第七話「復讐のガトリング」
文化祭の翌日、全校集会が行われた。
今までも生徒が死ぬ度に行われてきたことだ。私の記憶する限りでは三度目だ。テレビで報道されたことはない。式島学園は治外法権でマスコミも封じられていると公安機械科の群野さんがかつて言っていた。
だからこの学校の問題は、私達で解決しなければならない。
初めに老いた校長が挨拶をし、それから生徒会長素灰田ムツバが登壇した。彼女の六本の脚は遠くからでもよく目立つ。
「また一人、私達の友が旅立ってしまいました。蝶野ヨハネさんは生徒会の副会長も務めてくれていた人でした。彼は私から見ても随分個性的な人でしたが、善良でした。その尊い命が失われてしまったんです。永久に」
素灰田会長はいつもよりもやや声を張っていたがいつもの穏やかな感じだった。最初こそは。
「いえ、正確には奪われた、と言うべきでしょう。彼もまた犠牲になったのです。キカイ病の末期患者によって。しかし彼らもまた未来と人間性を奪われた犠牲者なのです」
だんだん弁に熱が入っていくのは、普段から会長と接している私にはわかった。
「彼らを死と破滅へと導き、この世に、この学園に、災厄を振りまく者がいます。私達はそれに屈してはなりません。絶対に。生徒会は決して屈しません。私達は生徒に仇名す者と戦い続けることでしょう! 平和をこの手に取り戻すために!」
素灰田会長は腕を振るう。いつものお淑やかな佇まいと打って変わって力強く。
「私達は逃げも隠れもしません。毅然としてあなた達に立ち向かいます。それが生徒会です。さぁかかってくるがいい人形遣い! お前などは恐るるに足りません! こそこそと逃げ回っているようだが、私は素灰田ムツバはここにいる! さぁ来るなら来い!」
明らかな挑発。会長も完全にキレている。私は彼女から目線を外して周囲を警戒する。すると校舎の四階の窓から何か光っているのが見えた。私は制服に付けた通信機のバッジに向かって叫ぶ。
「会長!」
「チエミ! 防御!」
「任せてください!」
素灰田会長の傍に控えていた花輪チエミが体からチェーンを展開する。と同時に銃声が鳴った。会長を狙った狙撃だ。その弾丸を編み込まれたチェーンが弾く。
そして私は狙撃位置を正確に特定し、敵の姿を琥珀色の機械の瞳で捉える。
ガンソードマンだ。ヨハネ先輩の仇!
私はあらん限りの弾丸を奴に向かって撃ちこんだ。回転するガトリング。その威力は窓どころか壁も破壊した。
生徒達は驚き戦慄き悲鳴を上げている。私の知ったことではない。撃てるだけガトリングを撃つ。しかし手ごたえは浅い。奴は移動して私の眼から隠れた。
生徒の群れを掻き分けて私は走る。地獄の底まで追ってやる。
「我藤!」
「花輪先輩、会長は」
「無事だ、お前も気を付けろ!」
通信でなく声が直接聞こえた。だがそれも遠くなって私は校舎に入る。階段を急ぎ駆け上る。普段激しい運動をしないのですぐに息が上がってしまうが構いやしない。
今は誰よりも早く奴のところへ。
そしてついに遭遇した時には、先客がいた。
ガンソードマンの首が床に転がっている。胴体の方を踏みつけて、我が相方が立っていた。
「次は首切るでって言うたやろ……なぁ我藤」
「村井君、やったの?」
「ああ。蝶野先輩の仇取ったで」
村井ムサシは刀じゃない右手の方でVサインをする。だがその時ガンソードマンの頭が不審な動きを見せた。不自然に向きを変え、頭部に生えた銃で村井を狙う。
彼が撃たれる前に、撃った。ガトリングを奴の頭に。そして完全に破壊してみせた。
「どうしたんや我藤」
「はぁ、はぁ、トドメを刺しておいた……」
「そうなんか」
危ないところだったのに村井は気付いていないようだった。
ともかく、まず一人。
先輩、見てますか? このガトリングの音が私の奏でるあなたへの鎮魂歌です。
私は浜辺を一人歩く。水平線の向こうで太陽が沈もうとして、空も海も赤く染め上げていた。さぁ行こう。ヨハネ先輩が教えてくれたとっておきの場所へ。
テトラポットの岬はミサイルによって破壊され無惨だ。でも面影は残っている。今の姿の方が私は好きかもしれないと思った。
海面から水飛沫を上げてまたミサイルが飛んでくる。それを今度はガトリングで撃ち抜いた。空中で爆発して一瞬第二の太陽になる。
それが消え去ると巨体が海の中から姿を現した。海蛇のような化物と化した見佐田イリオだ。
「女ァ! 俺とヨハネの場所をうろつくんじゃあない!」
「そうヨハネ先輩から聞いたけど、あんたが壊した」
「あいつが俺を裏切ったからだ! 俺と一緒に来てくれたらよかったのに」
「ヨハネ先輩は死んだ」
「当然の報いだ! あの方に逆らった!」
「私は人形遣いを許さない。報いを受けさせてやる」
「大口を、できるものか!」
イリオはミサイルハッチを開く。だが奴が撃ち尽くすより先に私が撃ち終わっていた。その醜く膨れ上がった体が爆散する。そして海の藻屑となって消えた。
夕焼けが血塗られているように見える。
「当然の報いだ」
私は復讐を完遂して波打ち際へ足を運んだ。寄せては返す波が私を絡めとる。塩気が少し気持ち悪い。私はヨハネ先輩のようにはなれないことを悟った。海なんて嫌いだ。
「バカヤロー!」
昔ドラマで聞いたようなことを叫んでみた。少しは気が晴れるかもしれないと思って。でも全然良くないな。馬鹿は私だ。
今になって、涙が出てくるんだもんな。
寮に帰るとサナが出迎えてくれた。
