさい。何年経ってもこの癖が治なくて、マネージャーにも何度注意されたかわからないくらい」
「降谷さんのマネージャーってたしか夢原さんですよね」
「え、業界の方なんですか?」
「まぁ、そんなもんです。藍澤詩織のマネージャーをやってるんですよ」
「えー、詩織ちゃんの? お世話になってます。あれ、詩織ちゃんのマネージャーさんって男性の方じゃなかったでしたっけ」
「いろいろあって」
説明するのもアレかと思ったので、何となくぼやかす。
「詩織ちゃん、そのマネージャーさんのことめちゃくちゃ好きだったのにー。担当外されちゃっんだー、可哀想。会ったらキスしてあげよ」
確信犯だろこの人!
「詩織とは仲いいんですか?」
「うーん、仲がいいというか私がグイグイとね。ファーストコミュニケーションはディープでしたよ!」
降谷さんは勢いよく親指を立てて来た。
グッじゃないわ。舌突っ込んでんじゃん。
「詩織に言われて今日はここに出ることになって」
「そうなんですか。仲が良いのですね。今日の私は盛り上げ役になりそうですが、精一杯やらせていただきます」
「ということは、出場者?」
「もちろん!」
詩織、無理だ。ナンバーワン無理。
降谷さんってスゴい人だよ? 雑誌のグラビアで賞取ってたよ? 最優秀ってついてた賞だったよ?
「と言っても、私は優勝できないですよ。ではまた」
含みを持った発言と、笑顔をこちらにして降谷さんはどこかへ消えた。
コンテストが始まるまでの時間、他の出場者にやってるトレーニングとかご飯とか聞かれだけど、トレーニングやってないし、ご飯とかもこだわり持ってない。なんならお酒に合うかどうかが薄ら判断基準に含まれてご飯を食べている俺にそんなことを聞かれても、とは思いながらもここはコンテストの場、相手に少しでも優位になろうとしてテレビで見たくらいの知識を披露してみたが、その三倍くらいの量のレスポンスが返ってきた。
詩織、ナンバーワン無
置いてあった弁当を食べようとしたら。「これから審査なのに食べるの? 本当に?」と関係者の人に注意されたり。出場者のアンケートとして、出るきっかけになったこととか、特技、自分が自身を持ってることを書いたりした。要はバラエティに出る時に書かされるやつだ。昔、六割くらいしか空欄を埋めてなかった詩織に注意したことがあったが、確かにこれずっと書くの嫌だね。就活思い出すね。泣きそう……。
詩織、ナ
体のアピールポイント。
全部本当に最近できた体なんだけど、赤ちゃんとほぼ同じなんだけど。
腹筋かなー、何となく。やっぱ鍛えてるし。
男の時の名残は最早腹筋くらいしか残っていない。ビール腹だの、社会人男一人暮らし太りりだのと言われないように腹筋だけはしていた。その努力が含まれているのだ、腹筋と書いてバチは当たるまい。降谷さんの腹筋を思い出す。
しお……。
遅くなってしまい申し訳ないです。ちょっとずつ更新をします。




