【短編版】転生時に得た最強の「未来予知」スキルで全てを先読みし異世界のギャンブルを制します!俺の前では相手の行動が全て分かってしまいます
ーーー「WINNER!」
俺は長谷川京谷。カッチリとしたスーツに身を包み、ギャンブルをしていた。自分で言うのもなんだが、今世界一になった最強のギャンブラーだ。
今日ギャンブルの世界大会があり、俺はそこで優勝した。この世ので一番強い男ってことだ。
「優勝賞金は何に使われますか?」
司会役が満面の笑みでそう俺に問いかける。正直この言葉も聞き飽きた。
「そうですね。特に決まってないです」
俺はぶっきらぼうにいつもこう答える。なぜなら、もう使いきれないほどの大金をギャンブルで手に入れてしまったからだ。最初は嬉々として車を買うだの家を買うだの、ブランド物を買うだの私利私欲の為に使った。
だが金ってものは使いきれないほど手に入れると欲なんてものは消え失せるもんさ。
そう思いながら世界一になった余韻に浸ることもなく会場を後にした。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
日は落ちかけ、あたりがオレンジ色に染まってきた。
夕焼けの中、入り口でカメラやマイクを持ち出待ちしている記者共の目を掻いくぐりながらサッサと裏道へと逃げる。
「口をそろえて同じことを言うインタビューなんてお断りだぜ……」
毎度毎度悩まされるインタビューアーに愚痴をこぼしながら裏道を歩いていると、普段は見かけない道を見つけた。
「こんな所に裏道なんてあったっけな……」
そう思いながら好奇心旺盛な俺はこれもまたギャンブルだな……なんてしょうもないことでほくそ笑みながらその道を進んだ。
いくつ角を曲がっただろう。日も完全に落ち、明かりも少なくなってきた。世界一になった途端にいきなり勝負に負けたのか……? そう思っていると……
「ようこそ」
暗闇の奥から少し高い、人当たりの良いが聞こえた。
「誰だ」
「世界一達成おめでとう。この世のギャンブルはどうだい?」
「見ていたのか。あらかたのギャンブルは楽しんださ。これ以上面白いことは無さそうだがな」
おおよその年齢は20代後半って感じか。だが何かがおかしい。人間のようで人間でない、何かこう……そうだ。ゴブリンだ。小奇麗なゴブリンのような感じがする。しかし俺は彼が人間なのか本当にゴブリンなのか、断定できずにいた。
目が暗闇に慣れてきてうっすらと容姿が見えてきた。茶色いローブを頭からかぶり、顔は見えないが手足はかなり細い。ただ男ってことだけは分かる。
「そうかいそうかい。もし君の知らないギャンブルがまだあるとしたら、どうする?」
(なんだその質問は。俺は世界各国を渡り歩いてギャンブルしてきた男だぞ。まだ知らない事があるとしたら、アマゾンの奥深くで民族がやってる訳の分からん賭け事もどきくらいだ)
質問の意図が読めず、そう脳内で無駄な会話を繰り広げる俺だった。
「いいや、知らないギャンブルはもうないね。俺は20年以上賭け続けてきたんだ。知らないギャンブルがあるなら教えてほしいくらいだ」
そう。俺は3歳の頃から賭け事をしている。といっても最初は飴玉がどっちの手に入ってるか当てるくらいのかわいいもんだ。当たれば倍になる。それだけのルール。
幼稚園に上がる頃にはすっかりハマり、賭けをして同じ園児の弁当を根こそぎ奪ったもんだ。
「そうかいそうかい。私が見る限り、お前は地味で同じようなギャンブルしかやってきていないだろう。もっとド派手で命の危険があるような、スリルのあるギャンブルに興味はないかい?」
「ふ~ん、面白そうじゃん。どこにそんなものがあるんだ?」
「ノリがいいねぇ……じゃあ着いてくるといい。面白いことが体験できるかもしれないよ……」
そう言い残すと、ゴブリンのような男はこちらに背を向けコツコツと、ゆっくり奥へと歩き始めた。
(新しいギャンブルか……面白そうな話だ。賭けてみよう)
俺はそのまま男の後ろを少し距離を保ちつつ黙ってついていった。
「ここは?」
洞窟だろうか。この街にこんなところがあったことを俺は知らない。壺やら剣やらいろんなものが置いてある。銃刀法違反じゃないのか?そんな真面目なことを考えている場合ではないか。
「勇気がある奴が来る場所さ。この大会で優勝者が出るたびに声をかけている。着いてきたのはお前が二人目だよ」
(優勝者が出るたびにって、この大会は十年毎の開催だぞ!?一体何歳なんだこいつは…若く見えるが若くないのか……?)
