第三十二話 決着
暗い、真っ黒な、闇のような、誰とも形容し難い空気が、辺りを包み込む。
命をも削り取るような空気にジョンは些かの興奮を覚えていた。
これが"死"。
死を実際に体験したことがないジョンがその空気をひりひりと肌が筋肉が臓物が…そう感じているように思えた。
『素晴らしい…!』
その言葉は、歓喜か、あるいは余裕か。
死を感じているであろうジョンであったが、悲壮感というものは一切感じていなかったであろう表情である。
【ソウルマジック】
自身が欲している力が目の前で命を削りながら自分を殺すために最大の力を発揮している、その状況にたまらない興奮を覚えた。
結界地獄と唱えられた魔法は未だに全容を表していない。
しかし、ジョンはあることに気づく。
もう、ベンベッタの手中の中にある、と。
そして、ここで後悔を感じた。
なぜ、“こちら”で来てしまったのだろうと。
『俺の命が尽きるか、お前が死ぬか。タイムアタックとシャレ込もうか。』
ベンベッタの言葉にジョンは全力を持って立ち向かうことを決める。
最後の時のために。
『血針!』
ベンベッタが腕を前に出し、肉体を血に変える。
腕が消え、ボトリボトリと落ちる大量の血を起点に3mほどの針が無数に地面から出てくる。
ジョンは咄嗟に上に回避し、木に捕まろうとする。
その刹那、何かを感じ、木には捕まらず、毒を足場にして針の間に降りる。
『流石に気付くか。一定の範囲から出たらお前は血を失い死ぬ。そして、針に触っても同じく、死ぬ。そして…。』
ベンベッタは、地面に手を付く、
『血の池、剛!』
針の隙間を縫うようにして、赤い水が充満し始める。
ジョンは、新しい足場を上に作り、そこに飛び移る。
ジョンの咄嗟の判断により、先ほどまでいた足場のように血に飲み込まれるのを寸手で躱した。
『無駄だ。』
ベンベッタは残った左手をタクトのように動かす。すると、針や血の池がジョンを追うようにして、攻撃を繰り返す。
これは、まずい。
ジョンは躱すことを一度やめる。
避けるだけではジリ貧であると咄嗟に判断をした。
流石の戦闘経験の多さがここに現れた。
『ポイズンウォール!』
ジョンが自身の体の一部から毒を出し、追撃を防ごうとする。
しかし、そんなことはお構いなしに、攻撃を繰り出し続ける。
『Aランクなら一瞬で毒に飲み込まれるんだけどな。』
ジョンが恨み節のように言葉を放つ。その言葉通り、普通であれば、Aランクのモンスターなど、ひとたまりもないほどの魔法なのだが、ベンベッタには関係がなかった。
『ばーか。俺がAランク程度なハズがないだろう。』
ベンベッタが言い返す。虚勢でもなんでもない。
事実である。
『間違いない。』
ジョンが嬉しそうに相槌をうつ。
命の削り合いをかつての仲間とする。
それだけで夢見心地だ。
ジョンは、動きがないベンベッタ本体を毒を飛ばし狙う。
『ポイズン・ア・シェンテ』
毒が剣変わり、ベンベッタを貫こうとする。
しかし、それを針が弾き飛ばす。
まるで、ベンベッタの意識とは関係ない感じで。
ベンベッタの周りにある針が畝るようにして庇っていく。
『自動追尾にオートガード。クソゲーにも程がある。』
ジョンが思わず口からもらす。
そして、ぐるりと回りながら、攻撃を躱す。
体術を極め、身のこなしが軽いジョンにとってここまで反撃出来ないという事象は考えられなかった。
しかし、ベンベッタが圧倒的に有利なこの状況でジョンは改めてその認識を認めざるを得なかった。
こいつは、恐らくSランク並み…いや、もしかしたら…。
『すまんな、俺の針はどっかの誰かよりも優秀らしい。』
ベンベッタは、攻撃の間を縫うようにして攻撃を続ける。
