第二十六話 メンバー
『お前ら!節約しろ!』
ヤプールのその言葉がシャクサスドーラの騎士舎に響く。
騎士舎とは、その団が持つ宿舎のようなもので基本的にここで寝泊りをする。通常は男性と女性に分かれているのだがシャクサスドーラでは分かれてはいなかった。
『してますよ!これ以上、どう切り詰めろと!』
ベンベッタが抗議のように声を上げる。
シャクサスドーラにはお金がなかった。
騎士団はクエストをいかにこなすかの貢献度と所属人数よって騎士団を統括する騎士団連合から支給される金額が違う。
人数が少ないシャクサスドーラは必然的にクエストをこなす数が少なく当然支給される額も少ない。
そのため騎士舎も分けることが出来ていないのだ。
『そうですよぉ、団長。私お腹空きましたぁ。』
キャサがぐでっと倒れる。
『もっと働いてこい!雑用でもなんでもいいから!これから私とワカナで明日のクエストを探して受けて来るから。』
『横暴だ!暴君だ!無能団長だ!』
ベンベッタが叫んだその瞬間、ギャーっという悲鳴と共にベンベッタの上半身が壁に突き刺ささっていた。
『とりあえず、今日はお前らに任せる。』
クエストは、直接依頼が送られて来ることもあるが基本的にはその群の兵士を統括する兵士詰所が管理をしており、その中のものは、騎士団も自由に受けることができる。
『がんばれ。』
そう言い残しヤプールとワカナは2人で出発した。
『さぁ、どうするか。』
水をかけられ、気を取り戻したベンベッタとダリスクとヤプールの倒れ込んでいるキャサを除いた3人で集まり会議をする。
『うちの団は金遣いが荒いからな。』
ジョンが苦笑いを浮かべる。
『あの腐れ団長、金の使い方が下手なんだよ。金が入ったらすぐ酒に使って…。計画性皆無だろ。』
ベンベッタが文句を言う。
『ベンベッタさんも一番に酒飲むじゃ無いですか。』
ダリスクがベンベッタをつつく。
『馬鹿野郎!あんなに酒があったら余るだろうが!俺は仕方なく飲んでるだけなんだよ!団長と一緒にするな。』
ダリスクの言葉にダリスクとジョンは苦笑いをする。
『まぁ、とりあえず今日は狩りだな。それで食料を確保しよう。』
ジョンが提案をする。
『そっちは任せた。俺は他にやることがある。』
ベンベッタが先ほど殴られ、穴が空いた壁を指差す。
『直さなかったら、殺されますからね。』
ダリスクが呟く。
『じゃあ、とりあえず行きますか。』
ダリスクとジョンが出発をしようとした。
『待って下さい。狩りはキャサが行きますぅ。』
キャサがそれを遮る。
『キャサ、どうしてだい?』
ジョンが尋ねる。
『もう限界ですぅ。食べながらじゃ無いと本当に死んでしまいますぅ。』
キャサは細い体に似合わず、かなりの大食漢であった。
『わかった、そっちは任せるよ。俺たちは街をブラブラしてるか。』
ダリスクはジョンと2人で出掛けることが決定した。
『人が多い。』
街に出た第一声がそれであった。
シャクサスドーラが置かれているのはアスガマ郡。人口二十万人以上はいるであろう大都市である。
ダリスクは、田舎出身の子供であったため大きな街へ来ることがなかった。
今でこそ街に来る機会が多いため慣れてはきているが最初はすぐに吐きそうになっていた。
『大丈夫か。』
『なんとか、大丈夫です。』
『とりあえず装備を整えよう。ダリスクの装備、ハッキリ言って防御面が乏しいからな。』
ダリスクはそう言われて自分の服を見る。
魔法使いらしい装備をと張り切って揃えたものの破れたりすることが多く耐久的な面で使えば使うほど戦闘に適してはいないと思っていた。
『確かに、これじゃあ…。』
『だから、買いに行こうよ。お金ならへそくりで貯めてたから、俺が払うからさ。』
