第二十二話 村と騎士
あれから1年以上の月日が流れ、先の戦闘でカイリの負った怪我はすっかり癒えた。そして、以前にもましてユーベリータの修行が厳しくなり、完全に日常に戻った。
しかし、今日はいつもよりも早く修行を切り上げていた。そして、カイリは1番近くにあるベルセンロ村へと向かっている。別に何か大きな問題が起きたためでは無い。村へ向かっている理由は、パンを作るための小麦粉が無くなってしまったためである。
この程度の理由であれば、わざわざ大きな街へ行く必要も無い。そのため、カイリはベルセンロ村へと足をすすめている。
ーーー『ユーベリータも来れば良いのに。』
カイリは小さくため息を吐く。
ユーベリータは、街に行くのを嫌っている。理由としては、世間をあまり知らないため、すぐにぼったくられてしまうことと、街行く人に声を掛けられるかららしい。
『ユーベリータのことを見ればそうなるのかな。』とカイリは納得する。
すでに歩き始めてから、時間が経ち道中特に何か問題があるわけではなく、順調に進んでいる。
『まだ、あるな。』
カイリは呟く。
距離にしたら後、2.5kmほどであろうか。カイリは何度か村に行ったことがあるため、今いる場所から大体どのくらいの距離があるかを把握できるようになっていた。
道中には、Dランクの森がある。森を避けようと思えば避けられるのであるが、その森がDランクであり、カイリ一人でも対処出来るということと、森を避けると遠回りになってしまうという点を考慮してあえて森の中を歩いている。
『今日はモンスターが出てこないな。このまま行けそうかも。』
カイリは普段なら数回遭遇をしてくるモンスターを狩りながら進んでいるのだが、今日に限ってはまだ遭遇をしてはいなかった。
そんなことを口にすると、大体モンスターが現れるもので、カイリの目の前に、モンスターが3頭現れる。
Eランクのベビータイガーである。
成長をすると、Cランクのハイタイガーとなるのだが、それの子供のベビータイガーは、親元から離れて兄弟で連携をして襲ってくる。人間を積極的に襲っては来るか、そこまでの危険は無い。
『三頭か。ちょうど良いな。』
カイリは腰につけた剣を抜く。ベビータイガーは放っておくと人里に現れる事がよくあるため、見かけたら狩るというのが基本となっている。
『魔剣は無いけど、この程度なら問題ないか。』
カイリは今、魔剣を持っていない。
と言うのも人間のある街に入手することが難しい魔剣を持ち込んでしまい、それを見られると盗賊に狙われてしまったり、逆に盗んだのではないかと疑われてしまうからである。
そのため、街に魔剣を持っていくことはユーベリータに固く禁止されており、カイリもそれに素直に従っている。
しかし、今のカイリはベビータイガーくらいであれば問題なく対処出来るほどの強さを持っている。
『よし!』
とカイリは呟くと、左側のベビータイガーに狙いを定め、足に力を入れる。
そして、いざ飛びかかろうとした。
『大丈夫かぁ!』
その刹那、ベビータイガーの反対から野太い男の声がした。予想外の出来事にカイリの意識はベビータイガーではなく声の主の方へと向く。敵か味方か、カイリの頭の中は様々な思考で埋められていく。
しかし、その声の主はカイリを飛び越え、ベビータイガーの元へと行き、手に持っている体ほどの大きさはあるであろう大剣を片手で振り回す。
ブン。と重い空気の音を出しながら放たれた斬撃は、剣の射程の中にいた二頭を斬り裂いた。それも正確に一発で仕留められるであろう首を狙ってである。
斬撃から逃れた一頭は本能で危険だと感じ取ったのか、その男に狙われる前にすでに逃げの態勢を取っていた。
『この、待ちやがれ!』
その男がベビータイガーの方へと向き、追撃の構えをとる頃にはすでに逃げ出し、カイリの方へと向かってきた。
カイリは今度こそとその場でじっと構え、ベビータイガーが飛びかかるタイミングを図った。
しかし、その瞬間にカイリは背後からの攻撃を感じ取り、しゃがみながら右側へと回避をした。
そして、その攻撃がカイリに飛びかかろうとしていたベビータイガーの胸に命中し、絶命した。
『矢、どこから?全く気づかなかった。』
カイリは、矢が放たれたであろう方向を見つめる。
そこから、矢がつがえられていない状態の弓を持っている女性が姿を現した。カイリは、俺の背中越しに、俺に当たらない軌道で、ベビータイガーを狙ったこの女性が相当な手練れであると直感をした。
『怪我は無いか?坊主。』
男が大剣を地面に突き刺す。その男の身長は190cm を超えているであろう。筋骨隆々の体をしており、特に丸太のように太い腕が特に目を引く。あれだけ大きく、重いであろう大剣を軽々と扱うあの姿にカイリは納得をした。
『怪我は無いので、大丈夫です。守ってくれてありがとうございます。』
カイリは感謝を述べる。
『良いのよ、お礼なんて。』
その女性がカイリに近づき、声をかける。年齢は20代前半くらいで、黒髪をミディアムショート程の長さで整えている。綺麗な女性という言葉が似合うであろう見た目をしている。