ジョンは、攻撃をする間も無く防戦一方で足場を渡り続けた。
しかし、それが逆に焦りとも感じ取れた。
針に触れたら終わり、地面に落ちても終わり。
その状況であるにも関わらず、すぐに決着をつけようとする攻撃ばかり。
恐らく、能力にハッタリはない。
ジョンの長年の経験から来る勘でそれはわかっていた。
では、なぜ焦るのか。ジョンはある考えしか浮かばなかった。
それは、ジョンが最も嫌い、嫌悪するものの一つである。
『サリー、あの女か。』
ジョンがポツリと呟くと同時に、ベンベッタの魔法が僅かに鈍る。
ソウルマジック、強力であるが、命を削る以外に大きな弱点がある。それは心情に左右される。怒りなどで威力も強くなるが逆に悲しみで弱くなる。
魔法によってはその逆の場合もあるが、とりあえず心情によるところは大きい。
そして、ジョンの考えは、ベンベッタの魔法の僅かな揺らぎから確信に変わる。
『まだ、未練があるようですね。早く決めれば決めるほど残りの命の時間も長くなる。目的を素晴らしいことです。しかし、その私情は、戦いに対する大きな冒涜です。』
ジョンの怒りにベンベッタは、無言で攻撃を続けた。
『無駄なことを。貴方には殆、呆れました。もういいです。終わりにしましょう。』
そういうと、ジョンは避けながら体から毒を絞り出す。単調になった攻撃を避けながら、ジョンにとって容易いものであった。
ジョンにとって楽しかった時間を部外者である女に邪魔された。
それは耐え難く、一刻も早く、そこからベンベッタを解放したいという傲慢な考えを持っていた。
『ポイズンラグーン。』
鯨のような大きな毒の塊が現れた。
防がれるのであれば、その上から叩き潰す。
シンプルかつ最適解な作戦であろう。
『さぁ、そのオートガード、主をこれから守ることは出来るかな。』
ジョンは、毒の塊を指差す。
『死ね。』
それをベンベッタに振り下ろそうとしたその時、
体が動かない。
何故だ。
ジョンの体が突如として動かなくなった。
ポイズンラグーンは、シャボン玉のようにパァンと弾け、ジョンはだらんと手を下ろす。
『何故だ。って顔だな。お前のその顔を見ると安心するよ。やっぱり完璧な人間なんていないんだと。』
ベンベッタがゆっくりとジョンを見据える。
『蜘蛛の糸をご存知で?』
ベンベッタの言葉にジョンはハッとする。
神が天国から垂らされた蜘蛛の糸の話を。
『最初から…だろうな。』
ジョンが呟く。
『あぁ、隙を見せたら、お前なら必ず、深読みすると思ったさ。そして、思惑通りに引っ掛かった。』
ベンベッタがニヤリと笑う。
ベンベッタは、針で攻撃をする中で、糸を常にジョンの周りに行くようにした。
そして、ジョンがトドメを刺そうと動きが止まったその一瞬を狙って、糸に血を組み込んだ。
血の組み込まれた糸は固まり、ジョンの動きを止めたのだ。
『さぁてと。』
ベンベッタがジョンを全てを恨むような鬼の形相で睨みつける。
『お前に言わす、言葉は無い。目的を聞いたところで肝心なところは話さないのを知ってるからな。』
ベンベッタが落ち着いた口調で話す。
ジョンは、ベンベッタから来る殺意を肌でヒシヒシと受け止める。
『素晴らしい、やはり、素晴らしいよ!貴方は!』
ジョンはこれ以上ないほど恍惚の感情であった。
そして、先ほどまでの非礼に大変申し訳なさを感じた。
『力に溺れた醜き怪物か…。もはや人じゃ無いな。本来なら、人を助けるための蜘蛛の糸なんだがな。サリーを出されたら話は別だ。』
ベンベッタはさらに続ける。
『俺は神でもなければ、仏でもない。お前に対して、慈悲も同情も全くわかない。』
『そのまま地獄にいろ。』