『本当にいいんですか!?』
『あぁ、着いてこい!』
ダリスクはジョンについて行った。
『ここですか。』
『そうだ。なかなか良いんだぞ。』
ジョンが連れてきたのは、外見は看板ひとつだけ立ち古い見た目の店であった。
中に入ると鎧や剣に盾など、まさしく装備屋に相応しい店であった。
『すごい、こんなに装備あるの初めて見た。』
ダリスクははじめての装備屋に興奮気味であった。
『だろ、ここの店は俺の行きつけなんだ。』
ダリスクは様々な装備を手にとり感覚を確かめていく。ダリスクが今、入手したいと考えているのは杖、魔法使いの必須アイテムである。もちろん杖がなくとも魔法は発動でいるのであるが、自分に合った杖によって威力の増加や消費魔力の軽減などもできるため使わない手は無いのである。
『これ良いな。』
一つの杖を手にとり見つめる。
使用感が特にしっかりきていたのだ。
しかし、ダリスクはその杖の値段を見て驚く。
銀貨15枚。1ヶ月分の給料を超す値段であった。
『良いのあったか?』
『まだ探してます。』
ダリスクは誤魔化すように杖を元の位置に置く。
これは出世して給料を貯めてから自分で買おう。ダリスクは心の中で決心をした。
『久しぶりだな、ジョン。』
店の店主が話しかけてきた。
『そうですね、エドワーさん。』
ジョンが挨拶を返す。
店の店主のエドワーは、シャクサスドーラのメンバーと昔から交流があり、大体のメンツはここで装備を整えている。
『良い酒が入ったんだ。飲まないか。』
そして、無類の酒好きでもある。
『良いですね。ダリスクはどうする?』
ジョンは即答した。
『俺は良いです。装備眺めてますから。』
ダリスクは酒が苦手なため遠慮をする。
『残念だ。おーい、店番頼むよ。』
エドワーが呼びかけると20前半ほどの長い黒髪が映える活発そうな少女が来た。
『わかったわ。お小遣いあげてもらうから。』
少女の言葉にうなづき、2人は店の奥へ行った。
店の奥に入って行ったエドワーとジョンを背にダリスクが装備を眺めていると、
『ねぇ、君シャクサスドーラの人でしょ。』
話しかけてきたのは先ほどの少女。
『そ、さあです。』
ダリスクは女の子に話しかけられると言う予想外の出来事で噛みつつ返事をする。
『じゃあさ、ちょっと案内して欲しいんだけど。』
『えっと。』
ダリスクは一般人が騎士舎に入れるのかを認知していないため返答に詰まる。
『お願い!もし聞いてくれたら私、特性の装備を渡すから!』
少女が手を合わせてお願いをする。
『わかったよ。』
ダリスクは迷いつつも入るだけなら大丈夫だろうと了承をした。
『本当!?やったー!』
少女は、手を挙げて喜ぶ。それを見てダリスクもなぜか嬉しい気持ちになってくる。
『持ってくるから待っててね。』
少女は、店の奥に行き、しばらくすると戻ってきた。
手には3着の服があった。
『私お手製の服よ!好きなものをひとつだけ5銭で譲るわ!』
少女は胸を張り自慢げにそう言った。
ダリスクは、持ってこられた服を吟味する。一着目は赤い服を基調にところどころ鎧の部位がまるでカレーが跳ねたかのように付けてあるもの。二着目は普段着のようなのであるが真紫で派手以外には形容しづらいもの。三着目は黒いコートでデザインはいいのだが、コートを4等分するように白い十字架で分けられていたもの。
正直、金を払ってまで買う価値のないものばかりなのだがダリスクは逃げ場がないとすでに悟っていた。
お礼って言うより拷問じゃないか。ダリスクは心の中でポツリと呟いた。
『そういえば、なんでシャクサスドーラに行きたいの?』
ダリスクは疑問に思った。クエストの依頼ならばこの群にある兵士詰所が一括管理をしている。難しい依頼でない限りはそちらを通すため、少女が来る理由は見当がつかなかった。
