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チート級の魔力量で最強目指します。  作者: シャルシャレード
33/36

第三十三話 そして

 ーーー雨が降りしきる。

 大地を叩き、はじける。

 この地方では、強い雨が降りつけるということは、それほど多くはない。

 そのため、雨が降った時は恵みの雨だと民衆は喜び、感謝をする。

 

 しかし、今降っているこの雨は、恐らく、シャクサスドーラのメンバーにとって、これからの未来を左右するであろう出来事を、まるで、嘲笑っているかのようであった。

 

 冷たい雨が4人の体温を奪う。

 しかし、4人はその雨に気づいていないのか、それとも気づいた上なのか全く反応を示さなかった。


 いや、4人と言うには語弊がある。

 ただ一人、ジョンだけは、今にも震えそうになっていた。決して寒いからでは無いという事だけは確かだった。恐怖か、あるいは焦燥か…。

 

 ジョンは幾度となく、人間に魔物に幾多の殺意を向けられていた。


 村を襲った時も、戦った時も、人を殺した時も。

 数々の場面でまじまじと感じていた。

 慣れていると言うには語弊があるが、ジョンは少なからず耐性を持ち、さらにそれに対して恐れる、ということはなかった。

 

 格上に殺意を向けられた時でも、隙を見せてたらそこにつけ込まれる。

 それ故、恐怖を見せないのは大事なのだが、特に、ジョンの性格だ。それすらも楽しんでいた節がある。


 しかし、

 『殺すぞ』

 ワカナのたった一言にジョンは戦慄した。

 

 今まで浴びてきたものとは訳が違う、この世のものとは思えない恐怖感が、威圧感が、あらゆるプレッシャーをジョンへと与えた。

 

 そして、今まで感じ来た殺意が全てただの"偽物"だったことに気づいた。

 "本物の死"それをジョンはまじまじと感じていた。


 『貴方に、その言葉は似合いませんよ。』

 ジョンは取り繕うように発する。

 このままでは、戦う、戦わない以前に上に立たれている。これは、戦闘面にしても、情報面にしても、総合的な死を表している。

 

 心中冷静ではなかったものの、本能的に口を開いた。あのままの沈黙では間違いなく殺されると感じたのだ。


 その一言に効果があったかは分からないが、

 『なぜ、こんなことをした。』

 ワカナはジョンに質問をした。

 冷徹に、威圧的に。

 

 嘘偽りを吐けば即、命を落とすであろうその雰囲気に、ジョンはいつ以来か、あるいは初めてかの背筋が凍る思いをした。


 『なぜか、ですか。世界を救うためですよ。醜い人間から世界を解放するための下準備です。団長のことを知っている貴方なら理解できると思いますけど?』

 ジョンのこの言葉に偽りは無かった。

 全て真実である。


 『そして、貴方がいればこの計画も完成する。』

 ジョンが僅かに高揚を見せる。


 そして、それを見届けたワカナは、ふと空を見上げる。

 表情は、凪のような水面に船を浮かべたようであり。その心中は計り知れない。

 

 その時、木の根元で、気を失っているキャサの肩を抱きながら、ダリスクが決意したような顔を向ける。

 『救うだと…?お前のやっていることは救いじゃない…!人の幸せを平気で踏み躙ることで得られる救いなんて…。』

 ダリスクは、声を力を振り絞り、血の塊を吐きながら、声を上げる。


 『お前のやっていることはただの自満足だ!』

 ダリスクは力の限り叫び、全霊で呼吸をする。

 

 それを聞いてワカナがフッと笑う。

 『もう、良い喋るな、ここで死なれちゃ困る。』

 先程の表情とは、打って変わって穏やかな表情をダリスクに向けていた。


 そして、ジョンの方へと向く。

 表情は、そのままであったが、ジョンの全身に力がこもる。

 『まぁ、そういうことだジョン。貴様のくだらんもののために、くれてやるものは何もない。お前は、道端の雑草のように這いつくばってたらどうだ。そっちの方がお似合いだ。』