ベンベッタの表情に光の色など一切見受けられなかった。
『ありがとう、楽しかった。』
ジョンが感謝を述べる。
『じゃあ、死ね。』
ベンベッタがジョンに手を翳す。
無数の針が動かなくなったジョンの方向を向く。
それを見たベンベッタが躊躇なく拳を握る。
そして、それに呼応し、ジョンを四方から飲み込み尽くした。
辺りは、自身の血が飛び散り、真っ赤に染まっていた。
些か、1人の人間が出すような血の量ではない。
まるでそこで10人以上の人間が殺し合いをしたような跡であった。
『終わった…んだな…。』
ベンベッタは、それを見届けると、魔法を解除し、ダリスク達に合流する道を選んだ。
今の自分ではもう戦力になれない。
悔しさを押し殺した苦渋の選択である。
ぽつりぽつり
雨が降り出した。
ベンベッタにとって、恵みの雨か、その逆か。
『いてーよ、ちくしょうが。』
雨が傷に染みる。
血がない、もう立ってることすら辛い。
頭も痛い、フラフラする。
でも、行かなきゃ。
早く、早く団長を助けないと。
あの人を、あの人をまだ失うわけには行かない。
『もう、魔力も血もすっからかん。寿命もどんくらいもつかな、、、』
まだ、ベンベッタは死にたくは無かった。
死ぬわけには行かない理由があった。
『女のために、、、なんて言ったらみんなに笑われそうだな。』
ベンベッタが自虐的に笑う。
それが最大の理由であった。
『早く、合流しないと。』
ダリスクは鉛のように重い脚を一歩一歩、亀のようにであるが踏み出していった。
戦いというのは、気を抜いたら瞬間に負ける。
ベンベッタが常に、ワカナに諭されていた言葉だ。
ベンベッタは、それを肝に銘じながらもどこか。
心のどこかで油断していたのであろう。
コップに入ったわずかなヒビから全体が割れてしまうように。黒く黒く、どこまでもドス黒く。真っ黒な感情がベンベッタを包み込む。
『1人でどこに行くんですか?私を置いてかないで下さい。』
その声がベンベッタの耳に届いた刹那、ベンベッタは、何も考えられなかった。
思考を放棄し、ただただ、先ほどいたあたりに首を振り向けることだけに中念した。
『驚いた顔をしていますね。あぁ、これですか?この竜は私の新しい魔法です。特別性の毒でして、何時間もかけてゆっくりと進行する毒です。何十種類の毒をブレンドしてるので解毒には期待しない方がいいですよ?』
ペラペラとベンベッタの耳に声が届く。
忌々しい姿が目に届く。
『………。』
先ほど、たしかに殺したはずの男が立っていた。
もう、何も出来なかった。
何も話せなかった。
ベンベッタは、勝ったと思っていた。
確信はなかったが漠然と。
別に漠然と勝ったこと思うことに対しては何ら不思議なことはない。
状況的にそれしかなかった。
だが、いまは違う。
自分の命を、血を、魔力を削ってまで、全身全霊を持って叩きのめしたはずだった。
たしかに、魔法の中に引き摺り込んだはずであった。
しかし、たしかに生きている。
『本体で来ていれば、確実に負けていました。まぁ、相性だけの問題です。貴方は、私とここまで戦えたことを誇っていい。』
ジョンが言い放つ。
決して見下しているわけではない。
尊敬の念を込めた発言である。
ただ、この状況を見れば、一方的な煽りとしか見えないであろう。
しかし、そんなことは今は問題ではなかった。
『では、ご苦労様でした。サクシャスドーラも悪くはありませんでした。楽しめました。そして"これからも"楽しみましょう』
『貴方の地獄のように意思を持っています。なので、先ほどの私のように飲み込まれて下さい。地獄でまた会いましょう。』
ジョンは無慈悲に毒の龍を放つ。
