第七話 服屋
逃げ込むように目的の服屋についたカイリ。
その服屋はあまり広くはないものの、とても整然とされていた。
中を見渡すとデザインの良い冒険者用の服や、街の娘が着るような可愛らしい服などセンスのある服が売っている。
服以外にも綺麗なネックレスやポーチなどの雑貨や、傷薬や毒消薬などの冒険に使う最低限の物も売っていた。
そして、雑貨を手にとり整理をしているであろう店員らしき女性がカイリを凝視していた。
『い、いらっしゃいませ。』
その女性が少し困惑気味な小さな声で言った。
おそらく15.6歳ほどの黒髪をしばりとても活発そうな女性である。
汚い服装をした少年がいきなり店の中に突っ込んできたのだから当然である。
『どうもこんにちは、いきなりすいません。
服を買いに来たのですが、良いものありますか?』
カイリはその信頼を取り戻そうと話す。
カイリが心配すると店員が笑顔になってこちらに近づいてくる。
『かわいいわね僕!どんな服が欲しいのかな?』
カイリは顔を思い切り近づけられて言われたので少し照れる。そして、変な人だと思われなくて安心する。
『これみたいに動きやすい服が欲しいです。』
自分の服を指差す。
カイリのような兵士や平民に近い服は本来なら貴族が着るようなものでは無いが、例によって父には何も言われないので自由に着ていた。
『わかったわ!もしかしたら初等学校の受験生?』
カイリはうなずく。
『やっぱり、そうだと思ったのよ!私も昔、通ってたのよ!』
『そうなんですか。大変でしたか?』
『大変だったよ。なんとか卒業した感じかな。』
店員が昔を思い出すように呟く。
カイリは魔法学校では、実戦などもあり、辞めるものが一年に何人もいるほど過酷だと兄から聞いた。そんな学校を卒業したこの店員さんに尊敬の意を持つ。
『だから、冒険者とかやらずにお母さんの店を手伝っているの。いつかはこの店を継ぎたいな。』
魔法や剣術を育てる初等学校であるが卒業生の進路は冒険者や兵士に限らず多岐に渡る。
実際に、カイリの兄や姉は冒険者や兵士にはほとんどなっていない。
『なれますよ!店員さんなら!』
その後、店員と話が弾みしばらく時間が経った。
『そうだ、服を買いに来たのよね!ちょっと待ってて。』
『あっ、そうでしたね。』
カイリも店員も話に夢中になり、すっかり忘れていたようだ。
すると、何故か店の奥に行った店員。
戻ってきた手には10着ほど服があった。
黒くトゲトゲした服やピンク色なのにゴツゴツな服、逆にスカスカな服などなど。
カイリはセンスがないと第一に思う。
『気に入ったものある?』
カイリはこの服の中から選ぶのかと体が固まる。
すると、端にある1着の服に目が止まる。
『これはどんな服ですか?』
『その服は伸縮性のある布に魔物の皮を使って耐久性を上げたものよ。地味で可愛くないんだけど…』
デザイン性は白と茶色を基調とした地味なものであるがさすが元初等学校の生徒とあって実用的なものである。
カイリは着てみるとなおのことそれを実感する。
思わぬ掘り出し物、そう感じた。
『あんまり可愛くないんだけど、こっち服なんてどうかな?』
そんな服よりもとグイグイ押し付けながら言う。
『これ、これにします!』
カイリは気に入った服を手にとりそれを遠ざける。
『確かに、受験するならその服がいいかも。』
『はい、とても気に入りました!』
カイリは精一杯の笑顔で言う。
『本当?良かったー!実はこれ私が作ったものなのよ。でも地味で人気が出なさそうというか…。』
店員は、服を指しながら悲哀な表情をする。
『そ、そうなんですか。これとてもいい服ですよ。』
まずい、悲しそうな顔をしている。
それをカイリは店員を必死に励ます。
『そう!?そう言ってくれて嬉しい!それ初めて売れたの!お母さんには私の作った服は並べるなって言われるし。』
店員はこれ以上ない笑顔を見せる。
しかし、店員の服を並ばせないのそれは当然である。一般の感覚からすればそれらの服は明らかにズレていると言わざるを得ないからだ、
それも、オシャレに疎い7歳児にまでセンスがないと思わさるレベルで。
しかし、カイリの選んだ服はデザインはこの服屋からしたらかなり地味な方だが、機能的にはとても高い。
しかし、カイリはある心配をする。
『お値段はおいくらですか?』
いくら良いものでも高ければ買えないのだから。
『5銭貨で良いわよ!はじめてのお客さんだし。』
店員はカイリを見てニコリと笑う。
『そんなに安くていいんですか?』
このレベルの服は通常50銭貨以上はする。そんな良いものを本当に5銭貨で良いのかと申し訳ない気持ちすらカイリからは出てくる。
『うんうん、良いの良いの。』
カイリに親指を上げてグッとマークを作る。
『ありがとうございます!』
カイリは心の中から大いに感謝した。
『傷薬も付けるから。受験がんばってね!』
そう言いながら店員はカイリに傷薬を手渡す。
『ありがとうございます!』
店員さんに手を振られ、見送られながら店を出る。
『良いものも買えたし、いざ受験会場へ!』
カイリは、力強く向かった。