『ある男に用事があるの。』
ダリスクは、その言葉である程度理解をする。
目一杯おしゃれをしてきたであろうその服装と彼に揃えられた髪。そして、騎士舎に行くには高いテンション、なるほどなと心の中で呟く。
『そうなんですね。』
『そ、そうよ。』
少女は?を頭に浮かべて返事をした。
やがて2人はシャクサスドーラの騎士舎についた。外から見ても普通の家の方が立派だなとダリスクは心の中でため息をつく。
すると、その外壁でベンベッタが壁を直しているところを見つけた。
挨拶をしようと思ったダリスクだったがそれよりも早く少女が声を上げる。
『おーい!ダリスク!』
少女が手を振りながら声をかける。
その声でダリスクは作業の手を止めて素早くこちらを振り向きゲッと今にも良いそうな顔で
『なんでサリーがいるんだよ。装備屋の店番はどうしたんだ。』
『お父さんが酒飲んでるのムカつくから押し付けてきたのよ。』
少女、改めサリーが少し不機嫌そうな顔でそう言う。
『いや、ダメでしょ。酔っぱらったおじさんだと店を壊しかねないでしょ。』
『いいのよ、そんなこと。』
サリーは大丈夫だろうと声を上げる。
『あなたに会いたかったんだもん。』
サリーは2人には聞こえないほどの声量で呟く。
『え?なんだって?』
『なんでもない。それより、今から一緒に出かけようよ!』
誤魔化すようにサリーが遮る。
『出かけるったって…またあの展望台に行くんだろ。それに壁の修理だってあるし。』
ベンベッタが呆れたように言う。
ダリスクはサリーがそれを聞いてやや悲しい顔をしたように感じたため、
『俺がやっておきますから。』
と言った。
『だってよ!行こう、ベンベッタ。』
サリーが嬉しそうに答える。
『わかったよ。ダリスク、すまんな。後で何か奢らせてくれ。』
ベンベッタは、ダリスクに軽く頭を下げた。
ーーーとある展望台。
そこはアスガマ群を一望できる展望台であった。
サリーはそこを気に入り2人で出かける時はいつもその展望台に行くことがお決まりになっていた。
『風が気持ちいい。』
サリーは風を感じるように目を閉じる。
『そうだな、このくらいの気候がちょうどいいかもな。』
ベンベッタも同じく風を感じようと手を広げる。
『なんか服が白いから湖にある野鳥見たいね。』
サリーが笑う。
『怪鳥レシスティアって言ってくれよ。それじゃあただ汚いだけみたいになるだろうが。』
ベンベッタがツッコミを入れる。
『そんなにカッコよくないじゃない…。』
サリーが真剣な口調で呟く。
『やめてくれよ、そんなマジなテンションで。本気で傷つくから…。』
ベンベッタはわかりやすく落ち込む。
『そういえば、この前コウちゃんに告白されたんだよね。』
サリーがそう言いながらベンベッタをチラリと見る。コウとは2人の初等学校からの幼なじみで今もアスガマ群に住んでいる。
『へ、へえ。返事はどうしたんだ。』
ベンベッタは平静を装う。しかし、内心は乱れまくっている。
『もちろん断ったよ。』
サリーがいたずらをする少女の様に笑いかける。
『そ、うなんだ。』
ベンベッタは内心でガッツポーズをするもなんとか外に出さないように抑える。
それを聞いてサリーはガッカリとした表情を見せる。
『私たち昔から仲良いよね。』
サリーはやや強めの口調でそう言った。
『そうだな。初等学校からの付き合いだな。』
ダリスクが、少し考えるような語気で発言する。
『ベンベッタはどうなの?なんか言うことない?』
サリーは、ベンベッタに向き直り尋ねる。
それを聞いて焦るように全身を見渡す。
髪は切ってないな、服装もいつもと変わらない。化粧も普段通り。なんだ一体なんなんだ。