相手の状態はギャンブルにおいて重要な判断材料だ。年齢を外してしまうなんて久々なことだった。
「そうか。それで、ここではどんなギャンブルが出来るっていうんだ?こんな狭い所じゃあテーブルギャンブル以外ないだろう。それともなんだ、そこの銃でロシアンルーレット的なものか?」
「まぁ焦りなさんな。よっこいしょ…これを出すのも久々だねぇ」
男は棚からどえらい分厚い本を取り出した。かなりホコリが積もっていて、できれば触りたくもない。それを真ん中の丸型テーブルの上に置き、とあるページを開いて何やら唱えだした。
「ブツブツ……」
何やら本に向かって独り言を喋っている。彼が独り言を話していくと、本が薄紫色に輝きだした。
ブォン……!
今度は黙り込んだかと思いきや、彼の後ろで魔法陣が展開され、洞窟の奥に真っ暗なゲートが開いた。奥に何があるのか確かめようと目を凝らすが、見れば見るほど吸い込まれそうな黒色しか見えなかった。
「もしお前が"命がけのギャンブル"を知りたいなら、この先に進むといい。だがこの扉に入ると死ぬかもしれないよ。どうする?」
男はニヤニヤとした顔でこちらの様子を伺っている。これがお前のいうギャンブルか?えらく子供だましだ。
「舐めてるのか?俺は世界一のギャンブラーだ。この程度の事で賭けに出られなくてどうする!」
「威勢がいいねぇ……じゃあ、その扉をくぐる前に、ここに二枚のカードを用意した。どちらか好きな方を引いてごらん」
そう言うと、男はポケットからカードを二枚取り出しテーブルの上に置いた。特に何の変哲もないカードだが、男の見た目に反してとてもきれいなカードだ。十年前と同じものかはわからないが、使われた形跡はない。
「ふむ……こっちだな」
俺は深くは迷わず右のカードを引いた。俺はカードギャンブルの時はいつも深く悩まない。感覚の向いた方を選ぶのがルーティンだった。
選んだカードにはドクロのマークが描かれていた。その様子を見た男は不敵な笑みを浮かべながら少し高めの声で嬉しそうにこう言った。
「死のマークだね。お前は向こうの世界で死ぬ、そう出てるよ」
「ふん、どうだか。」
「それでも進むというのなら、どうぞお好きに」
「構わないさ。俺はどこの世界でも一番になってやる」
こうして俺は怖気づくことなく扉へと歩を進めた。正直なことをいうと今、胸が高鳴っている。こんな気持ちは久々だ。決勝戦ですら味わえなかった。命をかけるってのはこんなにも胸が高鳴るのか。
いつものポーカーフェイスを崩し、少しニヤケ顔になりながらゲートに向かっていく。
ゲートに片足を突っ込んだあたりで男の方から声が聞こえた。
「フフ…行ってらっしゃい」
その言葉が最後まで聞こえることなく、俺の意識は途絶えた。
こうしてこの世から京谷という人物は消え去った。そして新たな世界、そうギャンブルが栄える異世界へと旅立ったのである。
ーーステータスをリセットしましたーー
扉をくぐっている途中、頭の中にそんな言葉が聞こえたような気がする
ここはどこだろうか。目が霞んでよく見えない。しかし周りに危険はなさそうなのでその場で待機することにした。
(たしか俺は洞窟で扉をくぐったはず……。なぜ俺はこんなに明るい所にいるんだ……)
目が慣れてきた俺は、目の前に広がる異様な光景に思わず声を漏らしてしまった。
「どうなってんだこりゃ……」
気持ちを整理し、ようやく自分の置かれている状況を受け入れられてきたところでまずは自分の周りに何があるかを調べることにした。
木の近くにあった小さな湖に近寄り、そこに自分の姿を映し出す。目にかからないくらいの黒髪で中肉中背のスラリとしたスタイル。服装はいつもと同じスーツを着ていた。顔はいつも通りそこそこイケメンだな、自称だけど。前の世界と同じ姿のようだ。
「人間のままでよかった〜。これでゴブリンなんかに転生してたらたまったもんじゃない」
