聖乃
「きよのん、またフラれちゃった?」
「静佳ちゃんはまた……、そういうんじゃないってば」
有坂さんにすげなくされて自分の席に戻れば、友人の静佳ちゃんにそんな声をかけられる。
「懲りないねぇ……」
「でも、ああいう、ブレないところ? そういうところがなんか、いいな、って。それに、別に愛想が無くても、愛嬌が無いっていう感じでもないじゃない?」
「……まあ、あれで不思議と嫌われてはいないんだから、そうなのかもしれないけどさ。もしあれで男子には媚びてるとかなら、間違いなくハブられてるだろうし」
「でしょ?」
「まあ、男子にはむしろ、辛辣、まであるみたいだけど」
その話が事実かどうか知らないけれど、私も聞いたことはある。
曰く――告白してきた男子を「何で?」と「無理」の二言で斬り捨てた、らしい。
「かっこいいじゃん」
「そうかぁ?」
静佳ちゃんにそう言われても、やっぱり私は、かっこいい、と思う。
それは多分“憧れ”のような感情で、静佳ちゃんが度々茶化すような“好き”とは違う。
私という人間は、安全志向というか、事なかれ主義というか、周りにいい顔をしたいわけじゃないけれど、自分の意見を強く言えなかったり、頼まれごとをつい引き受けてしまったりと、内気、とまではいかなくても、気が弱いようなところがある。
そして、私は、そんな自分が好きじゃない。
自分のそんな性質を自覚するたび、小さな自己嫌悪を積み重ねる。そんなことを、きっと小さい頃からも無自覚に繰り返してきたのだろう、と思う。自分に自信が無いから弱気になって、また自己嫌悪。そんな、負のスパイラル。
だから、眩しい。憧れるほどに。
有坂さんの、容易に他人が踏み込むことを許さない、それはあるいはただの“頑なさ”なのかもしれないけれど、私のような人間から見れば、それは“強さ”だ。
私はそこへ踏み込もうとすることで、自分もその強さの一片でも手にすることができる、そんな幻想を追いかけているだけなのかもしれない。
「でも、あんまりしつこいと、男子じゃなくても『無理』ってなるかもね」
その静佳ちゃんの言葉は、聞き捨てならなかった。
「……いや、そんなことは……、いやいや……、大丈夫、……だよね?」
「いや、聞かれても。きよのん、動揺しすぎ」
「してませんよ?」
「ふふっ、否定早っ。……いや、ごめんて。冗談。そこまでキョドらんでも……」
「……聞いてくる」
「はっ?」
「聞いてくる」
「……ええ……」
立ち上がって、再び有坂さんの席へ向かう。……その時の私は、いつもの弱気なんてどこかに置き去りにして。ただ、漠然とした不安に追い立てられるように。
「有坂さん!」
「えっ……何?」
いざ目の前にして、一瞬不安はよぎったけど、私の強い口調に、さすがの有坂さんも少し驚いた様子を見せて、そんな姿に、変に強気がもたげてきて。
「無理かな?!」
「…………何が?」
「こういう、大した用も無いのに話しかけたりとか!」
「……いや、別に、無理ってことはないけど……」
「……よかったぁ……。ありがとう、有坂さん!」
「……はぁ、どうも……?」
席に戻りながら、その時心にあったのは、安心感だろうか、嬉しさだろうか。その時の自分の気持ちを、正確に言い表すのは難しいけれど。言うなら、とても心が、浮ついていた。
もしかしたら。
それってもしかしたら、静佳ちゃんのからかいも、全くの的外れじゃ、なかったりするのかも?
そんなことを、ちょっとだけ、思ったりした。