『ヒントを、ヒントをお願いします。』
『ヒントー?自分で考えなさいよ!』
サリーは強めの口調でそう言った。
『身長が伸びた…かな?』
ベンベッタは当てずっぽうで答える。
どうか当たっていてくれ、的外れな答えで天に祈る。
『そんなこと聞いてないわよ!』
サリーは向こうを向いてしまった。
『ごめん、正解を教えて下さい。』
ベンベッタは必死に謝る。そして、次回の対策として答えを聞こうとする。
『言わないわよ。』
『そんなぁ〜。』
『ばか、本当に鈍いんだから。まぁ、でも、そこがす…良いんだけど…。』
サリーのその言葉がベンベッタに届くことはなかった。
ダリスクが壁に空いた穴を埋め終わり、椅子に1人で座っている。
『なんか楽だな。』
ダリスクが1人でぼーっとしている時間が無性にもったいなくて感じた。
なんか、何もしないという時間も良いものである。
ダリスクがそう思っているとベンベッタが騎士舎に入ってきた。
『ただいまぁー。ダリスク1人ですかぁ?』
相変わらずの気の抜けた声で聞かれたため、さらにダリスクの気が抜けていく。
『そうですよー。ずいぶんと狩ってきましたね。』
キャサはリュック一杯に食材を入れて帰ってきた。
『これでしばらくは持ちますよぉ。』
キャサはリュックをテーブルの上に置く。
あまりの重さに木のテーブルが震えて、しなっている。
『そういえばダリスクと2人になるのは初めてですねぇ?』
ダリスクは確かになと思った。キャサのことが苦手ではないのだが独特の雰囲気でなんとなく近寄り難いなと考えていた。
『そうですね。なんか緊張してきます。』
『そういう時、手に好きな食べ物を書くのが良いらしいよぉ?』
キャサが自身の掌をダリスクに見せながら、指を指す。
『好きな食べ物でしたっけ?』
ダリスクに疑問が浮かぶ。
『そうだよ、ワカナが昔言ってたしぃ。』
キャサがそんな疑問を吹き飛ばすように即答をする。
苦笑いをするしかないダリスクが誤魔化すように、
『ワカナさんとはずっと昔から仲良いんですよね?』
尋ねる。
『そうだよぉ。キャサとワカナは昔から仲良しでずっとパートナーなんだよぉ〜。』
キャサが答える。
『知ってますよ。昔からファンですから。高等学校の時の武芸大会は本当に鳥肌が立ちました。』
ダリスクは興奮気味に話す。キャサとワカナは昔から2人で組んでおり、2人で大人数を圧倒するその剣技で名前が大きく広まるほどであった。
『そうなんですかぁ?嬉しいですぅ。』
キャサが嬉しそうな表情を見せる。
『あの速さと力強さ。お二方を倒すために大同盟を組んでいたのに、それを簡単に跳ね返す。本当に痺れました。』
ダリスクが早口気味に話す。
当時のことが鮮明に思い浮かび、明らかに興奮しているようであった。
『まぁ、私たち強いからねぇ。』
キャサは、何も躊躇いなく答える。
強さからくる圧倒的自信。
ダリスクはそう、強く感じた。
『そういえば、お二方は、昔から強かったんですか?』
ダリスクはふと疑問をぶつける。
あの強さをどうやって手に入れたのか、単純に疑問に思ったからだ。
『ううん、キャサは強かったけど、ワカナは魔法があんまり使えなくて弱かったよぉ。』
キャサが、過去を思い起こすように答える。
そしてそれは、ダリスクにとって衝撃的なことであった。
『そうなんですか!?』
ダリスクは衝撃を受ける。今や騎士団の中でも5本の指には入ってくるのではと言われるほど強い人が昔は弱かった?ダリスクにはそれが理解できなかった。
『そうですよぉ。剣だけで言ったら、かなり強かったけど、魔法を使われるととことん弱かったのよ。でも、負けても負けても剣の努力をいっぱいしてすごく強くなったの、キャサもそれに負けないように強くなろうと思ったらあれよあれよと騎士になっていたわぁ。』