 ワカナはさらに続ける。


 『その下らない救いのために、私とキャサとダリスクを殺そうとしたのか。ベンベッタと団長はどこにいる。』

 ワカナが問う。

 

 『そう、ですか…。ですが、あの2人なら無事です。世界平和のために団長とベンベッタ"では"無くなりますが。』

 ジョンが答える。揺さぶりをかけるようにだ。

 そして、さらに続ける。


 『もしよろしかったら、貴方達の力を貸しては頂けませんか?そうすれば、計画が10年以上早く終わる。』

 ジョンが"計画"を口にする。

 果たして、どのような計画なのか、何を目的とするのか。それがワカナが把握したのかはわからない。

 

 ワカナの表情から光が消える。しかし、余裕な態度を全く崩さなかった。

 『そうか、私の力が欲しいのか。じゃあ…』

 それを言った後、ワカナが数秒の沈黙を作り出す。

 返答を考えているのか、次の行動を考えているのは分からない。

 そんな時間がジョンには、永遠のように長く長く感じた。


 『…賭けをしないか?』

 ワカナが提案をする。


 『賭け…ですか?』

 ジョンには、予想外の言葉だった。

 そして、わずかに生まれた希望を感じ取った。

 内容などどうでもいい、ただ縋るものが欲しかった。


 ワカナは、表情を崩さない。

 『お前が倒れたら、団長とベンベッタは返してもらう。体を引きずってでも、ここに連れてこい。もし、万が一私を倒せたら、くれてやるよ。お前の欲しいであろう物を。』

 ワカナの周りは、氷のように冷たくなるようであった。目の光が消え、ジョンをただただ見据える。

 その感情をあえて言葉で表すのであれば、軽蔑。

 これの他には見当たらない。


 そして、ジョンはその言葉を受け取り、考えていた。

 この場から逃げるか、対抗をするか。

 ワカナの賭けの内容は最初から何となくわかっていた。そして、それを口にされることは、戦わずに逃げられても、殺せるという自信があると言うこと。つまり、実質的に逃げる、と言う選択肢は消え去った。

 ジョンは先刻の威圧感…いや、最初からワカナに対して勝ち目はないと考えていた。

 

 ここは、もう一つしかない。

 ジョンは、戦う選択を頭の中でした。

 しかし、単に答えるだけではダメだ。

 準備をしなくては。

 ジョンは、魔法を練る。


 ジョンはこの間に、幾多の手段を考えた。

 常人であればパンクするであろうが、ジョンは考えに考えた。


 その刹那、ジョンは地面に叩きつけられた、痛みと衝撃が走り、脳を思考から現実世界へと引き戻す。

 答えに行き着くことのない、ジョンに苦悶の表情が浮かぶ。

 

 『下らないことはするな。お前の考えくらい、体の反応を見ただけでわかる。』

 ワカナはジョンを押さえつけていた。

 

 今の刹那にも満たない時間の間に、押さえ付けられていた。

 ジョンが気づいた時にはもう地面に伏せられていたのだ。

 歴戦の猛者であるジョンが気づく間も無く、地面に押さえ付けられる。

 あり得ないであろう事態が起こっていた。

 

 しかし、そんなことは問題でなかった。

 それはジョンにとっては信じ難い言葉だったからである。

 ジョンは、次の行動のために体の中で魔力を龍に形変える準備をしていた。

 本来であれば、この行動は思考を読み取るか魔法の流れを見ることができる魔法を持つ者しか見透かさないものであるとジョンは考えていたし、それが常識であるとも思っていた。

 しかし、今ワカナは、体の反応を見て、企みを見透かしたと言っていた。

 これは、ジョンにとっての常識を打ち壊すと同時に、ワカナに対して恐怖と安堵を感じるようになった。


 なるほど、これは無理だ。

 