変わらない自分の姿に安心しつつ、当たりを見渡せそうなところまで歩いてきた。見渡したところ、このあたりに敵性生物のようなものはいないらしい。
「向こうの方に街があるな……」
蜃気楼でモヤモヤとしているが、平原の奥の方にうっすらと人工物のようなものが見える。そこまで大きくはなさそうだが、立派なものだ。
俺はひとまずそこを目指すことにした。
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かなり歩いた。二時間は歩いただろうか。現世では専属の運転手を雇っているものだから、こんなに歩くのは久しぶりだ。足が悲鳴を上げていた。
「近くで見ると意外とデカイな……」
入口らしきところにたどり着くと、そこには見たことも無いような大きな門があった。そこまで大きくないと思っていたが、かなり大きな街だ。俺は疲れた体に鞭をうち、その建物を食い入るように眺めていた。
現世とかけはなれた建物の構造にうつつを抜かしていると……
「旅のもの、何か用か」
槍を持った甲冑の男がガシャガシャと音をたてて近づき、話しかけてきた。門番だろうか、ひとまずここは話を合わせておこう。焦っているところを悟られてはダメだな。ポーカーフェイス発動!
まぁ、俺は常時ポーカーフェイスなんだけどね。
「いやぁ疲れましたよ。ようやく目的地に着きました。中に入れて貰えませんか?」
「そりゃあご苦労さん。だがあまり見ない格好だなぁ…この街へは何しに?」
こりゃまずい。解答を間違えれば腰にある重そうな剣で首を持っていかれそうだ。甲冑男は少し警戒しているように見えた。
少し返答に迷っていると、街の外壁に最近貼られたのかそこそこ綺麗で大きなポスターが貼られているのが目に入った。
【ミラガライド王国:新たなチャレンジャー求む! ギャンブル闘技場トーナメント開催中!】
これだ。俺はそのポスターをマジマジと見つめずに横目で確認しつつ、門番の問いかけに返答した。
「ギャンブルをしに来たんですよ。ほら、ここの闘技場は有名でしょう?」
「……そうか、なら通れ」
男の警戒心が解けたのか、筋肉の緊張が和らいでいったような気がする。
助かった。そういえばあのゴブリン野郎、新しいギャンブルがどうとか言ってたな。ここはそういう世界なのか?
「闘技場に出るなら、気をつけろよ」
「あ、あぁ。お気遣いありがとう」
街に入ろうと門番の横を通りすぎたその時、門番がそう声をかけてくれた。
何に気をつければいいのかは今のところ不明だが、まぁまだ死にゃぁしないだろう。
ひとまず門を通ることに成功した俺は街の異様さに唾を飲むこととなる。
街中の至る所でギャンブルが行われているのだ。見た事のあるカード系や、端っこの方ではみすぼらしい格好の二人が殴り合いをさせられ、それを大勢の人が取り囲み金を投げあっている。
「すっげぇな……ここには法律ってもんはないのか?」
やりたい放題やっている街の様子や見たことのない生き物を見て驚いていると、後ろからドスの効いた低い声が聞こえた。
「よぉ、見ねえ格好だなぁ。お前も闘技場に参加しに来たのか?」
驚いた。とてつもない体格の大男がそこにはいた。現世なら間違いなく変質者で職務質問されていそうな格好だ。ワイルドとでも言っておこうか、ボディビル大会にでも出ようものなら間違いなく上位に残るだろう。
「あ、あぁそうだ。かなり外れの方から来た」
「おぉそうか。俺もさっき着いたばかりでよぉ、ちょっくら勝負といかねえか?」
大男は、こいつならカモれそうだなと言わんばかりの表情で俺に勝負を持ち掛けてきた。
(ほぉ?この俺に勝負を挑むか。いいだろう、格の違いってものをみせてやろう。)
「あぁいいぜ。何で勝負する」
「そうだなぁ……移動するのも面倒だ。立ちながらでもできる簡単なものがいいよなぁ。……そうだ、ここに1枚のコインがある。これでコイントスといこうじゃないか」