『すごいですね。俺なんかギリギリで騎士団になれたから2人には本当に憧れます。それにしてもなんでシャクサスドーラに入ったんですか。失礼ですけどもっと上の騎士団に入れたんじゃないですか?』
ダリスクは意を決して尋ねる。
『確かに、スカウトはたくさんきたけど、みんな口を揃えて君達を戦力と考えているって言ってきたの。そんな中でヤプールさんだけが君たち面白そうとか君たちと戦いたいとか、私達を戦力としてではなく人間としても扱ってくれた、だからここにしたのぉ。』
キャサの言葉にヤプールが改めて偉大なのだとダリスクは感じた。
『今でもなんでもっと良い団に入らなかったって言われるけど私はシャクサスドーラに入れて良かったと思っているわぁ。』
キャサの言葉にダリスクも共感した。
『俺も早く強くなってみなさんの迷惑にならないようにしたいです。』
ダリスクが力強く発する。
『うちの団なら大丈夫だよぉ。着いて来れれば絶対に強くなれるし。ベンベッタもすごく弱かったけど今では、騎士団の中でも中堅の最下層くらいには強くなってるしぃ。ダリスクも中堅の下層くらいにはなれると思うよぉ。それ以上は自分の努力次第だけどぉ。』
キャサが気の抜けた声の中でもダリスクを慄すように呟く。
『頑張ります。頑張って頑張って早く皆さんに追いつきたいです。』
ダリスクはグッと拳を握った。
ーーー所変わり、騎士団詰所。
ここには、モンスターの情報や各地で起きた被害などをまとめた資料や騎士団に届いたありとあらゆる依頼書が置いてある。
騎士団は、ここで情報交換や作戦などを立てることがしばしばある。
そして、ワカナとヤプールは騎士団詰所でクエストの依頼書を漁っていた。
『もう、飽きた!!!』
ヤプールが大きな声を上げる。
状況によって変わるが、その時は比較的静かな雰囲気であったため、ヤプールの声が響き渡る。
『静かに、探してください。』
ワカナがため息を吐きながら、注意をする。
しかし、こうなってしまっては無駄なのだとワカナは知っていたため、無視して、作業を続ける。
ヤプールは、こうなってしまってはダメだと作業に戻る。
『ワカナが聖剣争奪戦に出てくれれば、やる気が出るんだけどな?』
ヤプールがワカナをチラと見ながら、駄々をこねるように言い放つ。
『またその話ですか?私は良いんです。』
ワカナが小さくため息を吐く。
『だってさ、十二獣の討伐に最も近いワカナが、聖剣を取りに行かない意味は無いだろう?それに、バーンとの決着も見たい!』
ヤプールが得意げに大声で叫ぶ。
聖剣争奪戦とは、文字通り聖剣の奪い合いであり、前任の聖剣の所持者が寿命あるいは任務を終えるために、後継者を選ぶための戦いである。
特に、参加条件などは無いが、国中の強者が集まるため、自然と冷やかしなどは寄ってこない。
ワカナは、同じく騎士団のバーンと共に、次の聖剣所持者の最有力候補となっている。
『これ以上強くなってどうするんですか…。私はこの団の、シャクサスドーラを守れれば十分です。それに、あの人は苦手なので、話に出さないでください。分かったら団長、手を動かしましょうか。』
ワカナはそういうと、中断していた手を再び動かし始める。
しかし、ヤプールの集中力が戻ることは無い。
いかにして、暇を潰すかだけを考える。
『ワカナ男はいないのか。』
そして、クエストの依頼書を見がてら聞く。
『男ですか?』
ワカナは聞き返す。
『そうだ。お前、顔はめちゃくちゃ良いんだから男の1人や2人いて良いと思うんだけど。それに、騎士舎出て2年くらいは経ってるだろ?年頃の女なんだから、まさかやることはやってるんじゃ無いか?』