 ジョンは直情的にそう感じた。

 エピタルギルティーには並みの騎士団員であれば難なく対処することができるメンバーが多数いる。何より、ジョン自身は団長格を倒せる自信もあった。  

 慢心から来る自信ではなく、確信からくる自信だ。

 

 しかし、今は違う。

 反射的に、全滅を覚悟した。

 戦力的には勝てるかもしれない。

 そんな見込みの甘さをジョン自身が嘲笑った。


 『貴方には勝てない、、、。』

 ジョンは観念するように言葉を吐いた。

 ただただ本能的に負けを感じた。

 ジョンにとって屈辱以外の何物でも無かった。

 文字通りの"敗北"をひしひしと感じていた。


 しかし、ワカナにとっても想定外のことが起きてきた。

 『……お前誰だ。…単純な力比べならジョンの方が上だったはず。』

 ワカナは、問いかける。

 抑えられた刹那に、脱出を試み、力を入れたジョンだが、ワカナは簡単に抑えつけた。

 元来、人間とは男の方が力が強いものだ。

 そして、超人的な強さを誇るワカナであるが、その例に漏れず、力だけで見ればジョンの方が上であり、このように簡単に押さえ付けるというのはかなり難しいものであった。

 ましてや、体ほどあるハンマーを普段から容易く振り回していた力自慢のジョンであるから尚更であった。


 ただ、歴然とした事実として、いとも簡単に抑えつけている。

 それは、ワカナにとって最大の疑問として突き刺さったのだ。


 『能力は、戦いの最後まで隠し通すもの、これは戦いにおいて、大切なことだと"騎士学校"で習いましたが??』

 ジョンは惚けるように言い放つ。

ジョンのここまでの行動は考えていたものではなかった。ただ、少しでも生きるため、情報を得るため本能で行っていることである。

 しかし、それがここまでジョンを無事にさせていた。

 

 『間違いない。』

 騎士から外れた外道が騎士を語ったジョンの言葉に、ワカナの表情が僅かに崩れる。


 そして、手に持った刀をジョンに突き刺した。

 しかし、それはワカナに悪い予感をもたらした。

 ジョンの行動が時間稼ぎのような動きであったために、これ以上引き伸ばされると、あの2人の危険度が上がってしまうのではないかと。

 結果的に、ジョンの本能の目的である少しでも生きることに達成をさせることの一因となった。


 『この刀に下衆の血は吸わせたくないんだがな…。しょうがない。背に腹は変えられない!』

 本来仲間であったジョンに一切躊躇わずに行った。

 これは、もうジョンを完全な敵としてみなしていた。

 

 『バカが…ぐぁ!』

 ジョンも抵抗を見せるが、ワカナはさらに剣を深く突き刺す。

 冷酷に冷淡に。

 ワカナの心の中には目の前のものが、ただの肉片としか捉えていなかった。


 『これは、命令だ。早く話せ。今は、この時間すら惜しい。』

 肉を調理するように何も考えずただただ淡々と。


 こいつ…一度も俺のことなど見てこない。

 ワカナは、もはやジョンを目に入れるに値しないものとしか認識をしていなかった。


 ジョンは、生きること、争うことへ全神経を集中させる。

 『私を殺せば、あの村は全滅ですよ?』

 ジョンは、脅すように呟く。

 これは、嘘でもなければ、不可能なことではない。

 ワカナは、人の"生"に対しては何故か固執とまでは行かないが注視している。

 

 ジョンはそれに漬け込もうと発した。

 これは、ハッタリではなかった。

 ジョン自身が何かしら殺す手段を持っていたのだった。

 そして、それはワカナにも、伝わっていた。


 しかし、ジョンの希望が打ち砕かれるように相変わらずワカナに動きがない。

 『私がいて、村が全滅させられると思っているのか?脅しで言ったのだろうが、それは悪手だ。』

 ワカナも嘘偽りなく返す。

 もし、村に危険が及んでも、それを排除する自信とそれを裏付ける強さがあった。



 『そう、ですか。』

 ジョンはそれを聞き、万策を尽きたかのようにため息を吐く。

 この体は間違いなく死ぬ。

 そして、俺の計画を邪魔する。

 