大男はその大きな手に似合わない小さな銀色のコインをチラリと見せてきた。片面には城の模様でもう片面には鳥のようなマークが描かれている。見たところ百円玉とかそういうものではないらしい。
しかし子供だましのようなギャンブルだな。コイントスなんて運でしかない。コインを掴む瞬間を見れば運の要素もある程度は排除できる。
「それでいい。何か賭けるか?金か?」
「見たところ金をもっているようには見えねぇが…よし、500ペリス賭けよう」
(ん?ペリス?さっきの銀色のコインの名前か)
「あぁ……そうだな……。一万円札じゃダメか?」
「なんだその紙切れは! ハハッ、面白い。あんまり見ねえ代物だからそれでいい。それじゃいくぞ!」
大男の剛腕が下から上に思い切り振り上げられる。
遥か高くに投げられたコインはマンションの三階くらいの高さまで上がり、クルクルと回転しながら落ちてきた。
コイントスのコツはコインを目で追わないことだ。追ってしまうと下で受け止めた時に目が状況の変化についていけず、表と裏がわからなくなる。
だから俺は大男の手を凝視する。ロックオンだ。
大男は落ちてきたコインを目にも止まらぬ早さでパシィン!と手の甲で受け止めた。
「さぁ、裏と表、どっちだ?」
(まずい。全く見えなかった。今の速さは人間か? プロボクサーより何倍も速いはやいジャブを打ちそうな手の動きだった。ていうかお前の体格でなんでそんな早く動けるんだ。大男といえばノロマが鉄板だろう!)
「……表だ」
大男の手がゆっくりの退けられ、銀色のコインが姿を現した。見えたマークは鳥だった。この世界の通貨の裏表は分からないが、わかっている振りをしておくことにした。
「残念だったなぁ!裏でしたぁ!その一万円札とやらは頂くぜえ!」
大男が大笑いしながら叫んだ。鳥のマークは裏だったようだ。
いきなりのギャンブルで負けた。しかしコイントスは運だから仕方がない。見た目に反して思ったよりもスピードがあったから見落としてしまっただけだと自分を納得させた。
「いやぁしっかし兄ちゃん運がないねぇ? もっかいやっとくか? ん?」
男は腹が立つ顔で俺を煽ってきた。ずいぶんと表情が豊かな大男だ。顔面の筋肉を自在に動かせるのだろうか。
しかしここまで煽られて引き下がる訳にもいかねえ。俺は運勝負でも負けたくないんだよ。
「もちろんだ。三回勝負にしよう」
「お、いいねえそうこなくっちゃ!」
再び大男の手の甲にコインがパシン! と受け止められると、裏表を聞いてきた。
全て表にかけるつもりだった俺は、そう発言しようとすると脳裏に一つの映像が飛び込んできた。
――「表だ」
――「……残念でしたぁ! 正解は裏! さ、三回戦といくぜ~」
(な、なんだったんだ今のは……)
俺が予想し、コインは再び鳥のマークで大男が高笑いする映像が見えた。俺の妄想だろうか、嫌な予感がした俺は表ではなく裏に賭けることにした。
「裏だ」
俺がそう言うと大男は眉間にしわを寄せ、ゆっくりとコインの上に被せていた手をどけた。
するとコインはさっきと同じ鳥の柄を見せていた。
「ふぅん……お前の勝ちの様だな」
つまらなそうに低く唸ると、大男は再びコインを宙に投げた。
再び選択の時になると、俺の脳裏に今度は城のマークのコイン、表が大男の手の甲にある様子が浮かんだ。
「表だ」
ゆっくり手をどけるとそこには城のマークのコインがあった。
「うおおおお! まじかよおおお! お前さては運気ばっかりあげてやがるな!?」
運気ばかり上げるという言葉の意味が理解できなかったが、俺は脳裏に浮かんだコインの絵柄の通りに賭けた。すると不思議なことに勝負に勝てた。
「くそ! つまんねぇ。お前の勝ちだよ、じゃあな」
大男は俺に背を向け、せかせかと走り去ってしまった。
「あれ、そういえばお金は……」
大男が賭けると言っていたペリスとやらは貰えずに、このギャンブルは終わってしまった。
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