ヤプールは、ワカナを見る。
騎士舎とは、騎士が使う宿舎であり、主に独り身の者や若い騎士が団ごとに別れて、暮らすものである。
ちなみに、シャクサスドーラでは、ワカナと実家暮らしのキャサを除いて全員が騎士舎で暮らしている。
ワカナは黒髪ロングの美女で街に出れば男たちの目を引く美しさがあった。
『女性の言うセリフですかそれ…居ないですよ。興味ないです。』
ワカナはため息を吐く。
『子供モノ買ってたから、もしかしてと思ったんだがな…。』
『騎士学校時代の知り合いに贈ってるんですよ。』
ワカナがそう言いながら、僅かに目を逸らす。
『それじゃ、タイプとかいないのか?』
ヤプールが尋ねる。
『そうですね。強いて言うならば、強い男がいいですね。特段、これと言ったタイプが無いので、強いて言うならというレベルではありますけど。』
ワカナが顔に人差し指を当て、少し考えた後に答える。
『お前より強い男はなかなかいないだろ。』
ヤプールは呆れた顔をする。
『いえ、強いってのは単純な強さだけじゃなくて、信念を貫き通す強さとかそっちの方面ですよ。』
ワカナが答える。
『そうなのか。バカかと思っていたが色々と考えているんだな。』
ヤプールは素直に感心する。
『バカは余計だと思うんですが。』
ワカナは硬い笑顔でヤプールを見る。
『すまんすまん。じゃあ、ダリスクとかどうだろうか。』
『あれは無しですね。精神的にも単純な戦闘面でも弱いですし。眼中にないです。弟的な意味では可愛いですが。』
ワカナは相変わらず作業の手を止めることなく淡々とその言葉を発する。
『意外と辛辣なんだな。』
ヤプールは笑いそうになったが、周りの兵士の注目の的になるためなんとか堪える。
『優しいもんですよ。これでもオブラートに包んでますから。』
吐き捨てるようなワカナの言葉に、ヤプールは若干の苦笑いを浮かべる。
『そういうヤプールさんは誰かいないんですか?』
『私は…いいかな。あいつ以上の人間がいた時に初めて考えようかと思える。』
『前に言っていた高等学校…以前からの同級生ですか。』
ワカナが確認をするように問いかける。
『そうだ。死んだあいつ以上のやつはなかなかいないだろうけどな。』
ヤプールは昔を思い出すかのように遠くを見つめた。
『お話のところすいません。ヤプール・フェイ団長、ワカナ・オウカワ副団長。』
少しうわずった声を上げながら、騎士団の正装を見に纏い、やや早歩き気味で男性が近づく。
そして、近づくと腰をわずかに折り曲げ、頭を下げる。
『名は?』
ヤプールは厳粛な態度で尋ねる。
そこは団長である。オンとオフの使い分けは然りと行う。
こう言うところも、騎士団内での信頼が厚い要因となっている。
『五等兵のビダル・アマ・レイシェードであります。』
胸に手を当てながら答える。
その隊員は銀の長髪が生えるていた。
『そうか。で、どうしたんだ?』
『実は、今日とある依頼が入りまして。クエストをお探しなのであれば是非ともお願いを致したいと思い発言をさせていただきました。』
兵士は緊張ぎみに答える。騎士と兵士には明確な差があり、兵士をしているものは大体が騎士になれずになったものが多い、そのため決められているわけではないものの、明確に身分の違いがあるとの意識がある。
『どんな感じなんだい?』
ヤプールは尋ねる。
『こちらの依頼書にまとめてあります。』
兵士に渡された依頼書をヤプールが読み込む。
『なるほどな。』
ヤプールがそう呟いた。
『森ですか。たしかにここ最近の魔物の増加は気になりますね。3年前のこともありますし、一応私だけで偵察行きましょうか?』
ワカナが依頼書を覗き込む。
『いや、良いよ。暇だし全員で行こうか。』