 ジョンに諦めの心が芽生え始めていた。

 しかし、人間とは不思議なものである。

 直感的な敗北と同時に反抗心も芽生えてきた。

 圧倒的な戦力の前に生存本能と簡単に片付けるにはあまりにも傲慢で強欲な考えだ。


 このままでいいのか?

 先程まで本能で負けを感じていたように。

 本能で対抗するべきであると考えた。

 


 "これ"はくれてやる!!


 

『では、最後にお話しさせてもらいましょうか?』


 バッ!


 ジョンは、体を捩り、ワカナの顔面目掛けて蹴りを入れる。


 ワカナが、それを躱す動作を入れると同時に、左手を地面に付き、回し蹴りのような体勢を取る。


 『おぉっ!!!』

 ジョンは力一杯、全身に力を入れ、ワカナを弾き飛ばそうとする。


 ワカナはそれに対抗することなく、ヒラリと飛び上がり、思惑に乗るようにして距離を取る。


 『油断したな、剣速!!!』

 ジョンがそう言いながら、体の"内"に溜めた魔力を魂と結びつける。

 その刹那、


 『…!!!』

 ワカナの刀が脇腹に突き刺さる。

 内臓を貫いているであろうその位置は、ジョンにとっては完全に急所となる部分であった。


 『…お見事です…。…全く見えなかった。』

 ジョンは賞賛の言葉を贈る。

 目で追えな抜刀。予備動作のない攻撃、刹那の如き疾風。どれをとっても、今まで戦ってきた者の中で一線を画す速さであった。

 一瞬にも満たない時間でこの攻撃を成し遂げた。

 速剣を遺憾なく発揮した攻撃である。


 しかし、ワカナの表情は一向に晴れない。

 『今のでお前を723回は斬った。だけどまぁ、無駄だったようだな。どうやらお前の勝ちのようだ。今になって魔法を使えない自分が憎いよ。』

 腹を貫き、トドメを刺し、勝ったように見えたワカナであったがその表情はわずかに曇っていた。


 ジョンは、先程練っていた龍を不完全ながらに放出するために、体の一部を毒と化し媒体とした。

 

 『まさか、お前が本体の魔力量を使った分身だとはな。どおりで死なないはずだ。』

 本来、分身とはあくまで、本体の補助的な側面が強かった。つまり、分身はあくまで分身であって、本体に成り代わるということは考え難いものである。

 しかし、ジョンのそれは間違いなく、本体並みの強さを誇っていた。

 一突きしてしまえば消える分身が、死ななかった。


 『ご名答です。私は刺したところで殺せません。貴方じゃ、死なせられないんですよ。』

 ジョンは紫色の龍と化した姿で説明をする。

 

 ワカナは、じっと龍を見据え、

 『それでも魔法を使うってことは、時間制限付きなのだろう。時間内に本体に戻らなければ、その力は喪失する。そして、失われた力は元には戻らない。苦肉の策ってやつだろ?』


 ジョンはワカナの考察に答えを返すことはなかった。


 『今、私ができる全力の魔法だ!死ねぇ!』

 ジョンは振り切っていた。

 自身の強さを過信したわけでは無い。

 自分は強いと言う確信からくる自信だ。


 『ポイズン・ドラゴン!』

 ジョンの頭上に巨大な竜が現れる。

 木を枯らし、森を枯らす。

 触れたもの全てを即座に飲み込む、ジョンの奥義である。


 『あれは、あれはまずい…』

 ダリスクが呟く。

 触れたら死ぬ、そうダリスクは直感した。


 『助けないと。』

 ダリスクは傷だらけの体に鞭を打つ。

 

 しかし、動かない。


 なんで、なんで動かないんだこの体!

