第六話 アスガマ郡到着。
人口30万人この国の群の中でも、かなりの発展を遂げている。
アスガマ郡の郡守は元々貴族を相手に商売をしていた商人で、その人脈の広さで郡守になった。
通商の都市と知られており、商売人であれば誰でも入れる。そのため、他の郡からひっきりなしに色んな人や物が入ってくる。
事実、カイリは通商人として通るためにモンスターの素材を見せ、なんなく門を突破した。
ここはかつて兄のコウキに連れられて来たことがあった。そのため、ある程度なら街を知っている。
『やっぱり、すごい人だな。』
カイリのテンションが上がる。
街の中はかなり賑わいを見せていた。
この街には3つのブロックがある。1番大きいのは商売をするものや冒険者が集まるサーマルブロック。
次に大きいのはこの国を支えるセーサンブロック。
そして、その2つのブロックからやや離れ政治をするエストブロックがある。
そしてここはサーマルブロック。
杖や剣を持った冒険者や大きな積荷を引いた馬車など、いろいろなものが目に入る。
道を真ん中にし両端には各国の珍しいものが揃っている露店や雰囲気のある建物が軒を連ねる。
夜になると露店は終わり、一気に冒険者憩いの、飲み屋街となる。
カイリは露店に目を向けると、伝説上の竜の牙で作ったペンダントもある。そして、片方にしか刃がない異国の刀などなど。
どれも目移りするものばかりである。
そして、今日、この街に来た理由は初等学校を受験ふるためである。
初等学校とは、剣術や魔法の基礎の基礎を教える学校で、基本的には冒険者や兵士になる少年少女が行く学校なのだが、カイリには別の目的がある。帰る家が無いカイリだが初等学校には寮があるため、衣食住には困らないのだ。
『早速行ってみるか。確か、サーマルブロックとエストブロックの間にあったな。』
カイリは呟く。
『あ、でも。』
しかし、カイリには先にやることが見つかった。
それは服の新調。
カイリは半袖の白い布製のシャツにタイトな長ズボンを切ったものを着ていた。
しかし、この三日間、着替えられないまま魔物と戦ったためかなり汚れてしまっていた。
『お気に入りだったのになー。次は何買おう。』
ちなみにカイリの服のこだわりは動きやすいことだけである。
『服買う前にお金が必要だ。』
無一文で飛び出したてきてしまったカイリには1番必要なものである。
この素材で大丈夫だろうか。
袋の中に入った素材を見てカイリが呟く。
カイリは頭の中で計算をする。
小さい頃から生活に必要なものは一通り叩き込まれたのでここらへんは抜かりない。
『買う服を選ばなければとりあえずは足りる額となりそうだ。』
カイリは周りを見渡し、素材屋をさがす。
『あったあった。』
道の隅に立つ素材屋を見つける。
屋根や壁には雑な補修を施された小屋。
素材を扱うにはあまりにも粗末なものである。
中に入る。入ってもその雰囲気は変わらず雑多な部屋の真ん中にあるカウンターに1人の男がいた。
歯並びが悪く、小太りで髪がボサボサ。高そうな服は着ているのだが、いかんせん組み合わせが悪い。
その風貌はふと見かけただけでは不審者と見紛う姿であった。
『どうしたんだい、坊やここは君のような子供が来るところではないよ。』
素材屋の主人はカイリを明らかに鬱陶しがりながら言う。
『おじさん、素材買って欲しいんだけど。』
『素材?』
カイリは手に持った背丈の半分ほどある布袋から大量の素材を置く。
それを見たオヤジは明らかに商売人の顔になる。
『ちょっとそれ見せてくれるかい?』
そう言いながら手に取る。
牙の先から根元まで、角の保存具合など、事細かに見ている。古くても3日前のもの状態はかなり良いはずである。
『いいね、これ全部で銭貨35枚でどうだい?』
安い、安すぎる、カイリはこのオヤジを見つめる。
銭貨とはこの国にある通貨の最低額で、大体5枚で一食のご飯が食べられるといった感じである。
そして、この男の提示したのは35枚だった。しかし、カイリの見立てではそれの5倍以上はつく。
『おじさん、安くないかな?』
それを聞くとしたり顔になるオヤジ。
こちらを無知と踏んだのだろう。
『ごめんね。でもそんなにしないんだよ。』
このオヤジは多分一歩も譲らないであろう。
本来ならば徹底的に突き詰めたいところであるが、
『それは自分で取った素材でとても、保存状態はいいと思います。なので、150銭貨なら売ります。それ以下では売りません。』
そういう時はこれが効く。素材屋の店主は頑固なことが多いため、なかなか適正価格で売れない。
そのため、適正価格よりも少し低い値段で言えば、売れる確率も上がるし、こちらもそこまで損をしないで済む。
カイリは、譲歩をしつつも少しでも勝ちを狙いに行った。
『わかったよ。坊や交渉が上手だ。』
安く買えたオヤジが上機嫌になり、3銭貨おまけしてくれた。
『おじさん、服を安く買える店を知らない?
