第二十三話 騎士が来た理由。
『約束の時間、とっくに過ぎてるわよ!どうしよう!』
アライアが、明らかに狼狽えている。
『お前が方向音痴なのが悪いんだろ!?それに、時間どころか、日にちすら超えてるぞ!!今日だって、お前が自信があるとか言ってついて行ったんじゃないか!』
ジェントは、アライアを責める。その口振りはアライアと同様に焦りを孕んでいる様子だ。
『黙ってついてきたのはジェントじゃない!それで自分を責めずに、私だけを責めるのはどうかしてるわ!』
二人は、とにかく焦っていた。そして、例の如く口論に発展してしまった。
『アライアが、「私に着いてくれば、ベルセンロ村なら6日くらいで着くから心配ご無用。」とかドヤ顔で言ってただろうが!なんで10日以上かかってるんだ!おかしいだろ!』
ジェントがまくし立てる。
『しょうがないじゃない!行ったことないんだからわかるわけないでしょ!それにジェントだって方向音痴じゃない!』
アライアは、開き直っている。
あー言えばこー言うの繰り返しで、このままだとラチが開かない。カイリはそう思い、口を開く。
『あ、あの。』
カイリは、意を決して二人の会話の間に飛び込む。
カイリの声を聞き、二人は口論を一旦止めて、カイリの方へと向く。
『ベルセンロ村を探してるんですか?それならちょうど自分も向かってますし、案内できますよ?』
それを、聞いてアライアとジェントの二人が顔を見合わせ、再びカイリの方へと向く。
『本当か、坊主!!いやー、助かったー!』
ジェントは、大きく息をつく。
『カイリ、ぜひお願いしたいわ!』
アライアも先程とは違い、ジェントを睨みつけるような目ではなくなり、目を見開き、テンションが明らかに上がっているようだった。
『では、ついてきて下さい。すぐに着くと思いますから。』
カイリはベルセンロ村の方向を向く。
『ありがとう、カイリ!』
アライアは、感謝を述べた。
ーーーそうして、カイリとアライア、ジェントの3人はベルセンロ村へと向かった。
そして、カイリの言った通りにすぐ到着したため、アライアとジェントは口を開き、唖然としている様子であった。
『アライア、謝罪の言葉はあるか。』
村の入り口に入る前にジェントがアライアに聞く。
『言葉は無いけど、心の中ではほんの少し、申し訳ないと思っているわ。』
アライアは、ジェントの方を向くことなく答える。
『口に出さないと伝わらないんだぞ。』
ジェントが言う。
『うるさい男ねぇ。』
アライアがすこしイラついたような感じで言い返す。
『お二人とも、無事についたんですし、良かったじゃないですか。』
齢7歳の少年が苦笑いをしながら騎士団の二人のフォローに回っている。側から見れば、理解し難い光景である。
ベルセンロ村の入り口へと向かう。
ベルセンロ村は、人口100人ほどの小さな村で、主に農作物を作り生活をしている。村の外周をぐるっと囲む木の柵があるが、大きなモンスター、それこそトロールが来てしまえば、倒れてしまうほどの策である。そもそも人の出入りが少ないというのもあり、村に入るのに、特に規制はなく簡単な身分確認のみで入ることができる。
『カイリくん、久しぶりだな。今日も小麦粉を買いに来たのかい?』
村の入り口にいる兵士に尋ねられる。
『はい、そうです。』
カイリは答える。
『そちらのお二人は?』
兵士が二人を指差す。
『ブワーフループのジェントだ。』
ジェントが挨拶をする。
『同じくブワーフループのアライアです。約束の時間に遅れてしまい申し訳ないです。』
アライアもすこし頭を下げて、ジェントと同じく挨拶をする。
『ああ、そうですか!お待ちしておりました。何日も来ないので心配していました。無事で良かったです。』
『ありがとう、ございます。』
兵士の言葉にアライアとジェントはすこし俯いている。
『先に来られた方があちらに。』
兵士は、そんなことは気にせずに手を伸ばす。
そちらを見ると入り口に近づいてくる男性が目に入る。
『おい、お前達、どこに行ってたんだ!先輩を3日も待たせるとは何事か!』
その男性が声を荒らげながら、メガネをクイとあげる。年齢は30歳ほどで、体は細身でそこまでの身長はない。カイリはひと目見ただけでおそらく魔法系の戦闘スタイルをする騎士だとカイリは感じる。