 誰も失いたく無い!俺が誰かを守らないと!

 ダリスクがその場でもがく。

 今行かなければ一生後悔する。ダリスクはそう思った。


 『大丈夫。』

 その瞬間、気を失っていた。キャサはそんなもがくダリスクとは対照的に落ち着いていた。

 そして、収めるように左手で握る。


 『でも…!』

 ダリスクは振り解こうとする。


 『ワカナは強い。私が1番知っている。だから、安心して見ていて。』

 キャサは焦るダリスクを宥めるように言う。


 『…はい。』

 ダリスクは、手を強く握る。自分の心に無理矢理蓋をするように、落ち着く。


 頑張って下さい…!

 ダリスクは祈りを込める。


 『くらえ!』

 ジョンは躊躇うことなく、ワカナへ向けてそれを放つ。

 

 『質問の答え、まだ聞いてないんだけど。』

 ワカナは避けることなく、その竜の中へと飲み込まれた。


 『そんな…。』

 ダリスクに最悪の事態がよぎる。


 『やったか…?』

 ジョンは呟く、自分の全身全霊を込めた即死級の毒龍。

 ジョンは不安と期待を混じらせ呟く。



 しかし、不安の方が的中してしまう。


 

 『良い技だ。私じゃなければ危なかった。』

 しかし、ジョンの期待は脆くも崩れ去った。

 ワカナはそこから一歩も動くことなく。堂々と剣を抜いた状態で立っていた。


 『斬ったのか、あの龍を…!』

 ジョンは驚きと呆れを混じらせていた。

 全身どころかあたり一帯を覆い尽くすであろう毒をその場から動くことなく、捌いてみせたのだった。

まさに、神の芸当。ジョンはそう思わずにいられなかった。


 『えぇ、流石に気合入れたけど。』


 『化け物ですね…。』

 ジョンが諦めと賞賛でニヤリと笑う。

 

 『知ってる。よく言われるもの。』


 神の領域に踏み入れる如き強さ。十二獣をもひっくり返せる剣技。

 ジョンは、諦めたかのようにその場に座る。

 『お見事です。お手合わせできて良かった。』

 そして、ジョンは、どろどろとした何か液体のように崩れ始める。


 『お前の本体はどこにいる?』

 ワカナの質問にジョンは笑顔を見せる。


 『やはり、騙せませんか。さすがです。今の私は10分の1の力を使っています。そして、本体はすでにあの2人を連れて、持ち場を離れています。』


 『…そう。』


 『えぇ、私は目的を果たせました。』

 

 『そうか、じゃあ。』

 ワカナは、一瞬のうちにジョンに近づき、剣を振るう。鈍い音と共に、ジョンの首が石ころのようにごろごろと転げ落ちる。


 『本体に伝えとけ、私はお前を殺しに行く。地獄の果てまでも追って、必ず殺しに行く。』

 ワカナは、刀についた毒を振り払い、鞘に収める。


 『楽しみにしています。』

 ジョンは、液体となって消え、地面に染み入って行った。


 


 ーーー『………!?』

 撤退を続けるジョンに、ワカナと分身の戦闘の記憶が体の中に流れる。

 分身が刺し違えてでも、ダメージを与えようとしたが全く届かない。

 自身とワカナの力の距離をまざまざと感じていた。


 『これは、想像以上だな…。いくら10分の1とは言えここまで相手にしてもらえないのか。』

 ジョンが複雑な表情を浮かべる。

 

 『まぁ、良い。力が減ったのは痛いが想定内だ。それ以上に収穫があった。』

 ジョンは僅かに笑顔を浮かべる。

 


