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トイレも着替えも女神につきまとわれます

 俺は、人間や生物などに興味がないのに、24時間ずっと女神につきまとわれるというわけのわからない罰ゲームをすることになった。もちろん、好き好んでゲームをしているわけではない。どんなことをしても女神が俺の前から消えてくれないのだ。


 俺が制服から部屋着に着替えるの時もまじまじ見られているし。下着は着たままだが、やはり見られているのは着替えづらい。でも、ここはあちらが目を覆うくらい堂々とするしかないな。


「こっち見るなよ。変態女神」

「ちょっとひどくない? 別にあんたみたいなイケてない男子の着替え見たくもないけど」


 無視だ。あーいうのに付きまとわれたらとんでもなく迷惑な話だからな。堂々と着替えながら横をチラ見すると、女神は窓の外を眺めているようだ。俺の勝ちだな。


 女神と名乗る女の目的や正体を暴かなければ、静かな俺の時間が訪れないだろう。でも、意外と女神は静かで、俺が漫画を集中して読んでいると話しかけてくることもなく、守護霊のようにいるだけだ。慣れてしまえば平気だろう。俺は、女神が目を離したすきにトイレに駆け込む。だって、見られたくないだろ。一応、いないかどうかを確認する。鍵も閉めている。俺が安心してズボンを下ろそうとしたら――女神がいる!!! 


「おい、でていけ!! トイレには入ってくるな!!」

「だめなの?」

 いたずらに微笑む。悪魔かもしれない。お祓いしたほうがいいのだろうか。

「早く好きになってもらわないと、《《私が困るんだから》》。早く好きになりなさいよね」

「わかったから、とりあえず出ていけ。むしろ俺はおまえが嫌いだ」

「ここで頭を使う問題を出してみたいけど、かなり切羽詰まっているみたいだからやめとくわ」

たしかに、俺はトイレに行くのを長時間我慢していたので、膀胱が破裂寸前な状態だ。正直今は、頭を使うような余裕はない。正常な判断もできない。


「内股になって前をおさえるラクも、なかなかかわいいよ。今回は私が勝ちね」


 そんな俺は、女神が出ていったのを確認して、急いで用を足す。こんなことまで気を遣う義理がなぜあるのだろう。だいたい、トイレに駆け込む寸前の情けない姿を見られるなんて、恥ずかしすぎるだろ。ここは、負けだ。生理現象には勝てないからな。俺は少々恥ずかしくなりながら負けを認めつつ部屋に戻る。女神は待ちわびていたようだった。飼い主を待つ飼い犬みたいな感じだろうか。でも、猫耳つけているから猫か。そんな突っ込みを心の中で入れてしまう。


「さっき出そうかと思った問題、トイレにまつわる問題を出すよ。本当はもっと我慢させて、屈辱顔のラクも見たかったけどね」

「屈辱顔のラクってドSかよ」

 俺は、女神をじっと睨む。


「トイレで見かける大きくなったり小さくなったりするものはなに?」

 俺は一瞬自分の下半身を見てしまう。変態女神が出しそうな問題の答えを推測する。しかし、こいつの誘導尋問に乗ったら負けだ。なにか、あるはずだ。俺は沈黙する。


「あれ? わからない?」

 にやける女神。

「わからないわけでもないけれど……」

 俺は沈黙する。

「もしかしていやらしいこと考えてない?」

「考えていない」

保健体育の領域だ。いやらしくない。

 俺はやはり沈黙する。逃げるが勝ちのような気がする。


「時間切れです。答えは水を流すレバーだよ、大と小があるでしょ。私の勝ちだね」

 ああ、そんなことだろうと思ったよ、なんて思いながら俺は胸をなでおろす。


「お風呂に入ってきたら?」

 女神が提案する。

「風呂場ものぞくなよ」

 俺は注意喚起する。

「ダメなの?」

 やっぱりからかっているな、悪質女神。

「俺の裸を見るんじゃない、そうでなければ変態女神と名付けるぞ」

 表情も変えず、女神は淡々と話す。

「裸は人間のありのままの姿なのに?」

「逆におまえだって自分の裸を誰かに見られたくないだろ?」

「私はかまわないけど」

 こいつ、確信犯だな。

「結構だ。もういい、静かにしていてくれ。というか俺の前から消えてくれ」

「一日一個しかねがいはかなえられないので、今日はおねがいはなしだよ」

「ねがいというより、当たり前の心の叫びだ。俺にプライベートな時間をくれ。今後一切、風呂とトイレ、着替えは見にくるな、わかったか?」

「わかったよ。仕方がないなぁ」

 こいつ、俺のことをもてあそんでいるだろ、絶対そうだ。


 この女は天然なのか? 計算しているのか? しかし、からかうことにおいてはかなり俺の経験値をはるかに上回っている。普段から人間と関わろうとしてこなかった空気だった俺には、コミュニケーションなんて最大の敵だ。


「じゃあ問題です。お風呂でよく見かけるもの。膨らんだりしぼんだりするものは?」


 俺は一瞬自分の下半身に目がいく。俺は下半身にしか目がいかない男だったのか。改めて自分自身のレベルの低さに落胆する。しかし、女神のことだ、きっと俺が困っている顔を見ることで、快感を味わっているに違いない。よーく考えろ。もっと何かあるはずだ。風呂にある者といえば、洗面器、シャワー、バスタブ、石鹸、シャンプー、コンディショナー……しかし、ふくらんだりするものってないよな。俺は一連の風呂での行動を考える。そうか、体を洗う時のあれだな。


「答えがわかったぞ。俺にかかればなんてことはない。体を洗うボディースポンジだろ、俺の勝ちだ」

 俺はクイズの王様になった如く偉そうな態度に変わる。

「簡単だったでしょ。でも、最初に自分の体を見ていた姿はなかなか年頃の男子っぽかったよ」


 勝ったのに、負けた気分。だめだ、女神と話しているとおかしくなる。

 そもそも、俺はなんでこいつと勝負しているんだよ。



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