それは、ベンベッタに直撃をする。
何も残っていないベンベッタは文字通りなされるがまま。
走馬灯がベンベッタの頭に駆け巡る、、、
今考えれば、どれも素晴らしい、黄金色に輝く思い出なのだと。
楽しかったなぁ、サクシャスドーラ。
あそこに入って本当によかった。
貴方達に出会えて本当によかった。
もし、会えてなかったら、今頃俺は、ジョンのように悪に手を染めていたかもしれない。
正義を嫌っていたかもしれない。
今まで、本当にありがとう。
俺では、あいつを倒せなかった。
ワカナ、キャサ、ダリスク後は頼んだ。
あいつをぶっ倒して、団長を助けてくれ。
俺は先に行ってお前達を見ているから。
俺の分まで生きてくれよ。
そうだ、迷わないように、印を付けておくか。
『あば…よ…。』
ベンベッタが最後の全ての力を振り絞り、今にも消えそうな言葉で言った。
そして、途切れ行く意識の中でーーー
ーーー『君の名前は何かな?』
『…ベンベッタ』
『そう、私はサリーって言うの!よろしくね!』
『ダメだよ…僕と話したらサリーまで…虐められちゃうから…。』
『何言ってんの?関係ないよ!私が友達になりたいんだもん!だから、泣かないで!ほら、遊ぼう!私、強い子の方が好きなの!』
『でも、僕は、泣き虫で弱虫でいじめられっ子で、変な血の魔法だし…。』
『血ってのは、なんで流れているか知ってる?人を強く、生きさせようとするためなのよ?そして、ベンベッタはそんな血を操ってるんだから絶対に強くなる!』
『そうかな…こんな俺でも強くなれるかな…。』
『私が言うんだから間違いないって、保証するから。ほら、指切りげんまん!』
『お、俺。俺、絶対に強くなる、強くなってサリーのこと嘘つきにしない!』
『うん!期待してるよ、ベンベッタ!』
『サリー。もし、俺が強くなった時、聞いて欲しいお願いがあるんだけどーーー
ーーー「俺、強くなれたかな、サリー…。」
風ひとつない水面の、凪のような心境の中で、ベンベッタは、言えなかった"心"を最後に口にした。
「大好きだよ、サリー」
ーーー 『何これ…。』
ワカナは目にした光景に思わずそう呟いた。
辺り一面血の海となっていたのだ。
『一体何があったのでしょうかぁ?殺し合い?』
キャサには、殺し合いがあったこと以外はおよそ見当がついていなかった。
『えぇ、多分。でも、死体も道具も何も落ちてない。とりあえずこの血に何かあれば。』
ワカナは、その血の主を探るように地面を撫でる。
『ねぇ、この血、魔力が篭ってない?』
ワカナが、気づいた。
この血に普通とは違い多くの魔力が込められていることに。
『魔力、ですかぁ?血に魔力なんてそんなの…』
キャサは、そこで言葉に詰まる。
そして、顔が凍るように青ざめていく。
『『ベンベッタの…血!』』
ワカナとキャサは同時に、その答えに辿り着く。
そして、地面に書いてある印を見つける。
『矢印…あっちを指している…。急ごう!』
キャサとワカナは矢印の方向へと向かった。
ーーー『早く!早く!伝えないと!』
魔力が切れかかり思うように動かない体に鞭を打ち、ダリスクがキャサとワカナを探す。
森は、なかなかの広さの上に、動き回っているであろう2人を見つけるのは至難の技。
しかし、見つからないなんてことはダリスクの頭にはない。
必ず見つける。それしかなかった。
『早く早く!』
時は一刻も争う。
あの2人なら大丈夫だと思う。
でも、もしかしたら…
極限状態のダリスクに最悪の結果が思い浮かぶ。
何ばかなことを言ってるんだ!
仲間が、団員が信じなくて誰が信じる!
ダリスクは進んでいき、木陰に人影を見る。
よし、助かった!