 『必ず成功させて見せる…!』

 高らかに宣言をしながら、森を後にした。




 ーーー『ごめん、キャサ、ダリスク。あの2人を守れなかった。』

 ワカナは、笑顔を見せる。

 今にも崩れそうなその表情は、一目見て嘘であると誰もが気づきそうであった。


 そして、それを見届けるように、雨がさらに強くなっていった。

 血を心を何もかも流し出すように。

 ジョンとキャサは雨に打たれながら、何もせずに固まっていた。岩のようにただただ下を俯くのみであった。

 今日あったことの整理が付いていなかった。

 

 経験が浅いダリスクはまだしも、幾多の修羅場を潜ってきたキャサですら、何もすることができなかった。

 2人は、涙を流していた。

 嗚咽は漏らさなかったが、静かにただただ静かに。

 自分への不甲斐なさなのか、失った悲しみなのか、鎮魂の涙なのかわからない。

 泣くのみなのであった。



 そして、ただ、1人ワカナは天を見上げていた。

 雨に打たれ、全身が濡れていた。


 泣いているのか、泣いていないのか。

 その心の中で何を思っているのか。


 ワカナ以外は、何もわからなかった。


 そして、やがて口を開いた。

 『2人とも、、、』


 『今日は、災難だったね。まさか、Sランクモンスターが出てくるなんて。』

 その発言の間に、ワカナはこちらに一瞥することもなかった。

 そして、放たれた言葉は真実ではなかった。

 しかし、2人は言い返すことも反応することもなく。項垂れていた。


 『あの2人は、飛びっきりに強い魔物に襲われた。そして、村を守るために命を賭して相討ちに持ち込んだ。』

 ワカナの表情はわからない。

 口調も普段通りである。


 『立派な騎士だった。』

 しかし、最後の言葉だけ、キャサとダリスクは僅かに震えてるように感じた。


 2人にはその意図がわかった。

 

 そして、その嘘がワカナ自身の為ではなく、あの2人のための嘘なのだと分かった。


 そして、その意図と目的を汲み取った2人は、ただただ泣き、ワカナを見つめることしかできなかった。

 

 ワカナは空を見上げている。

 どんよりとした曇り空からまるで涙がこぼれ落ちるかのように雨が降り続ける。

 『雨は嫌いだ。嫌なことがあった時いつも図々しく降ってきて、私が泣くのを邪魔してくる。悲しみの感情は流さないのに、雨に流されて、目から溢れているものが涙かどうかすらわからない…。』

 ワカナは小さく呟いた。

 それが2人の耳に届くことはなかった。


 そして、ワカナは右腕で両眼を拭った。





 ーーーそれから3日後、ワカナの姿は小さな丘の上にあった。

 そこには、無機質な十字架が幾数も置かれていた。

 

 そして、その一角。中心からやや外れた位置にある十字架の前にワカナは立っていた。



 そして、その十字架の前には屈強な肉体を携えた戦士・フェアスが座っていた。


 『全く、勝手な奴らだ。』


 ヤプール・アスベイ ここに眠る。


 十字架に彫られたこの文字を細目で見つめながら、フェアスが墓の前で恨言のように呟く。



 『生き急ぎやがって。結局俺1人だけが残ったじゃねーか。』

 フェアスがため息を吐く。

 