ボロボロになってちゃって…』
『それなら、テラバスってところがいいと思うよ。あそこの服屋は動きやすいと評判だし、子供の服も置いてあるよ。この店を出て左に曲がって、二本目の路地を曲がって抜けた先にあるよ。』
上機嫌の店主のこの言葉はとても信頼できる。
『ありがとう、おじさんまたくるね。』
しかし、カイリにとってはそれでも損である。
このやろう、次は勝つ。カイリは強く心に誓った。
そのまま店を出て、服屋に向かう。
二本目の路地、路地と。
ん?あれは。
カイリはあることに目に止まる。
怪しげな露店のところでカイリと年が同じくらいの髪が金色の少女が明らかにうさんくさいネックレスをうさんくさいおじさんから法外な値段で買おうとしていたからだ。
商売の邪魔をするのはあれだが、ここは見過ごせない。
カイリは店に向かう。
『お姉ちゃん、そのネックレスそんな値段で買うの?他のお店だったらもっと安く買えるよ。』
オブラートに包むことも考えたが、カイリは伝わらないことも考え、普通に言うことにした。
『そうなの?』
少女は振り返った、透き通るほど白い肌に映える金色の髪。どこか人間とは違うような神秘的な雰囲気を持つ女の子だ。
『商売の邪魔をしようってのかい?それは最高級の品質だ。何を証拠にそんなことを言っている。』
男は怒りを抑えつつも冷静に問う。
『ネックレスってよりもおじさんが胡散臭いと思って。』
煽るように言うカイリ。
怒りを誘ってこちらに手を出してきたところを反撃する算段だ。
『こんのガキ!!』
明らかに怒りを抑えられなくなった男がカイリに殴りかかる。
子供だと思って単純に真っ直ぐかかって来た。
こっちは鍛えてるんだ!躱して一発入れてやる。
カイリは身構える。
しかし、その刹那、少女が男とカイリの間に入り男を触れずして吹っ飛ばした。
飛ばされた店主が露店に吹っ飛ばされたため、粉々に砕け、その男は、気を失った。
すげーなんだあれ。魔法か。
突風でも吹いたのかと思うほどの強い魔法。
この少女は一体何者なのだろう。
吹っ飛ばされた店主にはめもくれずカイリの興味はそちらに移っていた。
周りに野次馬が集まって来た。
グズグスしていると冒険者が来て疑われて巻き込まれてしまう。
早く少女と逃げなければ、っていない!?
先程まで立っていた位置を見ても周りを見渡しても先程の少女は居なかった。
ヤバイ、逃げられた。
このままでは自分がやったと兵士に突き出されてしまう。身分がないため、疑われるのは明白であった。
カイリは見つかる前に路地を通り、目的の服屋まで駆け込んだ。