「おかえり、リンコちゃん」
「ただいまサナ」
「もういいの?」
「全部終わった」
「そう……」
すると彼女は抱き着いてきた。いつかのように。いつもの作り笑顔を取っ払ってさめざめと泣いている。
「ごめんね。泣きたいのはリンコちゃんの方だよね。でも私、リンコちゃんも遠いところへ行ってしまう夢を見たの。本当に怖かった。行かないでねリンコちゃん、お願いだから……」
「私はどこにも行かない。行けないの。だから必ず帰る」
今度は右腕のガトリングをサナの背中に撫でまわす。人形遣いをこの手で倒し、サナ達が安心できるようにする。
それがヨハネ先輩への手向けだとも思った。
私はやっと自分の気持ちがわかった。彼のことが好きだった。それはサナに対する気持ちと同じようなものだ。村井君や他の生徒会の人達にも感じているかもしれない。
だから私は戦い続ける。好きな人を守りたいから。
その週が終わって日曜がやってきた。しかし休日というのに私は素灰田会長に呼び出されてまた浜辺に来ていた。彼女が約束の場所に指定したのがここだったから仕方ないが、もう海はしばらく見たくない気分だった。
時間通り行くと白いワンピースを着た素灰田会長がいた。同性の目からしても可愛くて魅力ある。異形の下半身もまぁ好きな人は好きだろう。私も機械の脚は美しいと思う。
「呼び出してごめんね。どうしても学校の外で話したいことがあって」
こちらに気付いた会長がぺこりと頭を下げる。会長なんだからもっと横柄でもいいのだが物腰柔らかいのが彼女だった。そういうわけで私も気は悪くしない。
「何ですか? 仕事の話ですか?」
「色々かしら。我藤さんは海は好き?」
「好きじゃなくなりました」
「蝶野君は好きだった」
「本人から聞きました」
「やっぱり思い出すわよね……」
曇り空だから海も輝かずどんよりとして重たそうに見える。素灰田会長の六本の脚は波に触れようとせず砂浜に突き刺さっている。彼女は陸の人間ということだ。
「我藤さん、副会長にならない? そしてゆくゆくはあなたに生徒会長を継いでほしいと思っているわ」
「私には出来ません」
即答する。唐突にそんなことを言われてもはいと言えるわけがない。副会長も生徒会長も向いてない。本気で私に務まると思っているのだろうか、この人は。
「私では人はついてきませんよ。向いてません」
「私もそうだった」
会長のポニーテールが風に揺れる。秋の涼しい空気が私にも伝わる。会長は過去を懐かしむように言った。
「生徒会長になる前は狂犬素灰田なんて呼ばれてたっけ。あの頃の私はおおよそ抜身の刀みたいだった。でも必要に迫られたから今の私を身につけたの」
「だから私にもそうしろと?」
「無理強いするつもりなんてないわ。でもあなたに任せたいと思うの。あっ村井君にもお願いしてるんだけどね。彼も中々首を縦に振ってくれない」
会長は笑ってみせた。彼女も苦労しているようだ。しかしまだ私より村井ムサシの方が生徒会長には似合ってるような気がした。
「まぁあくまでお願いだから……頭の隅に置いていていいからね」
「……考えるだけですが」
きっぱり断っても断り切れない感じがあった。私も案外雰囲気にのまれるタイプなんだなと思えた。
それから素灰田会長は顔色を変えて、真剣な眼差しを向ける。一呼吸置いて、彼女は話題を変えた。
「それでもう一つ話しておきたいことがあるのだけど……学園内では盗聴される恐れがあったから……」
「なんです、一体」
「人形遣いの正体、なんだけど」
私は唾を飲んだ。人形遣いの名前を聞いて身構える。そういえば、前に奴が現れた時のアリバイを調べていると聞いたが、何かわかったんだろうか。
「あくまで疑惑だから話半分に聞いてほしいのだけど、私は井戸校長が怪しいと睨んでいるの」
「校長!?」
井戸マガト校長。全校集会で見たことがあるがあのやや太った老人が人形遣いとは到底結びつかない。でもよくよく考えると、校長なら全校生徒のことを把握しているし、普段は校長室に一人でいることになっているがその実何をやっているかわからないというのはある。
「注意深く見張っている。私達が探っていることは悟られないように、我藤さんも気を付けてほしい」
「わかりました、けど……」
もし校長が本当に人形遣いだったら? 私は……
「ハッキリしたら私に撃たせてください」
「ごめんなさい。それは出来ないわ」
「どうして!」
「私が始末するから」
素灰田会長の瞳が燃えていた。自分とは比べられないほどの怒りを感じた。私は理解する。この人はより多くの大切なものを失い続けてきたのだ。人形遣いによって。
「もし私に何かあったら、後は頼むわね、我藤さん」
生徒会長を継がないか、先ほど言っていたことの真意がわかった。彼女は心中する覚悟でいる。
そんな未来は見たくない。絶対に。
私は素灰田会長の前でガトリングを振り回してみせる。
「会長、私をもっと使ってくれませんか? お役に立てると思います」
「そうね、考えておくわ。それじゃあ戻りましょう。多々良さんを待たせちゃ悪いからね。私もチエミのところに行くから。あの子、すぐグズるから」
会長は困り眉をしながら私の横を通り過ぎて背中を見せる。
「あの、会長は花輪先輩と付き合い長いんですか?」
我ながらどうでもいい質問で呼び止めた。すると彼女は振り返って、
「私、女の子が好きなのよね」
とびっきりの笑顔を見せた。