 『生意気な弟子だよ全く。敬語なんて使わないし、言うこと聞かないし、よく反抗もしやがって。挙句には2人ともどっかに行っちまう。本当に出来の悪いやつだ。』

 やや早口気味に、口から思わず漏れたような言葉であった。

 その、微かに震えた声をワカナは黙って聞いていた。


 『でも、お前の葬式、立派だった。まるで一国の宰相並だったぞ。人望に溢れ、誰からも信頼される強いリーダーになれたんじゃねーか。』

 フェアスが先程行われた葬式を思い起こす。

 その言葉通り、まさに立派な式であった。騎士団幹部や同期。そして、騎士団長まで。

 フェアスは、これほどの人を集めた弟子を誇らしく思い、それ以上に寂しく感じた。


 『しかし、ヤプール。ようやく、アスベイを名乗れたな。今は、とにかく休んであっちで2人で遊んでろよ。あとは俺たちに任せろ。必ずお前の仇とあの日の仇を取る。』

 フェアスが手に持った盃を一気に飲み干した。


 『涙は見せん。お前の目的を果たした時、必ず戻ってくる。だから、待っていろ。必ず取り返す。』

 フェアスがじっと墓を見据える。

 その中に亡骸は無い。

 しかし、彼女の思いが、悔しさが、苦しみがそこに詰まっていると感じた。


 そして、そこから僅かに時を置いて、後ろに振り向き、口を開く。

 『すまないな。老ぼれのぼやきで待たせてしまって。』


 『いえ、大丈夫です。』

 声をかけられたのはワカナ。

 彼女も同様に、先程まで墓を見据えていた。


 『その花、確かヤプールが好きだったデザートフラワー。』

 フェアスは手元にある花に気がついた。


 『えぇ、そうです。砂漠に咲く花です。』

 ワカナは花を撫でる。


 『なんでか、それが好きだったな。』

 フェアスは、ヤプールがその花を寮の部屋の玄関に飾っていたことを思い出す。


 『踏まれても、水がなくても。この花は生きます。でも、ちょっと寒くなっただけで簡単に枯れてしまうんです。ヤプールさんは、この花の強さと儚さが好きだったんですよ。』

 ワカナは僅かに目を細める。


 『そうだったんだな。理由までは知らなかったからよ。単純に見栄張ってるだけかと思ったよ。あいつそういうところあるし。』

 フェアスが昔を思い出す。

 そして、ワカナからは、どこか嬉しそうにも見えた。


 『ふふふっ。』

 ワカナが嬉しそうに笑う。

 

 『ん?どうした?』

 フェアスはしばらく見れていなかったワカナの笑顔に少し戸惑う。


 『あ、いえ、特に意味はないんですが。フェアスさんて団長に無頓着なように見えて実はしっかりと見ていたんだなって。』

 ワカナが答える。


 すると、フェアスが僅かに顔を逸らし、ワカナから表情が読み取れないようにする。

 達人であるワカナに無駄だとわかりつつも逸らさずにはいられなかった。


 『…ありがとうな。あんなじゃじゃ馬と一緒にいてくれて。お前ほどの人材であれば、もっともっと上を目指せただろう?』

 フェアスが誤魔化すように口を開く。


 『そういうのは、言いっこなしですよ。私はあの人に惚れ込んだんです。剣しか使えない私を認めてくれたんですから。あの人のためならどんな事もする。そう思えたんです。私は、ヤプールさんを心から尊敬していました。ここに入って後悔など微塵もありませんよ。』

 ワカナが胸に手を当てる。


 『そうか…ありがとうな…。』

 