『すいませんね、ダリスクさん。次からは気をつけます。』
ジェントは、頭を下げる。
『私も反省してます。』
アライアも、同じく頭を下げる。
この人はアライアさんとジェントさんの上官なのだろうか。カイリはそう推測する。
『先輩を立てる態度がなっていない!そんなんだからいつまで経ってもお前達は!』
この人はなんなのだろうか。ジェントさんもアライアさんも明らかに呆れている。そして、先輩だと言うが、二人からは敬意が全く感じられない。カイリは疑問に思う。
『それに、なんだこの子供は!薄汚い!』
ダリスクは、そう言いながら、カイリの方を向く。
カイリは、慌てて服装を見る。
そんなに汚いであろうか。洗濯は結構してるんだけどな。カイリはショックを受ける。
『子供に、そんなこと言うのはおかしいんじゃないか?ダリスクさんよ。』
『そうよ、カイリが明らかにショック受けてるじゃないですか。』
アライアもジェントがダリスクに大声を出す。
『うるさいぞ!ガキども!口答えするな!』
それを聞き、ダリスクは怒りの形相でそう言い放ち二人を置いて、村の中へと入っていった。
『ごめんな、坊主。嫌な思いさせちまったな。』
『あの人、いつもあーいう感じだから。気にしないでね。カイリは汚くないから。』
ジェントとアライアは、カイリをフォローする。
『そうなんですね。ちょっとびっくりしましたが、ありがとうございます。あの人、不思議な人ですね。』
カイリは、自分の服をパタパタと払う。
『あいつはな、俺たちよりも12年も先輩なんだ。最初は期待されて入ったらしいんだが、あの性格のせいで全然出世出来ず、今や俺たちに並ばれている状態でな。』
ジェントは困った顔をする。
『だけど、先輩ヅラしていつまでも上から目線で接しているから、みんなから嫌われているわ。』
アライアも同じような表情になる。
『俺たちだけじゃなくて、自分よりも出世した昔、ブワーフループにいたすごか強い人と同期とかなんとか言っていつも威張ってやがる。』
『たしかに、その人は凄かったかも知れないけど、本人の力じゃないんだし、何を威張ってるんだか。』
アライアとジェントが愚痴を零す。
『困った人なんですね。』
そんな人がいるのかとカイリは苦笑いを浮かべる。
『本当にそう。』
アライアがカイリの言葉に同意し、ジェントも大きく頷いた。
『そういえば、小麦粉を買うんだろ?俺たちも付いていっていいか?すこし案内をしてもらえると助かる。』
ジェントは、カイリの方を向く。
『いいですよ。あんまり詳しいとは言えませんが、それで良いのなら。』
『あぁ、頼むよ。』
ーーーカイリは目的であった小麦粉を買い終えて、アライアとジェントと共に、3人は村の出入り口の方へと並んで歩っていた。
『そういえば、この村に来た理由ってなんですか?騎士が派遣されるってそれなりの理由があると思うんですけど。』
カイリは疑問に思っていたことを、二人に問う。
村や街で問題が起きたときは、大抵の場合はその土地にいる兵士が対処をして、それでも無理な場合は別の土地の兵士や冒険者が派遣される。それで大抵の問題は解決するのだが、それでもダメだった場合に騎士が派遣される。つまり、この村かこの村付近で兵士だけでは対応できない、何か大きな問題が起きたのだとカイリは推測をした。
カイリの問いに二人は顔を見合わせる。
そして、ジェントが口を開く。
『機密事項ってわけじゃないのだが、あまり大声をあげては話せないことだ。』
そう言うと、ちょうど近くにある木の根元へと座り、周りをキョロキョロ見る。
『実は、ここらへんの森で、2年近く前になるがイレギュラーモンスターの大量発生があってな。しかも、発生したモンスターが厄介なことにBランクのハイトロールだ。こんなものが出ては周りの村も危ないとのことで兵士の要請を受けて、俺たちを含めて20人のパーティーを組みここに向かったんだ。』
ジェントは、険しい表情で言う。
モンスターは、基本的には森からは出ず、比較的外側にある魔物がたまに出てくる程度である。森の奥にいるモンスターが外に出るということは、ほとんどない。
しかし、イレギュラーモンスターは普通とは違い、モンスターが森の外へと向かってくる。そのため、被害を出さないようにするため必ず討伐しなければならない。