ダリスクの一瞬の希望が、次の瞬間に圧倒的、絶望に変わる。
『おやおや、思ったよりも遅く、待ちくたびれてましたよ。』
まさに、絶望が目の前に立っていた。
そして、血に塗れたジョンを見た。
その瞬間、ダリスクは全てを察した。
『お前、お前、ベンベッタさんを…。』
絶望に打ちひしがれた。
わずかな希望すら失った。
団員全員で帰る。
信じて、送ってもらったベンベッタを失ってしまったのだ。
『絶望しなくてもいいよダリスク。お前は、よく頑張った。ただ、力が執念が、何もかも足りなかっただけだよ。』
ジョンが煽るように言い放つ。
『お前はいらない。だから、優しく殺してあげる。安心しておやすみ。』
ジョンは、地面を踏み切り、ダリスクを殴る。
吹き飛ばされたダリスクに間髪を与えず、今度は蹴り飛ばす。
『やはり、この体だと限界があるか…。まぁいい。雑魚1匹なら充分か。』
ダリスクは再び踏み切る体制を見せ、再び殴る蹴るを繰り返す。
まるでいたぶるのを楽しむように。
もうダメだ、、、俺じゃ何もできない。
魔法も弱ければ、体術も弱い、意思も、力も何もかも。信じてくれた仲間すら助けられず、何が騎士団だ。何が仲間を助けるだ。
もう、やだこんな俺が…もう…嫌だ。
ダリスクは、ボロ雑巾のように木の影へと、倒れ込む。なす術なく後は死を待つのみであった。
『止めを…と言いたいところですが、本当に運が良い。お前も私も。』
ジョンが殴る手を止め。その場に蹲る。
『ジョン!ダリスク!一体何があったの!!!』
ワカナとキャサが2人を見つけ、駆け寄る。
『ダリスクわかる!?私、ワカナ!返事してよ!』
ワカナが必死に呼びかける。
『だ………だ……め…です。』
ダリスクが必死に声を振り絞る。
『ダリスク!キャサこっち目を覚ました!!』
ワカナが歓喜の声を上げる。
『ワカナ、ジョンはダメですぅ!気を失っています!』
キャサがジョンを揺り動かす。
ダメだ、キャサさん。
そいつから離れないと。
人の皮を被った悪魔から離れないと!
ダリスクが力を振り絞る。
『だ………だ…め……です。』
ダリスクが必死に呼びかける。
『何が!!』
ワカナが聞き返す。
その時、ドシュッ!
柔らかいものと硬いものを同時に引き裂いたような何とも言えない鈍い音が聞こえる。
と同時にキャサが呻き声を上げる。
『っっっ……………!』
キャサが左肩を抑えて倒れ込む。
ゴトンと重量のある肉塊が地面へと落ちる。
『キャサ!?』
ワカナが叫ぶ。
そして、それと同時に、ワカナは唯一目の中に入っていないジョンの姿を目で捉えることに注視した。
そして、ジョンのわずかに目の端で捉え、反射的に鞘から刀を抜く。
ギンッと金属がぶつかり合う甲高い音が鳴り響く。
この音だけで、ワカナの脳を戦闘モードに覚醒させるには充分であった。
ワカナは、ジョンを蹴り飛ばし、距離を置く。
キャサは、それに呼応する様にダリスクとワカナの元へと近づく。
『流石ですね。2人とも完全に殺すつもりで不意をついたのにピンピンしている。』
ジョンはそう述べる。
実際に、今の二太刀は完全に息の根を止めるつもりであった。
少しでも長く戦おうと、油断を込めた太刀ではなく全力の太刀。
しかし、それを2人に躱されてしまった。
ワカナとキャサ。
これはジョンにとっても流石に手の余る存在であると認めているが故の行動である。
しかし、殺せはしなかったが、ジョンには心の余裕ができた。
片方の片腕を落とし、毒を注入出来たからだ。
多分すぐに出されてしまう量の毒だが、少なくともこの戦闘中は使い物にならない。
つまり、ジョンにとって、ワカナとの1vs1の状況だけではなく、守るべき"荷物"が出来たという認識であったのだ。
そして、速剣の二つ名を持つワカナと全力で戦うことを楽しみにしていた。
そして、ハンデがある分勝算があるだろうと考えていたのだった。
『殺すぞ』
ワカナがそれを言い放つその時までは。