 『なんで…感謝するんですか。』


 『いや、なんとなくだ。』

 そう言うと、フェアスが立ち上がる。


 『これから、どうするんだ?』

 フェアスにとってこれが一番大切なことである。

 他の団員が殺された者が取る行動は主に3つ。

 そのまま残り、今まで通りに任務に没頭するか、心が折れてやめるか、復讐に染まるか。

 その中で、復讐に染まったものの末路をフェアスは嫌と言うほど見てきた。


 『私は、団を抜けます。やるべき事が出来ました。』

 ワカナは即答する。


 『やるべき事?』

 フェアスの表情が微かに曇る。


 『はい、奴らの目的が、推測でありますが、わかったので、それをなんとしてでも阻止しなければなりません。』

 ワカナは拳に力を込める。


 『復讐か…?』

 フェアスの言葉には、不安と焦燥が含まれていた。

 仲間を失い、その相手に復讐をして、破滅する。

 そういった団員を嫌と言うほど見てきた。


 『言え、違います。それは、団長も望んで無いと思うので。』

 フェアスはその言葉の後、ワカナの目をじっと見つめる。

 ワカナは目を逸らすことはない。


 『…そうか。もし、何か手伝えれば声をかけてくれ。俺1人だけでも全力で手伝うから。』


 『はい、ありがとうございます。どうしてもダメな時、力を拝借させてもらいます。』

 ワカナは、頭を下げる。


 『もちろんだ。』

 フェアスがうなづく。


 そして、ワカナは数秒の間を置く。

 この間、幾千もの事柄に思考回路を巡らせていた。

 そして、何かを決めたかのように口を開く。


 『今から、話すことはことは、他言無用でお願いします。』

 ワカナの、表情からフェアスの身が引き締まる。

 まさに、真剣そのものであった。

 

 フェアスは、それに相槌を打つように頷く。


 ワカナはそれを確認すると、王国の中心の方を見つめる。


 『聖剣を取ります。』ーーー

 



 ーーー団員ジョンの裏切りの結果、シャクサスドーラの団長ヤプール及び団員ベンベッタの死亡。

キャサの右腕の損失、ダリスクの魔力消費過多や骨折などの負傷。

これにより、シャクサスドーラは解散となった。

そして、騎士団員の裏切りが、騎士団本部の中でも幹部に一目散に耳に入った。

幹部は情報を統制し、裏切りがあった事実を隠蔽、捏造し、モンスターによって3人の団員が殺され、残った3人がそれを撃退したという事実に変更された。

騎士団内の互いの信頼関係の破壊や円滑な業務が妨げられるのを防ぐために、民衆に対しては、失態もそうだが、何より信頼を失う事象と判断したためだ。

騎士団はジョンの裏切りを伏せ、団長及び団員の死亡を民衆には伝えた。

民衆には少なくとも動揺が上がったが、新たにキャサが、ブワーフループを結成、ダリスクはそれに加わる形となったため、ある程度の動揺が収まった。

隠蔽という行為が褒められたものではない。という意見も上がった。

しかし、幹部のフェアス・ライアルネルが、ヤプールの戦友として、真っ先に事実をそのまま発表することに反対した。

ヤプールがこれまで積み上げてきたものが崩れるのを防ぐためであり、これがヤプールに対する花向けであった。


 団員が団長を殺す異例の事態。ましてや、屈指の少数精鋭であった部隊。騎士団史上に残る大事件として、今なおその傷が癒えることがない。ーーー




 ーーー『ここはどこだ?』

 気を失っていたダリスクが目を覚ます。

 長い夢から目覚めたダリスクの眼前には慣れ親しんだ女性の姿が見えた。


 『団長。運んできてくださったのですか?』


 『運んできたのは、あの2人だよ。』

 団長と呼ばれた女性は静かに立ち上がり、ダリスクに近づく。


 『ダリスク、また先走ったのねぇ。』


 『申し訳ございません。』


 『2人だから、キャサでいいよ。昔の呼び方の方が良いでしょ?』

 ダリスクにニコリと笑いかける。


 『いえ。そういう訳にはいきません。』


 『あの2人から事情は聞いたよぉ。1人で先走ってしまうのはダリスクの悪い癖だよぉ。』


 『俺、また失敗してしまいました。』

 ダリスクがグッと拳を握る。

 強く握った拳からは血が滴る。


 心情を察したキャサは少しの間を置き、口を開く。

 『今回のあなたは何も失敗してないよ。過去に囚われるのは仕方のないことだし。全部忘れて前を向けなんてそんなことは言わないよー。』


 『すみません、団長。』


 『痛みは持っておきなさい。そして、その痛みを自分に、そして他人に味合わせないように行動しなさい。』


 『…。』

 ダリスクからの返答はなかった。

 ただ少しでも前を向こうと心の中で誓うのだった。ーーー



 ーーー『俺、強くなるよ。』

 カイリはユーベリータに宣言する。

 そんなカイリにユーベリータは驚きの表情を見せつつ、答える。

 

 『分かった。頑張ろう!』ーーー

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