『そうなんですね。』
カイリは多分ユーベリータが倒したやつだと心の中ですこし焦りを見せる。
『ただ、驚くことにハイトロールは全部倒されていてな。しかも、ほとんどの個体が剣で綺麗に一撃で仕留められていた。騎士団でも、なかなか手こずるであろう数を、傷口の形で見ても、恐らくそう多くはない人数で倒したのだろう。』
ジェントの顔がさらに険しくなる。
『そんな芸当をすることができるのは、騎士団以外では知らないし、多分不可能でしょう。だから、私たちは今、この地域を重点的に調べているの。』
アライアが話す。
『でも、今回はその調査のためじゃないですよね?』
カイリは尋ねる。
ハイトロールを討伐してから、何度かこの村を含む周辺の村を訪ねたが、騎士を見かけることはなかった。
そのため、恐らくその調査のことではないのではと、カイリは考えた。
『あぁ、今回は別件でな。実は森で、少年と少女が見かけたという報告が度々上がってきてな。』
ジェントの言葉にカイリはドキッとする。
十中八九俺たちのことだ。カイリの心拍数は自ずと上がる。
『狩りの練習とかしてるんだろと、最初のうちは報告を受け流していたんだがな。報告件数が多くて、さすがに放置するわけにもいかず、俺たち3人が派遣されたってわけだ。』
ジェントが今回の目的を話した。
カイリは正直に言うか、合わないかを心の中で天秤にかけたが、ユーベリータにとりあえず報告をしないとと考え、言わないことにした。
『まぁ、多分問題はないとは思うけどね。』
アライアが言う。
『万が一って可能性もあるが、その時は俺のこの大剣で叩き切ってやる。』
そう言いながらジェントは大剣を抜く。
『まずは確認でしょ。敵じゃなかったらどうするの。これだから脳筋は。』
アライアは、手を横に広げて呆れた仕草を見せる。
『脳筋て言うな、単細胞女!』
『何か、文句あるのかしらお馬鹿さん。』
再び、アライアとジェントが喧嘩を始めた。
『やめてください二人とも!どっちもどっちですから。』
二人は喧嘩をやめて、周りを見る。村人数人がこちらを見ていた。
『この村は、良いところだな。人は暖かいし、料理はうまい。』
ジェントは、誤魔化すように呟く。
『そうね。パンも美味しいけど、あんなに美味しいお米、初めて食べたわ。』
アライアは、笑顔である。
米は、王都では主に備蓄として使用されている非常食的な側面が大きい。そのため、騎士の口に入るのは討伐や遠征を行う場合に持っていく乾飯という、炊いた飯を長持ちさせるために乾燥させ玉野の場合がほとんどある。乾飯は、炊き立てよりも味が余るため、あまり人気がない。
『そうですね。この村のお米はとても美味しいですし。たまにお米を買って帰ることもあります。』
カイリは話す。
事実、この村は米の名産地として有名である。
『そういえば、カイリは、この村に住んでいるわけじゃないのよね?』
アライアが尋ねる。
『いえ、自分は別のところに住んでて、小麦が足りなくなったのでこの村に買いに来ました。』
カイリが答える。
『具体的にはどの辺り?』
アライアが踏み込む。
『えっと…。その…。』
カイリは焦り、口籠る。
アライアは、ジッとカイリを見つめる。
『住んでいるところは村?それとも…。』
アライアがさらに続けようとしたが、
『アライア、あんまり踏み込むんじゃねーよ。誰にだって言いづらいことはあるだろ。』
アライアの頭を叩く。
アライアはすこし考える。
『そうね。ごめんねカイリ。』
そして、謝罪をする。
『いえ、大丈夫です。』
カイリは、安堵する。
この人たちとこれ以上いるのはまずいかな。
この二人にならバレても問題ないだろうけど、もう一人に辺に疑われる可能性もある。カイリは、そう考える。
『僕はこの辺で帰ります。』
カイリは二人に言う。
『そうなんだ、送ってあげようか?』
『言え、大丈夫です。これがあるので。』
カイリはそう言いながら、腰にある剣を指差す。
『そうね。君なら大丈夫かな。』
アライアは、笑う。
『気を付けろよ、坊主。』
ジェントが腕を組みながら言う。
『また会えたら会いましょう!』
アライアが手を振る。
『では、ご縁があったらまた会いましょう。』
ジェントとアライアに腕を振る。
カイリは二人と別れ、帰路についた。