『いえ、お姉さんとお兄さんが守ってくれたのは事実ですし。』
今度は、頭を下げる。
『礼儀正しい坊主だな。俺の名前はジェント。よろしくな。』
ジェントはカイリに手を差し出す。カイリも手を差し出し、握手をする。その手は固く、ゴツゴツしている手であったため、今まで修練を重ねてきたのであろうと感じた。
『私は、アライアよ。よろしくね!』
アライアとも、同じように握手をする。見た目とは違い、左手の小指に弓使い独特のタコがあった。
『はい。自分の名前はカイリと言います。お二方、よろしくお願いします。』
カイリは挨拶をする。
『かわいいわね!弟ってより、息子かしら!』
アライアはそう言いながら、カイリの頭を撫でる。
『いや、お前はそんないい子育てられないだろ?』
ジェントはアライアに対してそう言う。
『ジェントこそ、そんなガサツな性格じゃ、結婚すら出来ないだろうね!』
アライアは言い返す。
『なにを!俺にだっていいところあるんだぞ!』
そう言いながら、二人で口論を始めてしまう。
困ったカイリは、口を開く。
『お二人とも、騎士団なんですか?』
カイリの言葉にハッと我に帰ったのか、口論をやめる。
『ごめんね。恥ずかしいところ見せちゃって。』
アライアは苦笑いをする。
ジェントも同じように苦笑いをしていた。
『私たちは、カイリの言う通り、騎士団に所属してるわ。名前はブワーフループ。規模も大きく無いし、あんまり強くは無いわね。』
騎士団は街の犯罪を取り締まったり、街の監視などをする、治安の維持を目的としたりする兵士とは違い、魔物の討伐や調査を専門として行う。
冒険者とは違い、出世をしなければ、大きな額は稼げないが、安定して給料をもらえることと、騎士団はモンスターを狩る、憧れの存在としてあるため、とても人気がある。
そして、魔物と戦う騎士団は、大きなカテゴリの騎士団のその中でも14個に分かれており、それぞれの騎士団が切磋琢磨をしている。
ただ、魔物と戦う騎士団は、一枚岩とは言えず、騎士団の間でいがみ合っているところもあるほどだ。そのため、優秀な人材を引き抜き合戦が行われている。ただ、騎士団に入るためには必ず騎士学校に1年間通わなければならず、1年間通ったとしても騎士団に入れるとは限らないなかなかにハードなものとなっている。
『騎士団所属ってすごいですね。自分も本当に憧れてますし、すごく羨ましいです。』
カイリはそう言いながら目を輝かせる。カイリの憧れの一つに騎士団が入っているためである。
『まあ、俺は弱いけどな。騎士学校だと下から2番目のEランクだったし、俺なんか陽魔法しか使えない上に、魔力量も700も無いから、スピードアップ系なんかクイックも使えるか怪しいしな。』
ジェントはハッハッハと豪快に笑う。
カイリはユーベリータと同じだと口から出かかる。
『私は、火魔法と少しなら水魔法を使えるわ。魔力量は9600。ちなみに騎士学校では、私はちょうど真ん中のCランクだったわ。本当は魔法使いとして行きたかったんだけど、ちょっと魔力が足らなかったからこれを使ってるわ。』
アライアは、そう言いながら、弓を指す。
『そうなんですね。本当に強くて羨ましいです。』
カイリは素直に呟く。
『いや、その歳なら、坊主はまだまだこれからどんどん強くなって行くかもしれないだろ。』
『そうだよ。無限の可能性があるから。』
『そうですか。そう言ってもらえて、とても嬉しいです。』
カイリは、本心でそう思う。
『でもさ、カイリ。』
アライアが、カイリに聞く。
『なんですか?』
カイリは、聞き返す。
『カイリって実は強かったりする?』
アライアは唐突に聞く。
『え?』
カイリにとって、アライアの言葉が予想外だった。
『さっき、ベビータイガーと戦っていた時、私の放った矢を、躱してなかった?』
アライアがカイリに疑問をぶつける。
『おいおい、そんなわけないだろ。お前の矢は坊主の死角から当たらないように、撃ってたんだし気づかないだろ。たまたまじゃ無いのか?避けられるのなんて、騎士団の中でも少ないじゃ無いか?』
ジェントは、笑う。
死角から放たれた攻撃を見ることなく、避けることは、このような子供では不可能であると考えているからだ。
『でも、タイミング的にベビータイガーの攻撃を避けたというよりも明らかに私の矢を避けたっていう方がしっくりくるのよね。』
アライアは首を少し傾げる。
『ベビータイガーの攻撃が怖くて足がすくんでしまって、なかなか動かなかったんですよ。』
カイリは変に目立つことを避けるために、本当のことは言わなかった。
『そうだろう?アライアも変なところで考えるんだよな。』
ジェントは、アライアに笑いながら話す。
『そうかな。』
アライアは、少し納得がいかない部分があったものの無理に納得をする。
『はい、自分は気付かなかったですよ。』
『そういえば、アライア!俺たち、村に向かってる途中だったじゃ無いか!』
ジェントは何かを思い出し、声を上げる。
『そうだった。早くいかないと。』
アライアも何かを思い出したようだった。




