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神様と星の子  作者: 鈴成
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いのり



 道すがら木の実や果実を集めつつ、適宜休憩を挟んで私たちは森を進んでいた。実を取るそばからユンシーが神力で空中に浮かして運んでくれたおかげで私は手ぶらで歩けている。葉っぱか外套を袋の代わりに使おうかなと考えていたところだったからとても助かった。

 そして、日が暮れる前に集落付近へ辿り着くことができた。疲労はそれほどない。ユンシーが気遣ってくれたのと、人よりちょっと丈夫にできてるからかもしれない。道中でユンシーとの会話はほとんどなかったけど雰囲気は悪くはなかったと思う。

 いくら集落の人が干渉しないといっても今の状態では目立ちすぎる。なので集めた実は葉に包んで木の洞に隠しておく。一部の動物や虫が忌避する植物を一応周りに置いておいた。これで少しは食べられないといいけど。


「よし。準備できたよ、ユンシー」

「行こう」


 私が隣に並ぶのを待ってからユンシーは歩きだした。集落に向かう前と比べて歩く速さも完全に私に合わせてくれている。適応が早いなあ。私もそれくらい柔軟でありたいけど……。

 それから少し進むと、木々の密集がやや解消されたようなひらけた場所に出た。範囲はとても狭い。その狭小地に木の枝や葉、蔓などを使って作られたと思しき粗末な小屋が三軒建っていた。嵐が来たらひとたまりもないだろう。

 入り口で私は立ち止まった。集落の中心らしき場所にはユンシーの言った通りに人がいた。男性が三人に女性が二人。皆痩せていて襤褸を纏っている。そして誰一人こちらを向いてはいなかった。ぶつぶつと何かを呟きながら、それぞれ別の方向に向かって手を組んで跪いたり平伏したり蹲ったりしている。


「……みんな、何をしてるの?」


 声を震わせながら尋ねた私をユンシーは訝しげに見やった。


「分からないのか? 祈っているんだ」

「祈るって……何に」


 物分りの悪いふりをしたって無駄だと分かっている。私たちが祈る何かはただ一つしかない。でも私はそれを認めたくなかった。認めてしまったら、私は本当にひとりぼっちになってしまう。


「都市神にだ。それ以外に何がいる?」

「ずっと……ずっとこうなの?」

「そうだ。俺が以前に来たときも彼らはこうだった。一日のほとんどを都市神への祈りに捧げている。もう一度彼らの街へと戻れるように、あるいは生贄として選ばれて汚名を雪げるようにと」

「…………」


 私に似た人たちは一心に祈っている。自分たちをもう守ってはくれない都市神様に。離れても縛られ続けている。望んでいる。きっと、それが私たちにとっては正しいことなのだ。


「君たちは都市神がいなければ生きていけない。捨てられても縋る以外の道を選べない。人間はそういうものだろう?」


 ユンシーの声には僅かながら嘲るような……違う、諦念が混じっているように聞こえた。()()()()()()()()()()。私に問いかけながら同時に断言してもいる。ユンシーは人間に何の期待もしていない。そんな気がした。


「…………私は」

「君は違うか?」

「違うかは分からないけど……自分から逃げ出していながら都市神様に祈るなんて虫が良すぎるとは思うよ」


 私の場合はね、と言い足した。死にたくないからって都市神様に背を向けた私に祈る先はもうない。……いや、待てよ。隣に立つユンシーの横顔を盗み見る。

 ユンシー。出会ったときに都市神ではないと言ってはいたけれど。似たような存在だとも言っていた。神力だっていくつも使えるし、私には都市神様とどう違うのかよく分からない。だけどユンシーは都市神として扱われることを望んではいないだろう。こんな可能性を考えておいてなんだけれど、私もユンシーを都市神様にはしたくない。


「では君は何に祈る?」


 くすんだ黄緑の最奥でかすかな光が瞬いている。時には閃光が走ることも私は知っている。瞳に星空を宿しているんだと説明されたらきっとそのまま信じてしまう。このひとは人間とはかけ離れた生き物だ。


「……何だろう。星……とか?」

「星? あんなものに祈っても……いや、大差はないか」


 案の定冷め切った言葉が返ってくるものだから笑ってしまう。単なる思いつきだよと言い返そうと思ったけど止めた。だって結構いい考えかもしれない。

 ユンシーそのものじゃなくて、ユンシーの瞳の中にある星空に祈るのは。ひとりでも生きる勇気が、自分が生きるために他の人たち全てを犠牲にする覚悟が持てますようにって。これは祈りじゃなくてただ私の汚い感情の掃き溜めにしているだけか。やっぱりなしで。



◆◆◆



 集落の人たちと会話のできないまま、私たちは集落を後にした。

 色々と話しかけてみたんだけど見事に無視されてしまった。ユンシーに代わってもらっても無理だった。意地悪とかじゃなくて本気の本気で私たちの存在が認識されてなかったんだと思う。

 いつ祈りが終わるのかも分からないからと退散して、隠していた実を回収しに行く最中にユンシーが教えてくれた。曰く、以前に一人の男性とほんの少し話すことができたらしい。でも祈りなさいと繰り返し説かれるだけで得るものはなかったとか。長く滞在したらもっと交流できるのかもしれないけれど、そこまでしたくはない。

 それに共感してしまった私はいよいよだめなんだろうなあ。


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